第1章3 召喚魔法合宿 その1
--- イメルダの憂鬱 ---
シャルロットは不安だった。
髪飾りだけならまだしも突然レフィアまでもが飛び出して来るとは思いもしなかった。
咄嗟にシールドを構築しなければレフィアは6組の子の魔法で大けがをしていただろう。
その為に少し出力を上げる必要があったのだが力が入ってしまい、フェルトに言われていた様にLV2に抑えるつもりがLV4以上を出力しデクを破壊してしまったのである。
(ちょっとやり過ぎたかなー。でもなんで先生喋らないのだろう)
イメルダは硬い表情で落ち着かない様子だ。
シャルロットはフェルトに怒られるのでは無いかと気持ちが沈んでいる。
そんな暗い空間を乗せた馬車はシャルロットの屋敷の門をくぐり玄関の前で止まった。
出てきた執事にイメルダは、
「フェルト魔道士様にお取り次ぎ下さい。イメルダがシャルロットお嬢様の件で来たと」
(やっぱり私の件、ですよねぇー・・・)
程なくして執事がメイドを連れて出てきた。
「イメルダ様どうぞお入り下さい。フェルト様がお会いになるそうです。 お嬢様はこちらでお着替えを。」
シャルロットはメイドに連れられ、イメルダは執事がフェルトの部屋へ案内して行った。
「コンコン・・、フェルト様、イメルダ様をお連れしました。」
「入れ。」
「やぁイメルダ、来るとは思っていたんだがまさかシャルロットの学園登校初日が終わってもいない時間に来るとはねぇ。」
部屋には一人紅茶を飲みながら本を読んでいるヒューマンの女性が居た。
「お久しぶりですフェルト魔導士様。」
「畏まった挨拶はいいよ、何となく察しは付くが、まずは座って紅茶でもどうだい?」
フェルトはイメルダをソファーに座らせ、紅茶を差し出した。
「それで?何があってそんなに慌てて来たんだい?」
「な、何なんて物ではありません。あの幼女・・いやシャルロットお嬢様は一体何者なのですか」
「ふむ、幼女か。まあ見た目だけでは仕方無いか・・何者かという点については私もまだ見定めて居るところだ。現時点では飛び抜けた才能がある幼女としか言えん。それで?どんな感じだった。」
フェルトに促がされ、堰を切った様に先程までの能力検査の状況を説明した。
「白銀の光色の全属性でレベル4いやデクを破壊・・、同時に生徒を守る黒銀の光色で球体シールドを構築ねー。」
「うむ、まずは属性の話だが、全属性が白銀なのは知っているな。私もそうだがシャルのあれはそう全属性以外に未知の属性・・・何らかのユニーク属性が入っている。何なのかは私も解っていないがね。」
「6属性以外の未知の属性・・・。そんなものが本当に存在するのですか?」
「うむ、恐らく存在する。過去の伝説、英雄譚の類にもそんな話が残っている。」
「次にレベルだが、もう判っていると思うがシャルはレベル4ではない。 私も測りかねているのだがレベル10は確実。」
「レベル10・・・。そんなレベルを人が持てる物なのですか? それはもう国家機密のレベルではないですか! 」
「うむ、シャルのやつには2割程度の力で制御しろと言い聞かせて置いたのだがな。状況を聞く限り仕方無かった様だな・・。」
「二割って・・。ならば何ゆえ学園などに入学させたのでしょうか? Lv10の全属性+ユニークスキル持ちの幼女など狂気の沙汰です。 国家機密機関で扱った方が良い事案ではないでしょうか?」
「通常ならそうしているが、本人とロンデウス公爵夫妻の学園で学ばせたいという強い希望でな。公爵は国王様とも親身にしておられるし、それにあやつと長く付き合っていると分かるのだが見た目は幼子だが精神的には既に大人だ」
コンコン・・・
「シャルロットです。」
「入れ。」
メイドが扉を開け、着替えを済ませたシャルロットが足を交差させスカートの裾を両手で持ち上げ礼儀正しくお辞儀をして入って来た。
「シャル、初日から羽目を外し、イメルダを困らせた様だな」
「フェルト先生、それにイメルダ先生、ごめんなさい・・。」
「まあ良い。レフィアというドジッ娘を助けたのだろう。 それと今は幼子のふりをしなくても良い。」
フェルトがそう言うとシャルロットの困った様な表情が無表情になり、
「はい、咄嗟の事でしたので魔力コントロールを仕損じました。実技場が血の海になるよりは良かったかと思います。」
「そう言う事だ。イメルダ、もし今日シャルロットがおらず同じ様な事が起こっていたらどうなっていたと思う? 逆にシャルロットが居て良かったとは思わんか?」
「そ、それは、た、確かに我々の不手際でもありますが・・」
「まあしかしだ、シャル、お前はあのクラスの生徒達と同程度の魔法能力であると認識されれば良かったのだがそうもいかなくなったな。その歳で必要以上に力がある事が周囲に知れ渡れば、どうにかしたいと思う輩が出てくるものだ。」
「どうする?まだ学園に居たいのか?」
「はい、以後気を付けますので、今回はお許しください。」
「分かった。何度も言うがそういう事だイメルダ、今回は全属性レベル4という事にしておいてくれ。」
「えっ、そんな簡単に・・、それにレフィアを守ったあの黒銀の球体は?」
「たまたま着ていた魔防服の効果とでもしておけば良いだろ? 本来のシャルとも話してイメルダも大体事情は分かってくれた訳だから後はそう・・、二人でうまくやってくれ。」
「イメルダ先生、申し訳ありません♪」
シャルは幼女に戻ってにっこりイメルダに微笑んで礼儀正しくお辞儀をした。
「うっ、分かりました。でも次はありませんよ。」
--- 召喚魔法合宿ー準備 ---
魔法能力検査の騒動は4組のボイマンの悪ふざけでレフィアの髪飾りを検査場へ投げ入れた事でそれを取りに行ったレフィアに6組のノイマンが放った魔法が当たり魔防服がそれを無効化したものとしてボイマンとレフィアがこってり絞られた事で幕を閉じた。
事が起きた時のざわめきの大半が全属性の白銀の輝きを4本のデクが放ち破壊された事の方であったことは幸いであった。
その後、当事者のレフィアはシャルロットに助けてもらった事に気づいていたのかシャルロットの元へ来て、
「シャルちゃんありがとうね。お陰で怪我をせずに済んだわ。本当にありがとう」
レフィアを見ていたボイマンもシャルロットが助けた事に気づいて、
「よ、よう。この前は悪かったな、お陰で大事にならずに済んだ。礼を言っとく。」
と、ばつの悪い顔で謝罪してきた。
そして通常の授業が行われる様になって1か月が過ぎようとしていた。
「起立! 礼! 着席!」
「まずは先日の魔法能力検査の結果判明した皆さんの持っている属性の魔石を埋め込んだ杖を支給します。呼ばれたら取りに来るように。」
「マリアンヌ」
「はい」
・
・
「シャルロット」
「はい」
クラスの全員がシャルロットが受け取る杖に注目している。
「あなたは全属性の魔鉱石が埋め込まれていますが属性の解らない魔鉱石はまだはありません。学園でも調べていますが、フェルト魔導士様の方でも判明したら教えて下さい。」
イメルダは小声でシャルロットに伝えた、
「はい、先生♪」
シャルロットは礼儀正しくお辞儀をして杖を受け取った。
シャルロットの杖の先端には火風土水光闇の六つの魔石が埋め込まれている。クラスの他の者たちの杖は多くても三つの魔石が埋め込まれているだけなので、シャルロットの煌びやかな杖は目立ち他の者たちの視線を集めていた。
「次、ベアトリス」
・
・
「ねーねーシャル、杖見せて。」
ベアトリスが見たくて仕方ない様子でねだった。
「いいよ。どうぞ」
「うわー凄い!全部の魔鉱石が埋め込んで有るよ!」
杖はチームメイトの手を順番に回って行った。
「私のなんかシャルの半分の魔鉱石三つだよ。」
「俺なんか2つだぁ。」
「私も・・・」
「みんなもこれからの研鑽次第で全属性獲得出来るよ。」
「えっ!?ハハハ・・・。」
4人は呆気に取られ苦笑いした。
・
・
「はいはい、皆静かに、全員杖を持っていますね? 次は来週に控えた召喚魔法合宿についての説明です。」
イメルダは持ってきた羊皮紙を配った。
「合宿先は例年通りフリュード森林の宿泊施設にて行います。課外授業の期間は5日です。
しかし、フリュード森林への移動は丸1日を要するので実質は3日になります。
宿泊施設を中心に森林の中を各班毎で行動し、より強い魔獣と契約する事が目的です。
尚、召喚獣の強さが上位3位までの個人とチームレベルの合計の最も高いチームを表彰し今年度の学園記録として残す事になるので各自奮起する様に。
また、チーム全員がLv2以上の召喚獣を確保出来なかった場合はチーム単位で延長補習となりますので、如何にチームワーク良く召喚獣を仕留められるかが鍵になります。肝に銘じておく様に・・・。
尚、立ち入り禁止区域には絶対に立ち入らない様に、お前たちでは相手にならない凶暴な魔獣も生息しているのでそれだけは必ず守る事。
それでは各班のリーダーは編成表にレベルを記入して提出するように。」
シャルロットのチームは先般の能力検査と同様、姉のベアトリスがリーダーで幼馴染のケーニッヒとソフィアそしてマデリンの5名である。
[7班編成表]
ベアトリス 水風土属性 Lv3 召喚術 Lv3
ケーニッヒ 風土属性 Lv2 召喚術 Lv2
ソフィア 水風属性 Lv2 召喚術 Lv3
マデリン 風火属性 Lv2 召喚術 Lv2
シャルロット 全属性 Lv4 召喚術 Lv3
「よーし、じゃあいい皆んな!今日は私の家で効率良く魔物を捕まえる為の作戦会議だよ! 週末だからお泊りの準備も忘れずにね。」
全員が馬車で集まって来た。
「さあさあ皆よく来たわね。夕食の用意が出来て居るから皆食堂へ来てね。」
「みんな、いらっしゃい!」
母マーガレットとベアトリス、シャルロットの3人が出迎え食堂へ案内した。
食堂では父ラインハルト公爵とマデリンの父シュバルツ伯爵が既に食事を取りながら話をしていた。
「おお、よく来たね皆。今日は勉強会だったかなベス?」
「お父様、今日は来週から始まる魔獣召喚合宿の作戦会議だよ。」
ベスが元気に答えた。
「おじさま、公爵様、お世話になります。」
チームメイト達もロンデウス公爵に挨拶をした。
「ああ、ゆっくりして行ってくれ、そうか魔獣召喚合宿という事はフリュード森林だね。あそこは危ない魔獣も居るから皆気をつけるんだよ。私もあそこでライガーを召喚獣にしたんだよ。」
「えー!お父さんライガーを捕まえられたの!?」
「ハハハ、そうとも。手強かったが、チームのメンバーと協力して契約出来たんだよ。じゃ、シュバルツ、我々は向こうで一杯やりながら続きを話そう。」
「そうですね、若い者同士、気兼ねなく食事を楽しんでもらいましょう。」
二人が出ていき、子供達で賑やかに食事をしていると、フェルトが入って来た。
「ん?何だいつもの面子が集まっているな。」
フェルトは自分の席に着くとメイドが注いだワインを口にした。
「こんばんわフェルト魔道士様。」
「フェルト先生、フリュード森林にライガー以上に強い魔獣って何がいるのですか?」
「ふふ・・そうだな、立ち入り禁止区域になっているが、ワイバアーンやフェンリル、バジリスクも生息している。あと伝説の魔獣、白虎も居るとか居ないとか・・噂だがな。」
「うわー!凄い凄い!それは召喚獣にできますか?」
シャルロットはワクワクした様子で身を乗り出して聞いた。
「馬鹿を言うな、お前たちなど奴らの朝飯にもならんわ。」
生徒達は一様に怖がっていたがシャルロットの目は輝いていた。
食事を終えた子供達はベアトリスの部屋に集まり、
「じゃあまずはフォーメーションだね。ここは教科書通りいくなら、」
「それなら探索は広範囲に探索できる横並びフォーメーションだね。」
ソフィはすかさず授業で習った知識を披露した。
「そうね、それじゃ・・」
「戦いはV字フォーメーションで決まりだな。」
ケーニッヒも負けていない。
「もうみんな、わたしが言おうと思ったのにー」
「前衛が攻撃、後衛は防御、最後衛は指揮と適宜対応だけど今回は召喚術者かな。魔獣が弱ったところで、召喚術を放つ。」
マデリンもⅤ字フォーメーションを今回用にアレンジしてみた。
「それをローテーションしながら魔獣を確保する。」
「魔獣の足止めはグランドスワンプで捕まえてファイヤボールで弱らせる」
攻撃と捕獲についてベアトリスが意見を言うと
「足の遅いベアウルフはこれでいいけど、足の早いウォルフやライガーは難しいかも。」
ソフィが懸念事項を伝える。
「だったら囮を使ったらどう?囮を襲う所をグランドスワンプで捕まえる」
直ぐにベアトリスが代案を提示し、
「それならよさそうだね」
全員が納得した。話し合いのチームワークは完璧である。
その夜は遅くまで全員で枕相手にイメトレを行っていたが、いつしか枕投げになりそのまま寝てしまった。
---閑話---
「皆さまこんにちは、コカビエルです。今日のシャルロットさんは先生の家庭訪問の際にも礼儀正しくご挨拶が出来てましたねー。お昼はお友達の皆さまとランチを共にされおかずの交換などされて楽しく過ごされていました。、夜はお友達とお勉強をされていましたが、お休みになる前は枕投げをして、お疲れになってそのままお眠りになってしまいました。何とも可愛らしい限りです。」