第1章5 召喚魔法合宿 その3
第1章5 召喚魔法合宿 その3
--- 召喚魔法合宿ー二日目 ---
翌日の朝、食堂で朝食を取っていると、
「・・ルルル・・」
またしてもシャルの耳にあの地響きの様な埋め声が聞こえて来た。
(何だか寂しがっている感じがする・・。)
焼き立てのパンを取り分けに来たバルドワジも、
「日に日に騒がしくなって来てますねー。」
と話していた。 他の者達は気づいていない様である。
「さーて、今日は西の方へ行って見ようか」
他のチームは皆、伝説級魔獣の話を恐れて東南の方を探している様で西方面は未踏のところが多い。
「賛成!誰も来ないうちにLvの高い魔獣を狩っちゃいましょ!」
「禁止区域に入りさえしなければ大丈夫でしょう。」
今日の探索方針も決まり朝食を終えた一同は西へと向かった。
2時間ほど進むと渓谷の崖に突き当たった。
下を覗き込んで見ると100mはあろうかという渓谷になっている。
「ここ立ち入り禁止区域って言うけどこれじゃ立ち入れる訳が無いよね。」
「どうする?じゃあこのまま北へ行こうか。」
一行は渓谷沿いに北を探索する事にした。ケーニッヒとマデリンのウォルフを召喚し先行する様に指示を出した。
2匹の後を渓谷沿いに探索していると先導している2頭が吠え出し、茂みの中からベアウルフ2頭が現れた。
3メートルほどある巨体で2頭のウォルフが吠えるも如何せんその体躯には差があり足止めにならない。 ケーニッヒとマデリンはウォルフを下がらせた。
そして5人はV字陣形を組み、
「よーし先ずは私が、オフェンシブマジック サンドストーム」
ベアウルフ2頭を砂嵐で囲み足止めした。そこへソフィアが
「オフェンシブマジック ウォータープリズン」
2頭のベアウルフは突然水球の中に取り込まれもがいている。
魔法が解けぐったりした2頭にソフィアとベスが目で合図すると近くまで行き、
「サモンマジック コントラクト!」
二人同時にそれぞれの魔獣に召喚術をかけた。
ところがソフィが召喚術をかけた方のベアウルフは暴れもがき近くの大木を薙ぎ倒した。
倒れて来た大木をソフィアが慌ててよけるも、枝がまともに当たって付き飛ばされ、崖下へと落ちて行った。
それを見たシャルロットは崖に向かって全速で走り、谷へ飛び込み様、
「フライ」
谷底までは100mはある高さを全速でソフィアに追いつき腕を捕まえ急ブレーキをかけた。間一髪衝突直前で落下を止める事ができ、ゆっくり谷底へ降り立った。
「あ、ありがとう!シャル!」
下に降りたソフィアはそういうとシャルロットに泣きながら抱き着いた。
「何とか間に合った。よしよし。」
シャルロットは泣いているソフィの頭を撫でながら周囲を見渡した。
二人の前には高い崖が続き、左手には大きな滝があった。
どうやって崖を登ろうかと思案していると、突然滝の中から白い塊が飛び出しシャルロットとソフィアの前に音も無く降り立った。
塊の正体は体長が5mはあろうかという白い虎であった。体からは青白い電気がバチバチと音をたてて纏わりついている
「グルルルル・・・」
低く地響きの様なうなり声はシャルロットがここに来た時から自分を呼んでいると感じた声の主であった。
「幼きヒューマンよ、なるほどこの気配の持ち主はお主の様だな・・。 お主は何者だ。」
虎は匂いを嗅ぐ様にした後、二人をじっと睨みつけた。
ソフィアは恐怖のあまり完全に萎縮し立てなくなっていた。
シャルロットはソフィアを庇う様に前に出ると、
「お前こそ何者だ。話が出来る魔獣とは只の魔獣ではないな。」
「某はこの地に500年住まう白虎である。お主もただのヒューマンでは無いな。何故お主からは魔王様の匂いがする・・。何故だ?」
「僕はシャルロットただのヒューマン。 魔王の匂いなど僕には分からない。 ただ僕も自分の出自を知らない、魔王の匂いとは何だ? それは何かヒントになるかもしれない。 僕はお前の話をもっと聞きたい。 僕と召喚契約を結んでくれないか?」
「ふん、魔王様ならともかく、この神獣白虎が誰ぞの召喚獣になどなれる訳が無かろう。某がお前を従えてくれよう。」
「ならば力づくでするまで。マキシマイズグラヴィティ」
白虎は、突然凄まじい圧力で上から抑えつけられる。
必死に足を踏ん張るも、白虎の頭と尾がうなだれ足が地面にめり込んだ。
周囲には黒銀の光が満ちていた。こ、これは、魔王様の輝き・・・。
白虎の頭の中に魔王の記憶が蘇る・・。
・
・
「おいで白虎・・。 宇宙を駆け抜けろ白虎・・。 よくやった白虎・・。」
白虎が魔王と共に戦場を駆け抜けて来た歳月が暖かい走馬灯の様に思い出された・・。
「ま、魔王様・・。」
白虎は幼女の後ろに魔王の姿を見た。
「マキシマイズコントラクト!」
巨大な魔法陣が白虎の足元に展開した。
「白虎はそれを見て確信した。これほど強大な力・・、魔法陣は魔王様以外に在り得ない・・」
シャルロットは白虎の元まで歩いて行き、頭に手を当て囁いた。
「さあ、お願いだ白虎・・。僕の知らない事を教えて。お前の力を僕に貸しておくれ。」
白虎は地面に伏せると、
「畏まりました。魔王様・・いえシャルロット様。 あなたこそ私が300年もの間、待ち焦がれた我が主。御身のままに。」
平服した白虎との契約が成立し召喚陣は消えた。
「だけど普段からこんなに大きいと外でしかサモンできない。もう少しこれぐらいの猫ちゃんくらいになれない?」
「御身が望むのであれば・・。」
すうっと5mを超える巨体が40cmほどの猫の大きさになった。
「よしよし、サモンするときはそのサイズで出てきて。」
「主様、某は訳合って常にこのままの姿で主様のお側に支えたい所存に御座います。」
「分かった。構わないよ。」
ソフィアは何が起こっているのか理解出来なかった。
聞いた事の無い魔法と凄まじい力で伝説級の魔獣をあっという間に手なづけてしまった幼女にあっけに取られていた。
「ソフィ、もう大丈夫だよ。」
「シャルあなたは一体? 魔王様って・・。」
「何言ってるのソフィ、僕はあなたの友達シャルロットだよ。さっきの魔法はフェルト先生に教えてもらった魔法。じゃあもう登るのも面倒だから一気に行くよ。 フライ。」
シャルロットは自分より大きなソフィアをおんぶして白虎を頭の上に載せ崖の上まで飛んで戻った。
「シャル、ソフィ、大丈夫だった?」
「いや、その前に飛べるんかい!?」
「うん、フェルト様に教えてもらった魔法だよ。こっちは大丈夫?ベアウルフはどうなった?」
「私のベアウルフは契約終わったよ、ソフィのベアウルフは弱らせてそこにいるから早速契約しちゃいなさい。」
「あとはシャルの魔獣だけだな。」
「僕も崖の下で魔獣見つけて契約したよ。」
「そうなんだ何を捕まえたの?」
「これ。」
そう言って頭の上の白い猫を指差した。
「何それ?シャルの部屋にあったぬいぐるみじゃないの? 持ってきたの?」
「某はぬいぐるみでは無い、主様の下僕となった白虎じゃ。」
「えー喋った。どういう魔法なのちょっと見せて!」
「私にも、私にも。」
「可愛いー。」
「こらよさぬか!」
「主様お助けをー。」
ともみくちゃにされる白虎だった。
契約を終えたソフィだけは遠巻きに恐る恐る見ていた。
「でもシャル、その猫ちゃんはどう考えても合格出来ないでしょう? まだ明日一日あるからいいけどさー」
「うん、多分大丈夫だと思うよ。喋るしね。」
「そこまで言うなら、帰ったらバルドワジさんにLvとか見てもらおうよ。」
シャルロット達はロッジへ帰ると早速講堂に行き貼り出してある各班の召喚状況を確認した。
「2班を見てよドレーゼンがライガーを捕まえてLV5でトップだよー」
「でも班としては1班がベアウルフを5体でトップね」
「私達負けてるよー明日は是が非でもシャルはもっと強い魔獣を捕まえないとね!」
「バカを言うな小生意気なデミよ。この世に某より強い魔獣などおらぬ!」
「もう!シャル、そのツッコミ魔法や・め・て。」
「僕何も言ってないよー。」
その時丁度イメルダが講堂に入って来た。
「ハイ、ハイ、ベアトリスはいつも元気ね。7班は全員召喚は済んだの?」
「いえ、まだシャルロットが出来ていません。」
「ええ、僕も捕まえたよー。」
「ハイハイ、じゃあ確認するから一人づつ召喚して見せて、まずはベアトリスから」
「はい、サモン ベアウルフ」
「次はケーニッヒ」
「サモン ウォルフ」
「次はソフィア」
「はい、サモン ベアウルフ」
「次はマデリン」
「サモン ウォルフ」
「次はシャルロット」
イメルダは心なし自分が緊張している事を認識した。
シャルロットは頭の上から白虎を降ろし、
「この白虎です。」
(また何を言っているのかしらこの幼女は?)
「シャルロット?これは魔獣じゃなくて動物の猫です。」
「ほら白虎、元の大きさに戻って」
「主様、大きさを誇るのであれば如何様にも成れますぞ?」
「出会った時と同じでいい、あれ以上だと講堂が壊れちゃう。」
(何?誰と喋っているの・・?)
「シャルロット?召喚獣は居ないの?」
イメルダがそう聞いた途端にシャルロットの横にいた猫が5mを超える白虎に変化した。
驚いたイメルダは数歩下がり、
「くっ! アイシクルダガー!」
白虎めがけて魔法を放ったが、白虎は前足で払いのけた。
「主様、この者は敵でありますか?」
「いや、いいんだよ。」
「イメルダ先生、この子は僕が召喚した白虎です♪」
可愛らしい幼女がスカートの裾を引き上げ礼儀正しくお辞儀した。
その場にいた全員がその大きさに唖然とし、講堂から逃げ出す者もいた。
先にサモンされたウォルフ・ベアウルフ達は隅に固まって小さくなっている。
「え? 白虎?」
イメルダは伝説の話で実物など居ないと思っていた魔獣の名前を聞かされ唖然とした。
そこに外から飛び込んで来たバルドワジも白虎を見て唖然とし、
「おー、これは・・白虎様何故このような所に。」
「おお、お前はこの屋敷の主バルドワジだったな久しいな。なに、某は本日を持って、この幼きヒューマン、シャルロット様の忠実な下僕となったのだ。」
「左様でございましたか。良き主を見つけられて何よりです。」
二人は親しげに話していた。
「びゃ、白虎様、先程は失礼致しました。」
イメルダは慌てて先程のアイシクルダガーの非礼を詫た。
「何、主様のお仲間であれば構わん。だがもう少し鍛錬を積んだほうが良いぞ。」
「あ、有難うございます。」
そう言うとシャルの方をジロっと睨んだ。
(あーまたやっちゃったー)
「白虎、戻って。」
「御心のままに。」
そういうとまた猫に戻り、シャルロットはまた頭の上に載せた。
「え、なにそれ、シャル?白虎?あの物語の?・・。ぬいぐるみじゃないの?」
ソフィ以外のメンバーも本物の白虎と初めて分かり、イメルダ同様唖然としていた。
「イメルダ先生、白虎のレベルはいくつですか♪」
「そ、そんなものありません!」
イメルダはヒステリックに答えた。
そして掲示板には、
[7班編成表]
ベアトリス ベアウルフ Lv4
ケーニッヒ ウォルフ Lv3
ソフィア ベアウルフ Lv4
マデリン ウォルフ Lv3
シャルロット 白虎 レベリング不可
と、貼り出され事実上、最優秀となった。
それから皆で食堂へ行き、バルドワジさんの料理に舌鼓を打ったのであった。
白虎もシャルロットの席の隣を陣取り美味しそうに肉を食べていたが、その瞳は濡れていた・・。
主と並んでまた食事が出来る事が何よりうれしかった様だ。
その後、徐々に慣れて来たメンバーと白虎も一緒にお風呂に入り、女子達に引っ張りだこにされていたのはお約束である。