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最近の邦画じゃあるまいし

僕は今、ある人の家の時計の針が鮮明に聞こえる位落ち着いたリビングの椅子に座っている。バイト先でお世話になっているおばさんだ。今回は相談事をしにおばさんの家に来たわけで、そのおばさんが早速お茶を持ってきてくれて目の前に座る。時刻は夕方になりかけ。


「で、何なの相談って?」


「実は、僕は最近ある人に・・・・・・・・・されて・・・」


この・・・・は言葉が出なかったり喋れないわけではない。喋ってはいるのだが、いざ人に何かを相談するとなると気が引けてしまい、普段よりもずっと声が小さくなってしまう。


「どうしようか・・・・・です」




ドン!



一通り言い終えるとおばさんが拳を机に叩き、それに合わせて机が揺れ、コップが一瞬宙に浮く。


「一体その喋り方は何?ぼそぼそぼそぼそと!滑舌も悪いし最近の暗めの邦画じゃあるまいし」


僕は笑いながら反論する。


「びっくりするからやめてくださいよそれ!それこそ割と静かだな~声が小さいな~と思って音量上げたらいきなり効果音が大きくてびっくりする最近の邦画みたいじゃないですか!」


「あなたの声が小さいから言ってるのよ!相談事が有るのが私なら堂々と言うわね」


「その、「のよ」とか「わね」という女言葉も一体なんなんですか!大昔の人や邦画やドラマ、漫画ならともかく実際にそんな言葉使ってる女性なんてなかなか見た事有りませんよ!」


「それを言うなら邦画だけじゃなく洋画や海外の女性の翻訳にもケチ付けなきゃダメじゃない!それに私は大昔の人だから仕方ないの!!」


だんだんとおばさんもヒステリックな一種のバケモノへと変わっていく。


「それはともかく、明かりをつけてください!なんでこんな暗くなってきたのに未だに明かりつけないんすか!」


「もういい加減にしてよおおおおおおおお!あれもこれもケチ付けて疲れるのおおおおおおおおおお!」


おばさんが両手で頭をくしゃくしゃにして叫ぶ叫ぶ。フケ大量発生の危険性を感じつつ、仕方ないので自分が蛍光灯の紐を引っ張る。光は影の強い二人を漂白剤の如く一瞬にして白くする。


「その泣き叫ぶのも邦画あるある、予告編あるあるじゃないですか!」


少し間が空いて、おばさんが僕の顔を少し渋い顔して眺めている。


「明かりついて分かったけど、あなた結構ヒゲ生やしてるね。それ演技派俳優のつもり?」


「面倒くさいだけですよ!大体ヒゲ生やしてるだけでなんで演技派俳優なんですか?ホントに演技派なら外見がどうであれ演技で魅せることが出来るんじゃないんですか!?」


「ああ、それもそうだよねえ。でもなんかそんなイメージ無い?」


おばさんは急に落ち付いた。やかんを沸騰させているコンロの火が瞬時に消えたかのように。


「確かに、なんとなくですけど有りますね。なんでなんでしょうね?ヒゲ生やして渋い外見にすることでルックスが売りではない、深みのある演技が売りの役者だぜ、ってアピールなんでしょうかね」


「なんか不思議な現象かも。結局人はルックスとか表面的なもので判断したがる、という仕組み故にそうなるのかもしれない。」


「洋画やアニメの声の組み合わせも、外見のイメージでそれに合った声質の声優の人をキャスティングしてますよね。吹き替えの声は凄く渋いのに、いざ本人の声を聴いたら意外と甲高くて細い、なんてことたまに有りますよ。」


あれ、結局何を相談したかったんだっけ?   ああ、思い出した。


「あ、そうだ、実はこの前おばさんがいない時バイト先に俳優事務所の人が来て僕の接客時の声の通りや滑舌の良さを見てスカウトしてくれたんです。それで~」


「最近の映画ディスってる上に声の通りや滑舌褒められてるんだったら最初から悩みもその調子で言えっつーの!」



落ち着いた空気の中、おばさんを再び唐突に怒鳴らせてしまった。最近の邦画じゃあるまいし。



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