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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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ding‐dong⑥

1.聖なる夜は男の小宇宙


「……舐めんなや!!」


 最後の砦であった矢島も結局、陥落してしまった。

 あの穏やかな矢島ですら青筋おっ立てるとは……いやまあ、三番手のテツがキレてた時点で薄々こうなる気はしてたがね。


「何で普通の甘酸っぱい恋愛しとったら古代文明出てくんねん! 頭おかしいんちゃうか!?」


 そうね。その通りだわ。


「あかん、一応……三周目のトゥルーまで辿り着いてたけど……頭おかしなるわ……」


 項垂れる矢島の背をぽんぽんと叩き、俺はそっとキャンディを差し出した。

 イチゴミルクの優しさがささくれだった心を鎮めてくれると信じて。


「……俺さぁ、何で腹立つか真剣に考えてみたんだわ」


 黙って矢島のプレイを見守っていた柚がぽつりと呟き、皆の視線が集中する。

 柚はそれに構わず、気だるげな表情のままぽつぽつと語り始めた。


「ジャンルがおかしくなってからもさ。話自体はよく出来てるし面白いじゃん?」

「……そうだね。真剣に見入るぐらいには面白いと思うよ」

「じゃあ何でそれを素直に楽しめないのか。何で終わった後に怒りが爆発しちまうのか」


 すぅ、と息を吸い込み柚は一気に結論を告げた。


「――――普通の恋愛パートの出来が良過ぎるんだ」


 その指摘に、俺は息を呑んだ。


「製作側からすりゃ、カモフラであり前振りでしかねえんだろう。本番はあくまでおかしくなってから」


 なるほど、なるほどそういうことか。そういうことかお前。

 言われてみればストン、と腑に落ちたわ。

 だってタカミナ以降の面子はもう分かってるわけじゃん? このゲームおかしいってさ。

 普通の恋愛ゲームじゃないことは承知の上でプレイしてるのに怒りが沸いて来るって変じゃん。

 でも柚に言われて気付いた。


「詐欺だと分かっていても尚、心身をすっかり恋愛一色に染めちゃうぐらいにシナリオの出来が良いから……」


 裏切られた、詐欺だと思ってしまう。


「そう、俺が言いたいのはそういうことだ」


 それを踏まえた上で振り返ってみると、普通の恋愛パートの出来は絶妙だ。

 おかしくなってからの方が印象に残り易いけど、それは作中でやってることが派手だからってのもある。

 しかし恋愛パートはそうでもない。なのに気付けば夢中になってしまう。

 出来の良さで点数をつけるなら恋愛パートのが上なんじゃないか?


「俺ァ普通のあまずっぺえ恋愛がしてえんだよォ!! って気持ちにさせられるから我慢出来ねえんだ」

「……まあ、理由が分かったからって許せるかどうかは別の話だがな」

「それな」


 全員が深く頷く。

 意表を突きたかったんだろうけどそれはそれ、これはこれ。普通に騙されてるわけだしな。

 ジャンルが正確に記されてたら普通に受け入れられたと思うよ。偽装表示はダメだよ。


「はぁ……とりあえず良い時間だし、そろそろパーティの準備すっぺ」

「だね~。つってもニコちん達はもうやること終わってるから俺らだけなんだけどさ」

「俺らはのんびりしてっから頼まあ」

「あいよ」


 タカミナとテツトモ、矢島が秘密基地を出て行く。

 ここでも無理すれば調理出来なくはないが、ちゃんとしたキッチンがあるわけじゃないからな。


「じゃ、俺も準備するよ」

「うぃー、よろ」


 立ち上がり隣の部屋へ向かう。

 部屋の片隅には俺のも含めて八つのプレゼントが鎮座している。

 それに俺は事前に用意していた数字の書かれた紙を貼り付けていく。

 あとでくじ引きをして、その数字のプレゼントを貰うって寸法だ。

 自分が持って来たのに当たる可能性もあるがその場合は自己申告で引き直しになる。

 全員がばらけるまでくじを引くので最終的には上手いことばらけるだろう。


(大小さまざまだけど、皆何持って来たんだろう……)


 ちなみに俺はメンズ用の香水だ。

 えぇ……? って思うかもだが贈る相手はヤンキーだからな。

 俺はつけてないが金銀コンビは基本、つけてるしタカミナやテツトモ、矢島もそこそこの頻度で香水つけてるもん。

 梅津はやってないので当たった場合はご愁傷様だが、プレゼント交換ってのはそういうもんだ。はずれを引いてもご愛嬌ってことで。


(ネタに走っても良かったかもだが)


 その場合はセンスが問われるからな。上手いことやらにゃ白けさせるだけだ。

 そういう意味でネタに走っても安心出来るのは金銀コンビぐらいだろう。


「さて、戻るか」


 俺は一体、どんなプレゼントを引くのかな。楽しみだ。


「なあなあニコちゃん、ニコちゃんはお土産何が良いよ?」

「お土産?」

「おう。一月下旬、俺ら全員修学旅行じゃん? だから先に聞いておこうかなって」

「あー……」


 俺も当然、皆に買って来るつもりだし丁度良いな。


「俺はベタに食べ物とかで良いかな」

「鮭とばとか?」

「渋すぎない? いや嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけど」


 酒の肴じゃんよ。食べる機会がないから嬉しくはあるけど。


「俺ならやっぱちんすこうとかサーターアンダギーかぁ?」

「……長崎って言えばカステラだが、甘い物が多過ぎてもあれだな」

「まあそれぞれのセンスに任せるよ。皆は何が良い? 京都って言えば色々あるけど」

「定番のやつ何かとえ、それ買う? みたいな変なの一つ頼まあ」

「俺も俺も」


 やっぱり柚と桃はチャレンジャーだな。

 ネタっぽいのも欲しいとは……しかしネタ土産ってどんなのがあるんだろうか……。


「梅津は?」

「……八つ橋以外なら何でも良い。あれは、何かこう、苦手だ」


 あぁ、ニッキの風味が苦手な人は居るよね。

 でも八つ橋がダメでも緑茶とか抹茶菓子とか漬物とかもあるし問題はあるまい。


「でも八人中四人が京都だからなぁ。被らないようにタカミナ達とも相談しとかないと」

「いっそ全員、京都だったらイツメンで遊べたのにな」


 それは勘弁。いや、楽しそうではあるけどさ。

 こっちの戦力が増強されるってことはそれだけ修学旅行編が苛烈になるってことでもあるから。


「まあでも、ばらけてるから各地のお土産を楽しめるわけだし?」

「それもそっか。修学旅行終わったら秘密基地で集まって食べ比べとかも楽しそうだわ」


 駄弁りながら待つこと一時間と少し。

 良い匂いを漂わせながらタカミナ達が帰還した。


「おーっし、並べてくから皿出せ皿ー」


 フライドチキン、唐揚げ、ポテト、サラダにシチュー、パンにおにぎりと所狭しと料理が並べられていく。

 もう見ているだけでお腹減って来たわ。


「全員、グラス持ったな? んじゃニコ、よろしくぅ」

「あいよ。それじゃ男だらけのクリスマスパーティを始めるとしよう――乾杯!!」

《乾杯!!》


 グラスを打ち合わせ、パーティの始まりを告げる。


「……ほう、味が染みてて中々」

「早速唐揚げか。ニコはホント、唐揚げが好きだな」

「美味しいんだもん」

「シチューがトロットロでパンに合う……! 無限に食べられそうだわ」

「ちょっと男子ィ! お肉ばっかり食べないの~」


 わいわい言いながら食事を続けることしばし。

 そこそこ腹が膨れて来たあたりで、プレゼント交換の時間だ。

 まだ食事は終わってないので行儀はよろしくないが……まあ、身内の集まりだからな。


「全員、くじは引き終わったか? 自分のと当たってない?」


 皆が手元のカードとプレゼントに貼られている数字を見比べ、大丈夫だと頷く。

 どうやら一発で上手いことばらけたらしい。

 それぞれの数字に合ったプレゼントを手に取り、コタツへ帰還する。


「誰から開けてくよ?」

「数字の順番で良いんでね?」

「ならば俺からか。これは……梅津か?」

「……よく分かったな」


 分からいでか。だってトモのプレゼント、護身用具の詰め合わせだもん。

 こんなん買って来るの梅津ぐらいだろ。


「ありがたく頂戴しよう。俺とテツは別個で行動することが多いわりに腕っ節の方はあんまりだからな」

「……ああ、そうしろ。じゃあ、次は俺か」


 梅津のプレゼントは小洒落た眼鏡だった。


「……度が入ってない。ファッション用の伊達眼鏡か」


 ふむと首を傾げ梅津は眼鏡をかけた。

 おぉ、結構似合ってる。素材が良いってのもあるが眼鏡自体のセンスも良いからな。


「……誰だ?」

「はいはーい! 俺でーす! 眼鏡男子な皆を見たくて贈ったんだけど似合ってるよ梅ちん!!」


 テツだったか。


「ほなら次はボク……ちゅーかこれ、ちょっと重いな……何やろか」


 矢島が包装を剥がすと、


「小型の加湿器だ。この時期だと便利だろ?」

「南くんかいな……嬉しいけど、何やろ……ちょっとがっかり。もうちょっと、こう、尖ったの来るかと思ったわ」

「るっせえ。俺もつまんねーかなと思ったけど加湿器が目に入ったんだからしゃーねーだろ」


 皆の反応からして今回のプレゼントにゃネタっぽいのはなさそうだな。

 強いて言うなら梅津のがそうと言えるかもしれんが……ヤンキーにとっては普通に実用品である。

 貰ったトモも驚きはしていたが満足げだったしな。


「次は俺だね! お、良いじゃん良いじゃん」


 テツが待ちきれないとばかりにいそいそと中身を取り出す。

 あれは、スマホ用のスピーカーかな? ワイヤレスタイプでデザインも中々。


「これは誰……あ、待って。当てるから。これヤジじゃない!?」

「お、正解。笑顔くんとかに当たったらあれやけど他は大体、音楽聞くやろ? ええかな思うたんよ」

「俺に当たってても嬉しかったけどね」


 インテリアとしても良い感じなのはそこを配慮したんだろう。

 それはさておき、これで折り返しだ。五番手は桃である。


「おぉ! カッケーじゃんよぅ」


 プレゼントの中身は狼が刻印されたオイルライターだ。


「お前に当たったか」

「トモかよ。ちょっと意外だがサンキュ! ありがたく使わせてもらうぜ」


 ライターもヤンキーにとっては必需品だからな。

 安っぽい使い捨てよりお高そうなの使ってる奴のが風格あるよね。


「そいじゃ次は……あ、言わんでも分かる。金角か銀角だろ?」


 タカミナの指摘に桃が手を挙げる。


「はい正解。銀ちゃんセレクトのボドゲセットだ。おもしれえぞ~?」

「だろうな。あとで皆でやろうぜ!!」


 外さないなぁ。


「ほいじゃ俺な。ニコちゃんは何をくれたのかなっと」


 まあ後は俺と柚だけだからそりゃ分かるわな。

 でも柚に当たったか。丁度良いっちゃ丁度良いな。


「お、香水。知らんやつだが……うん、悪くねえ。柑橘系で爽やかな香りがグッドだわ」

「気に入ったようで何より」

「あんがとな! 大事に使わせてもらうよ」


 さあ、それじゃおおとりだ。

 柚は一体何を選んだんだろ? 紙袋の中から取り出した箱は何か縦に長いけど。

 ばりばりと包装を剥がしてみると、


「あ、これ知ってる。炭酸作るやつでしょ? ソーダマシンだっけか」


 前世で興味はあったものの、結局買わずじまいだったことを思い出したわ。

 え、何で欲しかったかって? そりゃもう酒よ。

 今世じゃ皆が大人になるまで解禁するつもりはないが説明書見るにジュースとかにも使えるらしいし、これは良い物を貰ったな。


「姉さんや母さんも喜ぶだろうなぁ。ありがと柚、嬉しいよ」

「あ、いや……喜んでるとこ悪いけどそれおまけなんだわ」

「え?」

「袋ん中にもう一個あるから見てみ」


 言われて袋を覗くと小箱が入っていた。

 中身は――ピアスかこれ。月をモチーフにしてるのは俺達が狼だからだろう。

 狼は月に向かって吼えるもんだからな。見た感じ結構なお値段がしそうだが……。


「これ単体で良くない? 何で豪華なオマケつけちゃったわけ?」


 どっちも単体で貰って嬉しいものだ。

 ピアスだって美形の装飾品的に考えてありがたい代物だしな。友人から貰った物なら尚更だ。

 ちょっとしたユニークアイテムと言えよう。


「いやそれ買った店で福引券貰ったんよ」

「ひょっとして景品? でも……」

「自分家で使えば良いって言いたいんだろ? まあその通りなんだが、それ、もう持ってるんだわ。親父がちょっと前に買って来たんだよ」

「あー」


 それは困るな。

 家にあるのが結構使い古したものとかならストックしておいても良いかもだが、新品同然ならなぁ。

 だったらプレゼントにしちゃえってことか。


「だからメインはあくまでピアスなんだが、まあニコちゃんにとっては……」

「いやどっちも大切に使わせてもらうよ」

「ピアスってかお洒落とかあんま興味なさげなのにか?」

「まあそうだけど、良いデザインだし友達から貰った大切なプレゼントだ。見せびらかしたいじゃん」

「……へへ、そうか。ピアッサーあっから後でやってやんよ」

「うん、よろしく」


 ともあれこれでプレゼント交換は終了だ。

 皆、満足のいくものばかりだったようで何よりである。


「しかしまあ、良いプレゼント交換だったけどよぅ」

「なあ? ちょっとパンチが足りねえ気もする」

「ちょっと全員、日和っちゃったよね~」

「来年、誰かの誕生日する時はちょっと冒険してもええかもしらんね」


 それ絶対、全員がネタに走るやつ。

次回、ヒロインイベントです。

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― 新着の感想 ―
[一言] イメージとしては、マヴラブ無印やってたらいきなり周回挟んでないのにオルタに突入する感じかなあ 全員ルート終わらせて初めてオルタ見た時は、???ってなったからなあ
[良い点] 友人から貰った月をモチーフピアス。バフアイテムだし似合いそうw [一言] 「――――普通の恋愛パートの出来が良過ぎるんだ」 正直にギャルゲーにしてたら名作と謳われただろうに。 今は付けた…
[一言] ひどいギャルゲーで恋愛面にネタ振りしてから、ヒロインのターン…
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