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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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バクチ・ダンサー⑥

1.Oh! サムラーイ!!


「生と死は命の両輪。決して切り離せるものではありませーン」

「何やボブ、いきなり何言うてんねん」


 菅連所有の雑居ビルの一室。

 そこがボブに割り当てられた跡目戦争の間の拠点だった。

 新喜劇を見ているといきなり訳のわからないことを言い出したボブに仲間達は胡乱な視線を向ける。


「分かりませんカ? ワタシが言いたいコト」

「分かるかいや。おどれ、傍から見たら電波さんやからな?」

「……ご高齢の団員サンが亡くなることで、これまで当たり前に在った“お約束”がなくなってしまうんデスヨ」


 ボブは目頭を押さえながら続けた。


「三途の河ヤ……パチパチパンチ……失われたものの大きさに、ワタシは胸が押し潰されそうデース」

「ちょお待てや。そら俺もあん人らがおらんくなったんは寂しいけど、どっちもおどれの来日前やろがい」

「せやせや。お前が大阪来たん何時やっちゅー話や」

「時間は関係ありませーン!!」


 ボブがこんなになっているのは友人達が各ご家庭で録画した昔のビデオやらDVDを見たせいだろう。


「祖父の葬式に出た時でさえ、ここまで強く死を意識したことはありませんデシタ」

「祖父ちゃん可哀想過ぎやろ」

「もっと悼まんかい」

「なるほど、この悲しみから逃れるために人々は古来から不老不死を求めたのデスネ?」

「人の話聞けや」


 はぁ、と仲間の一人が深々と溜息を吐き、こう切り出した。


「それよりや。例の中坊、どないすんねん?」

「ここはわしらのホームやないねんで? ろくすっぽ手がかりが得られんまま明日も市内ぶらつくつもりなんかい」

「このままやったら他の連中に先越されてまうで」

「hmm……どうするかはさておき、他のライバル達に先をというのは心配しなくて良いんじゃないデスカ?」


 ボブの言葉にその根拠は何だと仲間達が迫る。


「そう簡単にやられるようなら“的”にかけられるわけないデショ」

《む……それは……》

「知ってるのは顔ダケ。名前も、どこから来たかも分かりマセン」


 だがその力だけは確かだろう。

 菅原會の跡目候補に選出されるのだ。ボブも含めて生半な者達ではない。

 そんな彼らが一斉に狙っても問題ないと、当代――高杉は考えている。

 でなければそもそも的にかけられはしない。だから今はまだゆっくり構えていても問題はないとボブは言う。


「ところで良い時間だし、そろそろご飯に行き……オヤ?」

「どしたんや」


 ボブが入り口に視線をやった次の瞬間、勢い良く扉が開かれ、


「御用改めである!!!」


 浅葱色のダンダラ羽織を纏った少年達が部屋の中に踏み込んで来た。


「Oh! サムラーイ!!」


 ボブ、大歓喜である。


「えぇ……? 何この出オチ……」

「どう反応したらええねん」


 一方、仲間達は微妙なリアクションだった。

 それを見て先頭に居た笑顔が眉を顰めながら言った。


「どうすんだよ酒井。めっちゃ滑ってるじゃん。笑いの本場のお方々を白けさせちゃってるじゃん」

「いやいや、あれらはオマケや。見てみい、ボブは大喜びでパシャっとるやんけ」

「あんなテンプレ外国人ムーブ初めて見たわ……」


 何だって笑顔達が新撰組のコスプレをしているのかと言えば酒井の提案である。

 観光がわやになったし少しでも京都気分を楽しんでもらい、尚且つボブ達も楽しませてあげようとかどうとか。

 そんな感じで酒井の高級口車にまんまと乗せられてしまったのだ。


「ちゅーか、あの子。例の子やないか?」

「ボブ」


 仲間達もようやく気付いたらしい。ボブに話を振ると彼は小さく咳払いをして口を開いた。


「まずは素敵なサプライズに感謝を。して、何用でしょうカ?」

「見当はついてるんじゃない?」

「潰される前に、デスネ。嫌いじゃありませんヨ。そういうの」

「夕飯時だし、これからご飯だってんなら待つけど?」

「いえ問題ありまセン。ただ、ここで暴れるのはちょっと申し訳ないので」

「大丈夫。場所はもう見繕ってある」

「Oh! 準備が良いデスネ」


 とんとん拍子で話は進み、彼らは少し離れた場所にある建設現場の中へと入って行った。

 既に人ははけていて無人。囲いが人目を遮ってくれるので思う存分暴れられる。


「始める前に名乗っておくよ。俺は花咲笑顔だ」

「ワタシのとこ来たわけだし、知ってると思いますがボブデース。Mrスマイル。その格好でダイジョブ?」

「これで結構、動き易いから問題はないよ」

「ソデスカ」


 ボブが上着を脱ぎ捨て、軽く首を捻る。


「アナタからすればワタシや他の候補者は、理不尽に喧嘩を売って来たワケの分からない連中デショウ」

「そうだね」

「ナノデ、一発はお譲りしまス」


 そんなことをするぐらいなら最初から喧嘩を売るな。

 それを言われれば返す言葉もないが、戦いを止めることは不可能だ。

 だって好きだから。男二人並べてどっちが強いかを決めるのが。

 得体の知れない花咲笑顔という少年に対する好奇心と血の滾りは止められない。

 だからボブは気分良く喧嘩をするためにそう提案したのだが、


「遠慮しておくよ」


 あっさりと拒否された。


「――――それを負けた時の“言い訳”にはされたくないからね」


 そして何とも傲岸で素敵な言葉を返されてしまった。

 ボブの口元が弧を描く。しかし彼の仲間はそうではないようで、


「あぁ!? 上等くれとるやんけ!!」

「ハイハイ、落ち着きなサイ」


 一歩、前に出る。


「デハ、遠慮ナク」

「どこからでもご自由に」


 年上で、体格も自分の方が圧倒的。

 笑顔はこちらを見上げているのに、まるでこちらが挑戦者であちらが王者のような有様だ。

 そのことにおかしさを覚えながらボブが放ったのはジャブ。速さに重きを置いた当てるための攻撃。

 だがボブの膂力から繰り出されるそれは速さもさることながら威力も並の不良のストレートよりよっぽど上。


(躱した!?)


 しかも皮一枚。

 ひやりと首筋に悪寒が走る。咄嗟に腕を挟むと凄まじい衝撃がボブを襲った。

 ジャブの返礼はハイキック。それも消えたとしか形容が出来ないほど速く鋭い蹴りだ。


「……おい、あれホンマに中坊なんか?」

「おう、何なら学生証見せてやろうか?」


 ボブの仲間が目の前で繰り広げられる攻防を見て唖然と呟くと南が笑いながら答えた。


(Beautiful……)


 一方のボブは感極まっていた。

 笑顔は強い。間違いなく自分がこれまで戦って来た男たちの中で一番だ。


(何とテクニカルで、それ以上にクレイジーなんデショウ……!!)


 ボブと笑顔では同じ攻撃を喰らっても受けるダメージは違う。

 その華奢な身体ではボブの攻撃を一発喰らうだけでも事だろう。

 だというのに、だというのにだ。


(離れナイ……ッ)


 近距離での攻防を続けている。

 少しでも攻撃力を殺すため距離を潰している? 否、彼はこちらが全力を出せるギリギリの距離で戦っている。

 はっきり言ってあちらにメリットは皆無だ。

 なのにこちらの攻撃を躱し、防ぎ、いなし続けている……防戦一方だというのであればそう大したことではない。

 だが驚くことに笑顔は苛烈にこちらを攻め立てている。

 凄まじい技術だ。凄まじいクソ度胸だ。恐怖など微塵も感じられない。


「ホント、京都に来てヨカッタ……!!」




2.陽キャめ……


 膂力もさることながら、バネも凄まじい。

 しなやかな筋肉が生み出す動きは脅威の一言だ。

 同じ外人さんでもジョンとは全然、違う。あれは恵まれた肉体に胡坐をかいていただけだからな。

 だがボブはその肉体を扱う努力にプラスして天性のセンスもある。


(喧嘩スタイルの根っこにあるのは多分、ボクシングかな?)


 初手のジャブ、構え、スウェーなどの動きからして多分合ってると思う。

 じゃあ、ボクシングにない攻め方をすれば有利になるのかと言えばそんなことはない。

 あくまで基礎がそこにあるというだけだ。拳ほど多くはないが蹴りも使って来るしな。


(九十九との戦いがなければやばかったな)


 こういうしっかりした技術が土台にある相手と戦った経験がなければ、もっと苦戦していただろう。

 いや、こういう相手とぶつかる可能性があったから武を修めた九十九とマッチングしたのか?

 技術で言えば九十九のが上だけど、あっちは精神的にガタガタだったからな。

 付け入る隙があったし、俺も九十九が相手だから喧嘩の範疇を超えた立ち回りをしていた。

 ゆえに十分、経験を積めた。技術をコピったりとかな。


「アナタ、怖くナイノ!?」


 ボブが楽しげに言う。


「逆に聞くけど痛いは怖い?」

「楽しいデスネ! 単に痛いだけならヤですがこういうバチバチしたバトルの中でならオールOKデース!!」


 バトルジャンキー……とはまた違うか。

 どっちかと言えばスリルを楽しんでる? どっちにせよこの手のキャラは厄介だ。

 悪いことをしているわけでもないし何か重いものを背負っているわけでもなくただ楽しんでいるだけ。

 デバフがかかることもなく楽しんでいる限りバフは乗り続けるだろう。だってそういうキャラだから。

 なら白けさせてバフを打ち消せば? 出来なくはないがそれをやると俺の“格”が落ちてしまう。

 先々のことを考えるとつまらない喧嘩をする男だという永続デバフを刻まれることは避けねばならない。

 白けさせる攻略法を使えば酒井も離れていくだろうしな。


(んんんん……! 面倒臭い!!)


 つまり最適な攻略法は一つだけ。

 楽しませ続けることでバフをガンガン乗せて、その上で俺がそれを上回る……だ。

 俺だってホントは、近距離戦なんてやりたくねえんだよ。小パンでも当たったらHPゲージ二割ぐらい削られそうだしさぁ。

 全部的確に捌き続けるって半端ない消耗なんだぞ? まあその代わり捌き続けることで俺にもバフが乗っかるんだがな。

 とは言え当たればそれも全部、帳消しだ。攻撃を喰らわない限りって条件付だからな。


(そろそろ、新しいバフを乗っけなきゃ……)


 首が飛ぶんじゃねえ? って勢いの右フックをスウェーで回避し距離を取る。

 え、距離を取って良いのかって? 大丈夫、問題ない。

 俺は羽織を脱ぎ捨てゆっくりと“ファイティングポーズ”を取った。


「アッハ☆ 正気デスカ? ワタシとボクシングで張り合う気?」

「ああ、大体動きは覚えたからね」


 九十九ありがとう。お前との一戦がなければ俺にラーニングなんてスキルは芽生えなかっただろう。

 あの時、この局面で俺が武をパクればキャラの格が上がり面白くなるだろうと技術を得た。

 戦いの中で相手の技術を学習し会得、最適化するという描写が成されたことで俺に新スキルが生まれたのだ。


「……今直ぐにでもハグしてKISSしたいぐらいネ。ワタシ、アナタにメロメロデース」


 ほんのり頬を染め、ボブは言った。

 どうでも良いけどコイツ、かなりの色気だな。今だってエキゾチックな色気がムンムン漂って来てる。

 でもデブ専なんだよなコイツ……好みは人それぞれだが最低80kgはハードル高いわ。

 ボブに惚れちゃった女の子がちと哀れだ。


「君がキスするのは“ココ”だよ」


 踵で地面を叩いてやるとボブはヒュー! と口笛を鳴らした。


「第二ラウンド、デスネ」

「そして最終ラウンドだ」


 ふぅ、と小さく息を吐き出し俺達は同時に叫んだ。


「ゴングを鳴らせ!!」

「ゴングを鳴らしてくだサーイ!!」


 言うや酒井がニヤリと笑い、何時の間にか手にしていた鉄パイプで資材をぶッ叩いた。

 甲高い金属音が鳴り響くと同時に俺達は同時に駆け出した。

 強烈な左の刺し合い。直撃こそしていないが掠める度に肌や服が切れていく。

 これはヒット判定にはならない。絵的に映えるから多分、俺にもボブにもバフが加算されている。


(しかしお前、ホント楽しそうだな!?)


 これは光のヤンキーとかそういう分類ではなくそう……陽キャだ。


(陽キャめ……陰の者を舐めるなよ!!)


 つーか世界もひでえわ。陰の者に陽キャをぶつけるなんてさ。

 陽キャっつーなら金銀もそうだけど、アイツらタイマンした時は真面目だったしな。


(……よし、大体リズムは分かった)


 あと四回。四回攻撃繰り出した後に、ドデカイ大砲が来るだろう。

 楽しみバフが盛りに盛られまくった大砲だ。速さも威力も段違い。

 などと考えていたが認識が甘かった。


(――――あ、これ当たったら死ぬわ。バフ乗せ過ぎた)


 全てがスローモーションになった。

 迫る拳は俺に死を強烈に意識させた。だからこそ、俺は敢えて拳に向かって行った。

 ビビった奴が負ける。ここはそういう世界だから。

 踏み込んだことは正解だった。拳が凄まじい風切音と共に顔の横を通っていく。

 深々と切り裂かれる頬の感触を無視し、俺は渾身のカウンターをボブに見舞った。


「……テンカウントは要らへんな」


 吹っ飛び、崩れ落ちたボブはぴくりとも動かない。

 つまりはまあ、俺の勝ちである。

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― 新着の感想 ―
[一言] むしろバフをかけまくることで両者共に一撃ノックの火力まで高めた!!
[良い点] だって好きだから。男二人並べてどっちが強いかを決めるのが。 ボブちょいタカミナみたいなだな。 捌き続けることで俺にもバフが乗っかるんだがな。 コンボ繋げるだけ攻撃力上がるゲームのシステム…
[良い点] 連続更新嬉しすぎます……! そしてやはり最高に面白い(//∇//)
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