第1章6 召喚魔法合宿 その4
第1章6 召喚魔法合宿 その4
--- 召喚魔法合宿ー最終日 ---
翌朝、シャルロットたちがレストランへ行くと、
一斉にシャルロットの頭の上に視線が集中した。
昨日の講堂での騒動が広まっている様だ。
しかし、そんな状況でも、
「何だベスの妹は猫を召喚したのか?」
「ほんと7班は呑気なものね。最下位決定ですわね。」
まだ、昨日の騒ぎを知らないボイマンとヒルダが通り過ぎ様にからかって行った。
「ほっときましょ、あの二人まだ講堂へ行ってないのよ。」
席に着くとスープとパンを取り分けに来たバルドワジは白虎には別の肉料理を振る舞い昔話に花を咲かせていた。
食事が終わり、7班は全員んLv2以上の召喚ノルマを達成したので今日一日はコテージでゆっくりバカンス気分を味わう事にした。
ケーニッヒはボートで魚釣り、女性陣はバルコニーで日焼けをしたり湖で泳いだりした。
お昼はバルコニーでケーニッヒの釣った魚とバルドワジさんの差し入れの肉と野菜でBBQを楽しみ、最終日のバカンス・・いや合宿を楽しんでいた。
白虎は水に浸かるのを嫌がった為、皆が泳いでいるのを二人で眺めながらシャルロットは聞いた。
「白虎、昨日君は僕から魔王様の匂いがすると言ったね。魔王様とは一体誰なんだい?名前はあるのかい?」
「魔王様とはその名の通り我ら魔獣と魔族を統べる王でございます。御名はルシファー様でございます。 私は長らく魔王ルシファー様に仕えていた四獣が内の一獣になります。他にも、青龍・朱雀・玄武の三獣がおりました。」
「その魔王ルシファー様を差し置いて僕の下僕になって良かったのかい?」
「主様、魔王様はもう300年来お姿をお隠しになられているのです。 下僕として不敬かと思いますが、魔王様は宿敵である天界の者達に打たれたのでは無いかという思いがずっとこの300年間、心から拭えないでおりました。そのような時にシャルロット様に出会い魔王様のそれと同じ力の一端を示して頂いた事は、魔王様が長い眠りから覚め再び我らの戴きに降臨されたとしか言いようがございません。」
「その魔王様と同じ匂いが僕からするのかい?」
「匂いと言っても実際にそのような香りがする訳ではございません。シャルロット様は魔王様と同様の波動・気配を纏っておられるのです。」
(波動と気配ねー・・そうするとこの肉体としての僕の出自をもう少し探る必要があるな・・)
「白虎、僕は5歳の頃重篤な病を患い、それ以前の記憶を無くしている。更には、キャットピープルの貴族に育てられたヒユーマンなのだから何かしらその出自には曰くがあるのだと思う。今後それを解明して行くつもりだが協力してくれるか?」
「主に使えると誓ったこの身、如何様にも使い潰して戴くことが至上の喜びにございます。」
「ありがとう白虎嬉しいよ。 では我らも共に泳ごうではないか!?」
「某はここで・・」
「如何様にも使い潰すんじゃ無いのかー!?」
「そういう意味では・・うわー・・」
シャルロットは白虎と浮き輪を抱え湖に飛び込んでいった。
「おいで白虎・・・。」
--- 召喚魔法合宿ー帰路 ---
最終日、生徒達は講堂に集められ表彰式が行われた。
個人の優勝はシャルロットの白虎でレベルは伝説級とされた。
シャルロットは白虎を本来の大きさに戻しその頭の上に乗った。
2位はドレーゼンのライガー Lv6 ライガーの中でもボスクラスになる。
3位はボイマンのライガー Lv5
ドレーゼンとボイマンもその背に跨った。
チーム総合優勝は白虎を有する7班となった。
2位はマリアンヌの1班
3位はドレーゼンの2班
以上の順位で表彰式も終わり、居残り組みは無く全員で帰路についた。
屋敷に帰ったベアトリスとシャルロットは軽く夕食を食べそのまま疲れ果てて寝てしまった。
朝起きて食堂へ行くと母親とフェルトが先に食事を取っていた、
「まあまあ、シャルロットおはよう。猫ちゃんもよく眠れた?」
「お母さん、フェルト先生おはよう。 お母さん白虎はねえ一緒に寝ると凄く暖かいんだよ。今度貸してあげるね。」
「まあ嬉しいわ。 猫ちゃんは何食べるのかな?」
「白虎はお肉を食べるわ。 牛の生肉を500gくらいでいいみたい」
「まあ小さいのによく食べるのね。」
母はそう言うと、メイドに肉を持って来るように告げて出ていった。
「シャル、明日イメルダが屋敷に来るそうだ。原因はその頭にいるやつだな。」
白虎をちらりと見やりフェルトが言った。
「成り行き上、白虎を従える事になりました。 白虎こちらはフェルト先生。」
「某は白虎。シャルロット様に支える下僕である。」
「白虎殿、私はフェルト。 このシャルロットと姉のベアトリスの教育係だ。よろしく頼む。」
「何主様の師であったか、失礼仕った。某の方こそ以後良しなに。」
「うむ。 しかし本当にあの伝説の白虎なのだな・・。 何でまたこうなった。」
「何でも白虎が言うには私から魔王の匂いがするらしいです。」
「魔王の使いと言われる白虎が、お前から魔王と同じ匂いがするから下僕になったと? 何とも単純な話だな。」
メイドが白虎の肉を持ってきてシャルロットの隣に置いた。 白虎はシャルの了解を得て美味しそうに食べている。 そんな白虎を撫でながら、
「魔王は300年前から消息を絶っているそうです。先生、僕の魔王の匂いというのは僕の出自に何か原因があるのでしょうか? 父からは生まれたばかりの僕を先代の王様が父に託されたと聞いただけなのですが・・」
「それには先代の王に直接聞いて見れば・・と言いたいところだが、あいにく先代王は既にご逝去されている。今の王にそのような話を聞けるのか少々疑問だが。 いずれにしろ王家を当たらねば謎を紐解く事はできないな。」
そこへ起きたばかりのベスが入って来た。
「おはよう御座います。フェルト先生。おはようシャル。 あ、白虎もおはよう。」
そういうと肉を食べていた白虎をムギュと抱きしめた。白虎は迷惑そうな顔で助けを求めている。
「ベス、魔法の対外試合があるのを知っているか?」
フェルトが聞いた。
「え? そう言えばイメルダ先生が何か言っていた様な・・。」
「対外試合に出られるのは各学園の上位2チームまでだ。対外試合は7月だが来月から学園内の対抗試合があり、そこで上位2チームに残らねば先へは行けないからな。」
「それに勝ち残れば私達も王都へ行けるんですね?」
シャルロットが聞いた。
「そうだな。 更にそこで上位3位に勝ち残る事ができれば、王宮での表彰式とその夜の舞踏会にも招かれる。」
(だったらそこで王様に私の出自について何か聞けるかも)
「ベス、頑張ろうね!」
「もちろん・・ 優勝するよー・・」
寝ぼけながら答えるベスだった。
「お前たちに練習用の魔防服を貸してやる。後で部屋に取りに来るように。」
--- イメルダの憂鬱2 ---
翌日、イメルダが訪れ、シャルロットもフェルトの部屋へ呼び出された。
頭に白虎を載せてフェルトの部屋のドアをノックする。
「コンコン、シャルロット参りました。」
「入れ。」
シャルロットが入ると、フェルトとイメルダがソファに腰掛け紅茶を飲んでいた。
「こんにちはイメルダ先生♪」
幼女シャルロットはスカートの裾を引き上げ礼儀正しくお辞儀をした。
「こんにちはシャルロット。 白虎様、ご機嫌麗しく何よりです。」
「うむ。」
「ご機嫌麗しいのか?」
フェルトが訝しげに聞いた。
「当然。主様の最上の特等席にいる某は至極の幸せを享受しておる」
(そこまでか!)
「それで、今日は何の用だイメルダ?」
「今回の召喚合宿の件です。他の生徒が平均してLv3の魔獣を召喚する中、シャルロットお嬢様はレベルさえ付けかねる伝説の魔獣を召喚しました。」
「主様がお呼びになれはこの白虎、何を差し置いても即座に参上いたしますぞ。」
「いえ、そういう事ではなく、これ以上他の生徒との差が開いてしまう事は教育上宜しく無いと考えます。」
「ふむ、なるほど。それでどうしたいと?」
「シャルロットお嬢様にはその実力にふさわしい機関でご活躍戴くのが最も得策かと愚行します。」
「イメルダ、お前は教育者としてこのロンデウス領の魔法レベルをどうしたいと考える?」
「え? どうとおっしゃいましても・・。」
「うむ、教科書通りの平均的な生徒が育てば良いと考えるのか? そうでは無かろう?
他の領地、他の魔法学園、他国の魔法レベルを凌駕するほど高く伸ばしていく事が重要ではないか?
そしてこの学園の生徒たちには教科書レベルの魔法に甘んじるのでは無く、上には上が有ること、伝説と思われていた世界が実際に存在する事、目指す高みはもっと上にある事を学んで欲しいとは思わないか? そうした教育の中から伝説の魔法使いは生まれるのだ。」
「お、おっしゃるとおりですが・・。」
「クラスに飛び抜けた存在、伝説の魔獣の存在、そういった者が身近に居る事はきっと良い刺激になるはずだと思うが?」
「ではせめて白虎様がその四六時中、猫のお姿で主様の最上の特等席に見えるのも他の生徒に示しがつかないというか」
「何? 某はこの姿で常に主様のお近くに支える事は主様の許可を得ておる事。
魔王様が居なくなられたこの300年もの間、某が魔王様のお近くで常にその御身をお守りし、盾となって死ぬ事が出来なかった事をどれだけ悔やんだ事か!お主には分からぬであろう!」
白虎に怒鳴られてイメルダは委縮した。
「だそうだが?」
「も、申し訳ございません。愚かな私では白虎様のそこまでの深い思いに至りませんでした。」
(な、なんで魔王が出てくるのよ!)
「なら問題無いのだな? それに他の生徒への示しがつかないと言ったが、大体、他の生徒は白虎の事を知っているのであろう? であればその真似をして頭に猫を乗せて学園に登校する者が居ると思うか? 」
「そ、それは・・」
「ならば今日もイメルダの悩みは解決出来たわけだな? 後はシャルロットと二人でうまくやってくれ。」
「イメルダ先生!申し訳ありません!♪」
幼女シャルロットは礼儀正しくイメルダに微笑んだ。
「うっ、分かりました。でも次はありませんよ。」
---閑話---
「皆さまこんにちは、コカビエルです。先日シャルロットさんは子猫を拾われたようですね。今日のシャルロットさんは子猫を妹さんの様に可愛がり、一緒に泳いだり、お風呂に入ったり、お休みになられたりといつも楽しそうに過ごして見えました。このお年頃のお子さんがペットを飼うのは情操教育の一環として望ましい事ですねー。そうそう、イメルダ先生はまた家庭訪問をされていました。かなり熱心にシャルロットさんの教育をなされている様で何よりです。」