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聖隷の護子  作者: コウリアユ
プロローグ
1/1

逃げ出して



 



月と星は対になり輝きを、



水は恵みをもたらす。




炎は力を与え、



太陽は照らし続け勇気を与える。




雷は時々恐怖を与え、



風は幸運を運んでくる。



雪は優しく人々を包み込む、なんてこの国の言い伝えがある。




 ……でも、雪はどうだろう。



 ただひたすら冷たくて、心まで凍ってしまいそうになる。

 手袋をしないといけないし、マフラーだっている。ひたすら厚着で動きにくい。


 

 俺は雪が大嫌いだ。それにこの街も大嫌いだ。


 だから俺は、この街から逃げ出している。







 「ここまで来ればもう大丈夫か」


 ほっと一息ついて地図を広げると、滲んで文字が読めなくなっている。しまった、雪で濡れたのか。今日は珍しく吹雪だったからしょうがない。


 振り向くと俺の街が小さく見える。街の雪山も近くで見るとかなり大きかったのに、ここから見るとそんなでもないんだな。この景色を見て、俺はあの街から出ることができたんだとやっと実感した。



 ……街の人間は俺の事を探しているんだろうか。何も言わず逃げ出してきてしまった。

 きっと探しているに違いない、俺がいなくなると困るのはあっちだし。

 



 「護子様、か」


 あの街では皆が俺の事を護子様と呼ぶ。街を護る子供だから護子、そんな理由があるらしい。

 一度母親に言われたことがある。



 「護子はね、王になって国を守るの。護子は選ばれた子。だからねあなたも選ばれた子なのよ」


 “王になってね”そう言った母親は、2年前13歳になる頃に父親と一緒にどこかに行ってしまった。それからただ護子は王になることのできる子供、俺は選ばれた子供だとずっと思っていた。俺が王になれば、どこかに行ってしまった母親も父親も戻ってくる。そう信じていた。



 しかし、


 「護子って可哀想だよね」

 

 2つ上の兄がボソッと呟いたこの言葉がやけに引っかかった。


 可哀想?俺が?


 母親は俺の事を選ばれた子供だと言った。それなのに兄は可哀想だなんて矛盾している。



 「国を護るなんてそんな大きい仕事任せられちゃって、本人は詳しい事何も知らないでさ」

 「詳しい事?」

 「母上も父上も早く行っちゃったせいで、誰も説明する人がいなかったから護子様は知らないのか。護子なんてなったのが運のツキだよ。僕は本当にならなくて良かったよ。殺し合いなんかしたくないもん。」

 「……殺し合い?」



 話さないといけないのかーと面倒そうにしながら、兄は護子について話し始めた。


 

 国の7つの街に俺と同じような護子と呼ばれる子供がいること。

 その中の1人が王になれること。

 王になるためには生き残らなければならないこと。

 護子になるためには、他の街の護子を殺さなければならないこと。



 地獄だった。選ばれたと思っていたものは、全く特別のものではなくただただ異様な物で。



 「こんな雪山なんて誰も来ないし、ここに入れば護子様は安心して王になれると思うけどね」



 他の護子はどうなんだろうか。

 俺と同じく絶望したのか、それともただただ運命を受け入れるべく戦うのか。


 ……俺はこの雪山にずっといていいのか?他の俺と同じくらいの子供は戦っているのかもしれないのに、俺はこんなところでただ絶望して王になるのか?



 知りたい、この国の事。他の護子の事。

 もしかしたら戦いだってしなくて済むかもしれない。もしかしたらこの運命から逃れられるかも……




 その日の夜、俺はこの街を飛び出した。他の護子に会うために。

 

 





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