フォー・ラヴ・オン・クリスマス・デイ ④
一人暮らしのボロアパートへと辿り着き、自分の借りている部屋の前に立ってから、鍵が無いことに気が付いた。
どうやら、実家に忘れてきてしまったらしい。
心の中で舌打ちしつつ仕方なくその場を後にして、まだ随分と人の気配が残る25日になったばかりの町を、あてもなく歩き始める。電飾がそこらじゅうでピカピカ輝き、飾り立てられた街路樹が並ぶ町中を歩いていると、自分がひどく場違いなところに出てきちまったような気がして仕方なかったな。
そのまま半刻ほど彷徨った辺りで胃もたれするような雰囲気に早々に耐えられなくなり、僕は適当なコンビニで安いウィスキーのミニボトルを一つ買ってから、道すがら見つけていた人気の無い公園に逃げ込んだ。錆の目立つジャングルジムと滑り台に、数回動かしたら板が外れそうなシーソー、あとは古びたベンチがぽつんと一つ置かれているだけといった寂れた空間で、何というか、公園と廃墟の中間みたいな場所だったね。
冷え切ったベンチに腰を下ろし、蓋を開けて中身を呷る。
アルコールが抜け始めて冷えた身体が、再び内側からぽかぽか温まる。実に不健康極まりない暖のとり方だったけど、別にどうでもよかった。むしろ寿命なんて、いくらか縮んじまった位のほうが丁度いいんだ。
ポケットから取り出した煙草に火を点け、一口目を深く吸った。そして甘ったるい匂いのする煙を吐き出しながら、先程のイオリさんとのやり取りを、思い返す。
僕は何も、鈍感ってわけじゃない。むしろ過敏な方だ。経験に裏付けされた確かな自信ってやつが無いもんだから、やたらと後ろ向きに受け取ってしまうというだけで。
それでもあそこまで言ってもらえたら、彼女が僕のことを同類として、少なくとも憎からず思ってくれているなんてことくらい、流石にわかる。それに彼女が、僕が求めてやまなかった『気の合う誰か』だってことも、とっくにわかってる。
けれど結局、僕は彼女が最後に飲み込んだ言葉の続きを、追うことができなかった。
どうしても、これがコヨリだったならと、そう思ってしまっている自分がいた。隣で話してくれているこの女性がもしもコヨリだったなら、どれほど幸せだっただろう、と。そんな感情を抱いたまま彼女の言葉を追うなんてのは、意を決して声をかけてくれた彼女に対して、とんでもなく不誠実な行いのような気がしてならなかった。
もう、認めるしかなかった。
コヨリじゃなくても構わないなんて、そんなのただの嘘だった。
この期に及んでも僕はまだ、あまつさえ自分から避け続けていたようなコヨリの存在を、未練がましく引きずり続けている。
吸い終えた煙草を足元に捨てて踏み消し、ウィスキーを一口呷ってから、すぐ二本目の煙草に火を点ける。そいつも捨てて消し、また点け、その動作だけを繰り返しながら、僕はしばらくの間、まるでそういう機械にでもなったかのようにもくもくと、一心不乱に煙を吐き出し続けた。
八本目の煙草を捨てたところで、僕は思う。
もうやめよう。
足掻こうと思うことすら出来ない片想いをどれだけ続けたって、虚しいだけなのだから。
そのまま三時間以上もの間、何をするでもなくその場に居座り続け、時刻が四時を回った辺りで、僕はようやくベンチから重い腰を上げた。飲みきれなかったウィスキーをその場に捨てて公園を後にし、がたがたと震えが止まらない身体を引きずるようにして駅を目指し、始発の電車に乗り込んだ。
乗っている間中、同じように始発を利用していた他の乗客が、ちらちら僕の方を窺っているのが、なんとなくわかった。多分、相当ひどい顔をしてたんだろうな。
そして実家に辿り着き次第熱いシャワーを浴びて身体を温め、ドライヤー掛けもほどほどの生乾きの髪のまま、自室のベッドに潜り込み、泥のように眠りについた。
CDや本が散乱しているテーブルの上に置かれていた、綺麗にラップ掛けされたカットケーキに、気が付かないふりをして。




