十月十一日
金曜日も引き続き話し合いが行われる予定であったが、会議が始まる前に小野寺は平松のオフィスを訪ねるのだった。
「丁度よかった、私の方からも話したいことがあったんだ」
そう言って本部長の平松は、対面のソファを勧めて、自らも腰を下ろすのだった。それから訊ねる。
「それで話というのは?」
「はい。もう既にスタジアムでは冠水に備えて準備を進めてもらっていますが、私もこれから横浜に行って現場で仕事をしたいと考えております。その許可をいただけないでしょうか?」
平松が確認する。
「スタジアムに泊まり込むということか?」
「はい。他の委員も既に意思を固めています」
「頑張る姿を見せても、WRの決定に影響を与えることはないぞ?」
「はい。人命が第一であることは心得ています」
「中止の決定は会議室で決めさせてもらうことになる」
「構いません」
平松がじっと目を見る。
「そうか、それならばお願いしよう」
「ありがとうございます」
そこで小野寺が訊ねる。
「部長のお話というは何でしょうか?」
「手の空いた委員を連れて横浜に行ってもらえないかと考えていた」
「つまり私と同じ用件だったということですか?」
「そういうことになるな」
普段は温厚な平松が怖い顔になる。
「明日の試合は間違いなくアイルランドが勝つ。そうなれば日本は、試合中止で決勝トーナメント進出だ。でも、それではダメなんだ。試合をせずに勝ち上がったら、日本は卑怯だって思われるんだよ。そんな風に罵られても、日本人はヘラヘラ笑ってるだけじゃないか」
平松が悔しさを滲ませる。
「なぁ、小野寺、俺は試合がやりたいよ。予選突破したいから中止にしようとしているなんて、そんな悪意が混じった勝ち点なんていらないんだ。日本が戦いたがっているって思わせるには、やれるところを見せるしかない」
平松が問う。
「一つにできるか?」
小野寺が答える。
「選手やスタッフだけではなく、ボランティアや警備、地域の方々、他にも電気、水道、交通など、そして何よりファンの方々に支えられているから試合を行うことができました」
色んな人のことを思い出す。
「そのどれか一つでも欠けてしまったら、日曜日の試合は中止にするしかありません。ですが、私はチームを信じています。全員が同じ気持ちで戦ってくれると、信じています」
平松が頷く。
「現場は頼んだ。私はここに残ってWRの組織委に説得を続ける。合流は試合当日になるだろうから、それまでに納得させられるだけの仕事をしてくれ。頼んだぞ」
そこで平松が立ち上がる。
小野寺も立つ。
「分かりました」
そこでガッチリと握手をして、平松が微笑む。
「癪に障るスコットランドをボコってやろうじゃないか」
「はい。ボコってやりましょう」
小野寺も笑顔を返すのだった。




