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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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バクチ・ダンサー⑤

1.つまんねーだろ?


「ふぅ」


 京都市内のとある病院の屋上では肩にコートを引っ掛けた浴衣姿の男が一人煙草を吹かしていた。

 伊達男、そんな形容が似合う彼の名は高杉 晋也(たかすぎ しんや)。関西広域連合菅原會の現會長。

 そして花咲笑顔を面倒事に巻き込んだ元凶である。


「ダディの奴は早速リタイアしたらしいが」


 今日の昼頃に届いた知らせだ。

 聞いた時はそれはもう笑った。随分と洒落た喧嘩をする男だと。


「よりにもよって五条大橋だもんなぁ」


 ある意味で曰くつきの場所だ。

 あんなところで線の細い美形と厳しい巨漢が戦うなんて出来過ぎだ。

 まるで世界そのものが舞台を盛り上げようとしているなんて馬鹿な妄想を抱いてしまうほどに。


「はてさて、滑り出しは順調だがどうなることやら」


 一本目を吸い終えおかわりをしようとしたところで屋上の扉が開かれた。


「あー! お前また! 病人なんだからヤニ吸ってんじゃねえよ禿!!」

「いや禿てねえよ」


 うるさいのが来たとぼやく晋也だがその顔は楽しげだ。

 ガミガミと説教をする彼の名は前原誠一。晋也の右腕だ。


「ったく油断も隙もありゃしねえ。口寂しいんなら飴でも舐めてろや」

「いやお前……この歳でぺロキャンて」


 男子高校生が鞄からぺろぺろキャンディを取り出す絵面がもう面白い。


「ったく見舞いに来るたんびにこれじゃねえか」

「一々来なくて良いだろうに。今回も数日がかりとは言えただの検査入院なんだしよぉ」


 投薬やら何やらで多少の不自由はありつつも普通に暮らせているのだ。

 心配性の友人に苦笑しつつ、晋也は話を振った。


「それより聞いたか? ダディがやられたぜ」

「知ってる。しかもパツイチでだろ? あのダディがなぁ……信じられねえよ」

「俺はそうでもないがな」

「そりゃお前は例の白髪くんのことを知ってるからそうなんだろうぜ。だが俺らは何も知らねえんだぞ?」


 いい加減、教えてくれと言う誠一にしょうがねえなと晋也は語り始める。


「夏休みに俺、関東の方に行ってたろ?」

「ああ、小六の時に転校してった幼馴染に会いに行ったんだろ」

「おう。そこであの子のことを知ったのさ」


 ぺろぺろとキャンディを舐めながら晋也は続ける。


「当時、あの街では近隣の市も巻き込んだデカイ喧嘩が起きてたのよ」

「ほう?」


 当時の情勢を軽く説明してやると飲み込みの早い誠一は直ぐになるほど、と頷き返した。


「支配なんてクソ喰らえ。自由を求めて抗う奴ってのぁ、どこにだって居る」


 それは菅原會が支配する関西圏でも同じことだ。

 菅原會という大樹の陰に寄らず独立独歩を貫く気骨のある勢力は幾つも存在している。

 そういった勢力を傘下に収めようとする動きをしていないから揉めていないだけで、支配を望めば確実に牙を剥くだろう。


「三代目悪童七人隊(ワイルドセブン)に対抗するべく集った七チームの内の一つ、塵狼の長があの子――花咲笑顔だった」

「なるほど……しかし、高校生同士の争いに中坊が参加してんのか。悪童七人隊ってのは随分とまあ」

「ああいや、塵狼……ってより花咲笑顔だな。あの子が巻き込まれたのはプライベートで悪童七人隊傘下のチームの幹部をぶちのめしたからさ」


 面子のためであり別段、悪童七人隊側が積極的に中学生を巻き込もうとしていたわけではない。


「それはともかくだ。七チームは連合を組み悪童七人隊と戦うことを決めた。掲げた旗は叛逆七星(ワイルドセブン)

「そりゃまた皮肉が利いた名前だな」

「発案者はあの子で、連合の頭もあの子だ」

「ふむ? 角が立たないように……ってわけじゃねえな。現状を鑑みるに」

「おう。最初は俺もそう思ったが蓋を開ければ全然よ」


 リアルタイムで追っている時は分からないことも多かったが、今なら流れは完全に把握している。

 叛逆七星、ひいてはその頭目である笑顔が作り出した討伐までの流れを語ると、


「…………マジに中坊なの?」

「マジもマジよ。しかもだ、不良として活動し始めたのは去年の五月からそこらだぜ?」

「在野には恐ろしい奴も居るもんだなぁ」

「ああ。馬鹿が馬鹿やらかさなきゃ一生、大人しくしてただろうにな」


 眠れる獅子を起こしてしまったことで劇的にあの街の環境は動き始めた。

 晋也個人としては馬鹿をやらかした者らに感謝している。何せ、そのお陰で今こうして楽しめているのだから。


「こっちに戻ってからもダチに定期的にあの子の情報流してもらっててな」

「夏以降にも何かあったのか?」

「ああ、飛びっきり複雑なのがな。それもあってあの子を巻き込もうと思ったのよ」


 笑顔からすれば迷惑千万この上ないだろうが、やらずにはいられなかった。

 だって面白そうだから。高杉晋也という男は、面白さを何よりも好む男なのだ。


「はぁ……で、お前は彼に何を期待してんだ?」

「新しい風」


 変革の兆しだ。

 西の情勢は良く言えば安定している。悪く言えば惰性に沈んでいる。


「廻ってねえ風車を見てて何が楽しいよ?」

「テメェはどこの大蛇●様だよ」

「今日は銀色のヤツで優勝していくわね」

「やめろ」

「チッ……まあともかくだ。別に望んで就いた地位ではねえが菅連の會長として俺もそれなりに色々考えてるのさ」


 自身の病という不測の事態によって始めなければいけなくなった跡目戦争。

 何もしなければ候補者同士が相争ってそれで終わっていただろう。


「それじゃ、ダメだ」

「……何でよ?」

「このまま変わり映えしねえまま続けば菅連はいずれみっともない幕引きをする羽目になる」


 晋也はそう断言した。


「……」

「これが天下国家の話なら変わり映えがしねえってのも一つの成果で選択肢と言えようさ」


 発展途上国ならともかく日本なら今が続いていくことはそう悪いことではない。


「だが俺達の居る世界はそうじゃねえ。新しい波は何時だって後ろからやって来てる」


 今までは上手いこと乗り切れていたがこの先は?

 東では既に花咲笑顔のような新世代が頭角を現し始めているのだ。


「俺らが知らないだけで他にも沢山、居るかもしれねえ。そんな奴が台頭した時、菅連はどうなる?」

「どうなるって……」

「しみったれた惰性に浸り切った図体だけはデケエ腑抜けどもなんぞ真っ先に引導を渡されちまうよ」


 それはあまりにも情けない。


「だから賭けたのさ。花咲笑顔なら何かやってくれるんじゃねえかって“予感”にな」

「……言いたいことは分かった。そういうことなら俺は何も言わねえ。會長の判断を信じるよ」

「おう」

「でも、全部終わったら彼には侘びを入れに行かなきゃなぁ」

「全部終わったら、ねえ」

「?」

「クク、何でもねえよ」




2.ブラザーやんけ!


 酒井の協力を得られたとは言え、即座に情報が集まるわけではない。

 先々のことを考えるとこのまま観光に戻ることも出来ないので、俺は奴の提案で市内のとある雀荘へと身を寄せた。

 悪いがタカミナ達にも付き合ってもらった。直接の標的は俺の所在を知るために三人を狙う可能性もあるからな。


「束の間見えた萬子はカンに溶け天に昇った。酒井、無法のドラ単騎……!」

「何一つ合ってねえだろ」

「カンドラも含めてドラはニコが全部、確保してるしな。まあ裏については分からんが」


 そうね、ついでに言うならドラ捨てたの酒井だし。

 ええはい、鳴かせてもらいましたよ。

 配牌の時点でドラ3来た時はお、って思いましたよ。カンするかどうか迷ったんだがまあとりあえず鳴いておこうかなと。


(正直、麻雀あんまり詳しくねえからなぁ)


 前世で会社の付き合いのために勉強しただけだからな。

 それにしたって上達し過ぎて勝つと上司の機嫌が悪くなるから本当に最低限だし。

 点数計算なんぞ出来ないし、役だって簡単なのだけ。

 そんな状態で打つから当然、不手際も多々ある。上司が悪態を吐きながらもマウント取ってご機嫌だったっけか。


(……いかん、思い出したら殺意が沸いて来た)


 だから嫌だったのだ。

 酒井が待ってる間、暇だしと誘うもんで断り切れなかった。


「ところでもう五時過ぎやけどホテルに一旦戻らんとまずかったりせえへんのけ?」

「ああそこは大丈夫。俺は腫れ物扱いで全日程フリーが約束されてるから」

「えぇ……? どんだけビビっとんねん」


 こんだけビビられとんねん。


「でもタカミナ達はまずくない?」

「あ? あー、まあダチに頼んどくし大丈夫だろ」

「そもそもうちは不良校だしね~。昨日も特に点呼とかなかったし」

「全体的に放任主義だ」


 こっちはこっちでどうなんだ。いや、ありがたくはあるんだよ?

 でもこの投げやり感は教育機関として如何なものか。


「それはさておとくとしてだ。酒井、優勝候補と目されているトップ3ってどんな感じなの?」

「ん? ああ、そういや話してなかったな。ちょお待ちや」


 まずはコイツ、とスマホが卓の中央に置かれた。


「「「え、いきなり外人さん?」」」」


 画面に映っていたのは筋骨隆々の黒人だった。

 眩しい笑顔でポージングを取っていて白い歯が眩しい。


「アメリカ人で名前はボブ・テイラー」

「「「「ボブ!?」」」」


 ブラザーやんけ!


「現在、高一で大阪在住。親父さんの転勤で中三の春に来日して来たそうな」

「へえ……にしてもアメリカ人か」


 タカミナが苦い顔をする。ジョンを思い出しているんだろう。


「友達に連れてってもらった新喜劇にドハマリして将来の夢は団員になることらしいで」

「その情報要る?」

「他にも昔の邦画が好きでコッテコテの涙あり笑いありの人情劇が三度の飯より好きとのことや」

「その情報要る?」


 まあ、完全に無駄かって言えばそうでもないけどさ。

 このプロフと酒井の語り口からしてボブは光のヤンキーだろう。

 これで外道ヤンキーだったらジョンとキャラが被っちゃうからな。

 あそこで悪い外人を出したから今度は愛され系をということではなかろうか?


「不良になった……ちゅーか、こっちの世界に足を踏み込んだ理由は友達を助けるため。

異国の地に来たばかりで右も左も分からなかった自分に声をかけてくれた友達が厄介なグループに目ぇつけられたらしくてな。

ボブにはバレんよう隠しとったらしいが偶然、それを知って一肌脱いだっちゅーわけや。

以降、地元のトラブルを解決しとったらそのあたりの不良の顔役になったって感じや」


 やっぱりね。


「気のええ奴ではあるが、大人しいっちゅーわけでもない。どこで生まれようと男は男や。

強い(ええ)男を見ると滾るんはサガやで。元々は俺と同じく跡目には興味なかったらしいが……」


 あー、読めた、読めましたよこのパターン。

 いきなりワケの分からない俺という存在が的になったことで興味を引かれたわけだ。


「突然、跡目が欲しければコイツを倒せって送られて来た写真。好奇心が疼くのも無理ないわなぁ?」


 やっぱりね! クソが!!

 これが悪もんならさー! それを逆手に取ってデバフかけたりバフ盛ったりも簡単だけどさー!

 違うじゃん? ボブ、良いもんじゃん! こういうシンプルに戦わなきゃいけない手合いが一番しんどいわ!!


「バトルスタイルは……」

「ああいや、そこは別に良いや」


 名前と顔、んで軽い人となりが分かれば十分だ。

 どうやって戦うかとかは聞かない。その方が強キャラっぽいからな。


「ふぅん? っとと、噂をすればや」


 雀卓の上のスマホが震える。どうやら情報が入って来たらしい。

 酒井は市内在住で中学生だけでなく高校生にも顔が利くとのことだ。

 それで情報を調べてもらっていたのだが、


「ボブの所在が割れたで」


 本当に噂をすれば……いや、ボブの話自体が前振りだったのか。


「今日はもう、動くつもりはないらしい。菅連の息がかかった拠点で休んどるみたいや」

「OK。それなら早速、向かおう。えっと、タクシーの番号は」

「ちょい待ち」


 スマホを弄り始めた俺に酒井が待ったをかける。


「その前に準備、せなあかんやろ」

「「「「準備?」」」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] どんな世界でも異色のメシ系配信者は映えるんだなぁ。 突然の○影蛇手さんに耐えられなかった。
[一言] 幼なじみ、矢島くんの可能性はあるのだろうか。
[一言] アカギのナレーションに笑ってしまったけど、 ドラ全部確保してるニコはなんなんだよw
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