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転生後の世界はヤンキー漫画の法則に支配されていた  作者: カブキマン
中学編

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命の別名㉒

1.終幕


「お、俺……生きて、る……?」


 呆然とそう漏らしたのは南だった。

 正直な話、考えるよりも早く身体が動いていたのだ。

 飛び出した後で全てがスローモーションになりこれが走馬灯かとどこか他人事のように迫る死を受け入れていた。

 なのにどうだ? 凄まじい痛みこそ感じているがまだ生きている。あの高さから落ちて、とそこで気付く。地面が柔らかい。


「ッセェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッフ!!!」

「……ほ、本当にギリギリだった……ギリギリだった……ッ」


 そう安堵の息を吐いたのはテツとトモ、そして彼らと行動を共にしていた塵狼の面々だった。

 雫と南が身を投げた瞬間、多くの者が上を向いていたから気付いていなかった。

 テツやトモら別働隊が幾重にも重ねられたマットを運んで落下地点に滑り込んで来たのを。


「ニコちんから雫ちんが飛び降りるかもとは聞いてたけど……な、何でタカミナまで落ちて来るのさ!?」


 タカミナならば説得出来ると信じてはいたものの群れの頭として楽観は許されない。

 出来うる限りの手を打つ必要がある。そう、これは笑顔が託した“万が一”に備えての策だった。


「ああうん……いや、俺に言われても困る……俺だってビックリしてるんだ……」


 トモがスマホで笑顔に雫の自殺を阻止したと報告しているが、電話の向こうの笑顔は信じられないほど動揺していた。

 だがトモに何かを言われても彼とて未だ混乱から立ち直れていないのだからどうしようもない。


「そうか。彼が……失敗した時、傷にならないようにと……」


 南と同じくマットの上で呆然と空を仰いでいた雫も我に返ったらしい。

 だが彼からすれば助かった理由などどうでも良かった。

 それよりも、


「南くん」

「おう」

「何で、こんな馬鹿なことをしたんだい? 一歩間違えれば君は死んでいたんだぞ」


 偽りの笑みが消えた怒りを孕んだ顔で雫が言う。

 そんな彼に南は何でもないことのように答える。


「言っただろ? 何度でも手を伸ばすってよ」

「――――」

「ま、飛んだ時は無我夢中でんなことは考えてなかったが……でも、何か理由をってんならそれ以外にゃねえよ」


 きっと、何度何回繰り返しても自分は同じことをする。

 南の言葉に雫は、


「あぁ」


 片手で顔を覆う。


「――――俺の負けだよ」


 その指の隙間から流れ出るものは……いや、それを語るのは野暮だろう。

 ともあれこれで哀河雫は本当の意味で己が敗北を受け入れることが出来た。

 それを見ていたルーザーズの面々も、悲しげではあるがどこか憑き物が取れたような顔で武器を手放した。

 雫は軽く目元を拭うと痛みに顔を顰めつつ身体を起こし、連合の面々に向け口を開く。


「死ぬわけにはいかなくなったけど煮るなり焼くなり、あなた方の気が済むまで好きにしてくれ」


 それに異を唱えようとした同輩を手で制し、雫はこう続けた。


「全ては俺の責任だ」


 痛いほどの沈黙が場を満たす。

 一番最初に口を開いたのは螺旋怪談総長、烏丸だった。


「……俺は連合を抜けさせてもらう」

「それは」

「勘違いするな。俺の仲間に手を出したことを許すつもりはない。無差別にヤクをばら撒いたこともな」


 だが、と烏丸は続ける。


「……俺達はお前ほどの“覚悟”を持っちゃいなかった」


 自分の命を捨ててしまえるほど真剣に、向き合っていなかった。

 そんな人間が正真正銘、命を賭した男に手を出すのは己の美学にもとる。


「だから手を引く。皆もそれで良いな?」


 螺旋怪談の面々が同意を示す。その顔に不満はない。

 烏丸は雫に背を向け立ち去ろうとするが、途中で足を止め背を向けたまま告げる。


「……俺達のような人種が、お前達みたいに“どうしようもなくなった”人間を生み出したことは決して忘れない」


 そう言って今度こそ烏丸率いる螺旋怪談は戦場を離脱した。


「……烏丸さんに言いたいこと全部、言われちまったな」

「……おう。疲れたし、けぇるか」


 それに続き大我、龍也。

 彼らだけではない。他の面々も同じように戦場を離れていく。

 右に倣え、というわけではない。各々、思うことがあったから。それだけ雫と南が命を賭した姿は衝撃的だったのだ。


「哀河、だったか?」


 連合の面子が大体、はけたところで隼人が煙草を吸いながら雫に話しかけた。


「ああ。何だい、土方隼人」

「お前の……お前らの戦いは、無駄じゃなかったと思うぜ」


 それだけ言って隼人もまた仲間を引き連れて去って行く。

 残されたのは塵狼と、ルーザーズだけになった。


「とりあえず……手当て、しよっか。俺ら、マットと一緒に救急箱とかも運んで来たからさ」

「体力が有り余ってる俺達でやるから皆は休んでて良いぞ」


 テツとトモの指揮の下、別働隊による手当てが始まる。

 塵狼もルーザーズも区別はなく、皆平等に。


「はぁー……しんどっ。やっぱ大我さんはつええわ」

「おう。龍也さんに勝つつもりでやったんだがなぁ」


 結局、烏丸達とのタイマンに決着はつかなかった。

 が、金太郎も銀二も健も理解している。あのまま続けていれば自分達が負けていたと。

 もっと強くならなきゃと奮起する三人だが、


「……そういや花咲の奴はどうした? トモ、お前連絡は入れたんだろ?」

「ああ。直ぐに向かうと言ってたんだが」


 そんな話をしているとホテルの入り口に影が見えた。


「えっちゃん……と、そいつが九十九か?」


 丈一を背負った笑顔がのろのろとこちらへやって来る。

 珍しいことに笑顔はすっかり消耗し切っており、肩で息をしている。


「はぁ……はぁ……その様子を見るに、上手いことまとまった……で良いのかな?」

「おう。つかおめえ、そんだけしんどいなら置いて来れば良かったろ」


 どう考えても丈一は邪魔だ。

 上りよりは楽とは言え、成人男性――それもかなり筋肉のある、を背負って階段を下りるのはさぞ難儀したことだろう。


「いやだって……俺も連れてってくれって言うもんだから……」

「……すまんな。もうぴくりとも動けないんだ」


 笑顔は嘆息し、雫の傍に丈一を下ろすとそのまま地面に座り込んだ。


「はは、丈もボロ負けしちゃったのか」

「ああ、呆れるほどに強かったよ」


 丈一の台詞に塵狼の面々は思った。そりゃお前もだろうと。

 あの土方とやり合った後でさえ、今よりはマシだった。一体どんな戦いを繰り広げたと言うのか。


「タカミナに説教かましたいところだけど……」

「説教って……それ言うならお前も雫が飛び降りるの知ってたの黙ってただろ?」

「教えたら気負わずに戦えた?」

「う゛……いや、それは……」

「でしょ? それに教えてたら間違いなく態度に出てただろう。そうなれば哀河に俺の動きが気取られて自殺の方法を変えられるかもしれなかった」


 飛び降りだから阻止出来た。だが他の方法なら?

 例えばナイフで致命になる自傷を行い、飛び降りていたのならどうしようもなかった。


「つか俺としても本当に万が一のつもりだったんだよ。今のタカミナならいけるだろうって……なのにこんな無茶を……はぁ」


 寿命が縮んだと笑顔は項垂れる。


「しゃーねーべ。身体が勝手に動いたんだから」

「まるで反省していない……」


 再度溜息を吐き、笑顔は雫に視線をやる。


「で、どうするんだい?」

「……そうだね。三日ぐらいで身辺整理をして、それから丈と一緒に警察に出頭するよ」

「そうか。まあでも、その前に彼らともしっかり話しをするべきだと思うよ」

「ああ。それも含めてさ」

「なら、良い」


ごろんと地面に寝転がった笑顔は万感の思いでこう漏らした。


「はぁー……ようやく、終わったぁ……」




2.また何時か


 決戦から三日後の早朝。

 諸々の身辺整理を済ませた雫は出頭前、最後に姉が眠る墓地を訪れていた。


「……」


 お盆などでここを訪れる度、後ろめたさを感じていたが今はそれを感じない。

 自らの罪と……――いいや、心と向き合うことが出来たからだろう。


「しばらくは、会えなくなる」


 でも、


「次にここを訪れる時は、今よりもマシになってると思うから」


 目を瞑りしばしの間、祈りを捧げる。

 祈りを終え名残惜しげに立ち上がった雫は墓を後にしようとするが……。


「おはよう、哀河く~ん♪」


 祈りに夢中になっていたせいだろう。

 気付けば行く手を遮るように六人の男が立っていた。

 性根の腐った……自分達の傷を刺激するような手合いだと目を見れば直ぐに分かった。

 あの戦場で見た覚えはないので連合の人間ではないのだろう。それが唯一の救いだった。


「何の用かな?」

「警察に出頭するらしいが、それちょっと待ってくんね?」

「何のために?」

「――――お前が貯め込んでる金とクスリ、全部俺らに寄越しな」


 言って男達は一斉に拳銃を構えた。


(……かなり、まずいかな)


 これまで雫はどんな事態にも対処出来るよう普段から“色々”仕込んであったが今は手元に何もないし身体もボロボロだ。

 形振り構わなければ周囲にある墓石等を利用出来なくはないが、それはしたくない。


(コイツら重度のジャンキーだが顧客リストにあんなのは居なかったな。となると、ヤクザか半グレ)


 だが下っ端だ。何時でも切り捨てられるような蜥蜴の尻尾。

 ドラッグを流す際、雫はデカイとことは話をつけてあったしルーザーズが敗れた後にも話を通してある。

 彼らは雫が敗北し、逮捕されることが分かっていても手を出しては来ない。

 何故か? 欲をかいて下手に手を出せばヤバイネタに火が点くことを知っているからだ。

 ゆえにこれは出世に目が眩んだ下っ端の暴走だろう。


「おい、聞いてんのか!?」

「断る。あれらは全て警察に差し出すものだ」

「おいおい、屑がいっちょまえに良心にでも目覚めたのか? 痛い目は見たくないだろ?」

「死んでも嫌だ」


 南に救われた命だ。無下に使い捨てるつもりはない。

 だが、ここで男達に薬物や金銭を渡すことはどうしても許容出来なかった。

 男達にそれらが渡れば自分達のような人間がまた生まれてしまうから。

 今更何をと思うかもしれないが、既に過ちを犯しているからこそだ。

 雫の返答に激怒する男達だが、


「――――はいそこまで」


 男達がギョッとして振り返るとそこには花咲笑顔が立っていた。

 笑顔は男達が何かするよりも早く、彼らを瞬く間に潰し手錠で両手足を拘束し無力化してみせた。


「何で……」

「狙うなら、このタイミングだと思ってね。そうだろ?」

「……はは、確かにそうだ」


 自分が同じ立場ならそうしていたことに、今更ながらに気付き雫は苦笑した。


「じゃ、俺は駐車場で待ってるから」


 笑顔と入れ替わりで南が現れる。


「よォ」

「南くん……」

「ああ、安心しろ。九十九の方にも金銀と梅津が行ってるからよ」


 てくてくと歩いて来た南は哀河家の墓の前で立ち止まった。


「ここに姉さんが眠ってるんだな」

「うん」

「ちゃんと、話せたか?」

「うん」

「本当は俺が送ってやりてえんだがよ。見ての通りこのザマだからな」


 雫もそうだが南もあちこちがボロボロだった。

 死にこそしなかったが何本、骨が折れたり皹が入ったりしていることか。


「しばらく会えなくなるがよ」

「うん」

「待ってるから」

「うん」

「……お前のこと、ちゃんと待ってるから」

「……うん」


 南はふぅと息を吐き出し、言う。


「また会おう」

「うん、また。きっとまた」


 その場から動かない南を置いて雫は墓地を後にする。

 駐車場に行くと笑顔が白いバイクに跨って待機していた。


「……無免運転の上にノーヘルで警察に出頭するのってどうなんだろ」

「それは俺も思ったけど……まあ気にしない方向で一つ」


 大人しくバイクの後ろに乗ると笑顔はバイクを発進させた。

 道中、会話はなかった。何を話せば良いか分からなかったからだ。


「ここまで来ればもう大丈夫だろ。後は一人で大丈夫だよね?」

「うん」

「それじゃあ……」

「待って」


 何を話せば良いか分からなかったが、それでも言っておくべきことはあった。


「何?」

「どれだけ必死で手を差し出しても、救われる側も手を伸ばさなきゃ助けられない――南くんが言ってたよ」

「…………そっか」

「うん。君も、何時か……いや、これ以上は余計なお世話だね」


 送ってくれてありがとう。最後にそれだけ言って雫は振り返らずに去って行った。

 笑顔は見えなくなるまでその背をじっと見つめていた。

骨が折れたのに適切な処置をせず放置すれば変な風に骨がくっついてしまいます。

何とかしようと思ったらもう一度、完全に圧し折って正しい処置を施すしかありません。

雫は変な風に骨がくっついたせいで限界ギリギリ、いっぱいいっぱいで破綻し掛けていましたが

タカミナがバキバキに圧し折ったことで更正に向け歩き出すことが出来ました。

ニコの場合は正しい処置をせずおかしな具合に骨がくっついてしまったのに何とかなってしまっているのが現状です。

駄目な方向に自己完結してる上にアホほど強いもんだから圧し折ることも容易ではありません。

というのを今回の長編で伝えたかったんですが私の力量では伝わったか不安なので文章にさせて頂きました。


次は年末の話……といきたいところですが

その前に一段落したので五万突破の時にやろうと思っていた悪童七人隊√IFのプロローグ的な番外編を投稿しようと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的にはビターという程でもなく、割と救いのあるエンドでよかったです…… 雫にとってのタカミナのように、ニコにとっての誰かは、やっぱりまだ見ぬこの世界の主人公なのかな。楽しみです。 [気に…
[一言] テツとトモに頼んでたのこれか。土方達への応援交渉かと思ってたわ。
[一言] ルーザーズは、普段は集会にも参加しないパンピーだけど外道相手に影で動く「裏塵狼」になるかと思った…
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