幼なじみの話
わたしの友人は、魔女だ。
かつては人里離れて身を隠すように暮らしていたという魔女たちは、500年前に魔女と人間の自由恋愛のために声を挙げた一人の魔女によってその姿を世間に知らしめた。その後大きな波乱があったものの、その神秘、知性、魔力による不思議な色彩の瞳、艶やかな黒髪に人々は惹かれ、人間は多くの法を以て親和の証とした。たしかそんなことが、世界史の教科書に書かれている。
現在では魔女は100人に1人の割合であり、隣に溶けるように座っている友人も、その1人なのである。
「アスファルトあづいっでさぁ~」
「わかるけど、その格好はあかんでしょ」
片田舎に暮らす彼女はどう見ても田舎娘で、黒髪と少し青みがかった黒目くらいしか魔女らしいところなんてない。魔法だって、団扇レベルの風さえ起こすのに疲れると言う。街中を飾る大きく鮮やかな広告には極めて優秀で麗しい魔女だっているのに。
「また失礼なこと考えてるな?」
「本当に魔女か?って思ってる」
「ヒドイ!……わたしも思ってるわ」
「あーあ」
散々彼女の悪口めいたことを考えてしまっているが、私はこいつがわりと好きである。幼なじみで、生まれてすぐに対面したらしい私たちは、半身のように常に一緒に過ごしてきた。ちょっとだらしないところは毎度叱っているが、優しいやつで、私が考えていることも汲み取ってくれる。周りから私が面倒を見ているように言われるが、こいつのおおらかさに救われているのだ。
「コロッケ食べたいねえ」
「暑いのに?」
「暑いのに。」
「真島商店のコロッケサンドがいい」
「玉ねぎドレッシング」
「そう。キャベツが素敵」
中学から使ってボロボロのスクールバッグを担ぐと、部室から二人して飛び出した。後ろでガチャンと鍵の閉まる音がした。斜め前を走る幼なじみが閉じたのだろう。
このあまり優秀ではない魔女の、ちょっとした魔法だ。