第2章6 天使の贖罪
翌朝、シャルロット、フェルト、ベリアル、コカビエルの4人は広場の中央に立った。
周囲には神獣達と多くの堕天使と魔族達が輪を作ってシャルロットの言葉を待っていた。
「今日! 私は非道な行いをして来た天使達と我が父魔王ルシファーを討った大天使ミカエルに正義の鉄槌を下します! 皆、私に力を貸して下さい!」
「天使たちに鉄槌を! 魔王様万歳! シャルロット王女様万歳!」
魔族と堕天使達が口々に叫んだ。
そしてエルフの里から一斉に飛び立った。
シャルロットとベリアルはフライでフェルトとクロネはアカネに乗って、シロネは宙を駆けて、アオネも竜の姿で後に続いている。
30分も飛ぶとベリアルが、
「シャルロット、あれが天界の門だ。」
天空には門だけが浮かんでおり、天使の世界らしきものは見えない。しかし門には門番の天使が4人立っていてこちらに気づいた様子である。
「ヘルフレイア!」
ベリアルの魔法で地獄の業火が門番を焼き、シャルロット達は門から天界へとなだれ込んだ。
門をくぐると、そこは外からは見えなかったが天使達の世界が広がっていた。
「ウォー!」
魔法の炸裂に後から来ていた堕天使と魔族は歓喜した。
「フェルト!エルフ達の救出をお願いします!」
「ああ、任せておけ!」
フェルトは魔族の背に飛び移ると、別働隊の堕天使と魔族達の部隊を率いて別れて行った。
前からは天使達の軍勢が現れた。
「メテオフォール」
出力全開のシャルロットの魔法は天界中に隕石を落とし、飛んできた天使達は隕石群に容赦なく叩き落とされていた。
「うむ素晴らしい! 何と強力な魔法なのだ! 流石はわが友ルシファーの娘にしてエルフの王女。 しかしこれでは後の者たちの手柄が無くなる。 ここはコカビエルに任せ、シャルロットはミカエル討伐に集中しなさい。」
「分かりました。コカビエル天使たちは任せました。」
「ベリアル、ミカエルは何処にいるのでしょう?」
「あそこです都市の中心にそびえ立つ神々の神殿の中です。」
前方に白い大きなピラミッドの様な四角錐の建物が見えた。建物の下の部分に大きな扉が有る。
「四獣達! 本来の姿で力を示せ! 扉を破壊せよ!」
「主様! お任せを!」
四獣達は本来の姿に戻り扉に攻撃を加えた。
「ヘルファイア!(アカネ)」
「トールハンマーッ!(シロネ)」
「ウォーターハンマー!(アオネ)」
それぞれ魔法を放ち扉には亀裂が入った。
「ストーンブロー(クロネ)」
クロネが巨大な亀の甲羅で体当たりをし扉を壁ごとぶち破った。
シャルロット達はクロネの開けた穴から神殿に入ったが、中には誰も居なかった。
「ミカエルは?何処だ?」
「危ない!」
ベリアルは、シャルロットを右手で押しのけた。
その瞬間、空間が歪みベリアルの右腕が切り飛ばされた。
「ウグッ!」
「何だ? ベリアル! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫です、シャルロット上に気を付けなさい!」
「インビジブル!」
シャルロットは神殿内にインビジブルを掛けた。
すると頭上に大天使ミカエルと天使達の姿が現れた。
「惜しい、外したか。」
「おのれ、ミカエル! 姑息な真似を!」
「お前が妖精の、魔王の娘か? ベリアルよお前の友ルシファーはこの聖剣エクスカリバーの錆にしてくれたわ。 これ以上魔王の娘に肩入れするなら次は首を飛ばすぞ!」
「フッ、ミカエル、お前など左腕があれば十分! わが友の仇、取らせてもらうぞ!」
「ヘルフレイア!」
ベリアルが左腕を前に出し魔法を放った。ミカエルは天使の羽で炎を薙ぎ払ったが、両隣の天使は焼け落ちて行った。
「お前たち、行け!」
ミカエルは残った天使達に命令した。
主様、天使どもは我々に任せて下さい。
「トールハンマー!(シロネ)」
「ヘルファイア!(アカネ)」
「アイシクルアロー(アオネ)」
神獣達が天使達と戦う中、
「マキシマイズグラビティ!」
「ウグッ!」
シャルロットの魔法でミカエルは床に叩き落とされた。
「おのれ!」
「サンダーストーム(ベリアル)」
「ウォーッ!」
ベリアルの落雷の嵐を受け、ミカエルの体中から青白い火花が弾け痺れて動けなくなった。
「ストーンフットパッド(クロネ)」
クロネがミカエルの両足首に自身を錘にした足枷を掛けた。
ミカエルは自由を封じられた。
「ミカエルもう観念しろ、お前がエルフ族を虐殺し、私の父の命を奪った罪を償え。」
「おのれー、妖精の小童めがルシファー同様に葬ってくれる! エクスカリバー!」
ミカエルは剣を振り抜き剣から伸びた光がシャルロットを襲った。
「キン!」
すかさず魔剣グラムを引き抜き、光の刃を受け止めた。
「なに!それは聖剣のプロトタイプ、魔剣グラムか!
くそ!シャイニングアロー!」
ミカエルは宙に幾つもの魔法陣を展開し、光の矢をシャルロットに放った。矢はシャルロットの上に雨の様に降り注いだ。
「ダークシールド!(シャルロット)」
シャルトットは黒銀の盾を顕現し宙にかざすと、光の矢は盾に吸収された。
「小癪な! ホーリータイガー!(ミカエル)」
ミカエルは光の虎を3匹放った。3匹の虎はシャルロット目掛けて襲い掛かったが、天使を倒したシロネ、アカネ、アオネが応戦した。
「ダークネスストーム!(シャルロット)」
シャルロットは漆黒の竜巻をミカエルに放ち、その背後から魔剣グラムで斬り掛かった。
「ウヲーッ」
「キン!キン!」
二人が斬り結んでいる間に、
「パーフェクトバインド(ベリアル)」
ベリアルがミカエルの上半身を縛り上げ、
「シャルロット今です!」
「ミカエル! 父の仇! エルフ達の仇! お前の命をもって贖罪せよ! 魔剣グラム!」
「よせ! 私が悪かった。エルフは開放する! たの・・・。」
シャルロットが振り抜いた魔剣グラムの剣先から黒銀の光が放たれ、ミカエルは真っ二つに切り裂かれた。その肉体は漆黒の炎で焼かれた。
「グギャーァー・・。」
シャルロット達はミカエルが燃え尽きるを見ていた。
「終わったのか・・・。」
「シャルロット、新たな魔王様、よくぞ成し遂げられた。」
焼かれていくミカエルを眺めているとベリアルが跪いて祝福した。
「シャル姉様ー、おめでとうございます!」
「シャルロット様、おめでとうございます!」
「流石は我が魔王様、素晴らしき勝利でございます。」
「正に端倪すべからざる力を持った、御君!」
神獣達も人型に戻りシャルロットの前で跪いて祝福の言葉を口にした。
「お前たちもありがとう、良く私を助けてくれた。」
「ベリアル、貴方が私を助けてくれなければ私が切られて死んでいました。」
そう言うと手のひらを切ってその血をベリアルの腕にふりかけた。
すると見る間に腕が再生し元通りに戻った
「これは、ありがたき幸せ。」
血の出ていた手のひらはいつもの様にアオネが舐めて治っていた。
(終わったんだね・・・。)
一行が神殿を出ると天使達はほぼ鎮圧されていた。
「ベリアルこれから天界はどうなるのでしょうが?」
「今後はコカビエルが中心となりシステムを維持・管理していきます。私もしばらくは天界の管理を行いますが、本業は学園の理事長ですからね。あまり主張が長くならないうちに戻ります。」
「それと、貴方も今や魔王であると同時にエルフの王女であり、これからは大天使の肩書も付くのです。 したがって数年に一度は祭事を執り行いに天界に来てくださいね。」
「わかりました。」
「シャルロット様!、ベリアル様!」
天使達を討伐したコカビエルが神殿に駆け込んで来た。
「コカビエルうまく行った様だね。フェルトはどうしました。」
「はい、フェルト様達もエルフを伴って下界に戻り、エルフの里で王女様を待っておられるとの事です。それより魔王様、皆に勝利に咆哮を!」
正殿を出たシャルロット、ベリアル、コカビエルは、
「皆のも大天使ミカエルは私が、このシャルロットが討伐したぞ!」
「シャルロット王女様万歳!魔王様万歳!」
「よし、僕達も凱旋だ戻ろう!」
そう言うとシャルロットは神獣達とエルフの里へ戻って行った。
エルフの里では女王リーシアと50人ほどのエルフがシャルロットの帰りを待っていた。
「お母さん!」
シャルロットはそのまま母リーシアに飛びつき、リーシアは優しく抱きしめた。
「よく頑張りましたね、シャルロット! お父様のルシフェル様の血を引くお前ならきっと出来ると信じていました。」
「はい。シャルロットは成し遂げました。」
そこへフェルトがエルフ二人を伴ってやってきて、
「シャル、私の父母も無事だったよ。」
「良かったねフェルト。お姉ちゃん。」
フェルトとも抱き合った。
「王女様、この度は我々を助けて戴き有難うございました。」
「エルフの皆を助けたのはフェルトですよ。」
「いえ、大天使ミカエルを倒し天使のいや聖剣の呪縛から我々を解き放ってくれたのは王女様でございます。これからもこの里を宜しくお願いします。」
その夜はエルフの里で宴が催された。
広場では大きな焚火を囲んでエルフの皆が食べて、飲んで、踊っている。
エルフの女達の踊りの輪の中にはアカネも加わって体をくねらせ異国のダンスを踊っている。
エルフの男達の酒盛りの輪の中ではクロネが混ざって酒を酌み交わしている。
シロネは子猫の姿でシャルロットの傍らで何かの肉を食べている。
アオネはシャルロットの膝の上で両手に焼き立ての肉を持ち頬張っている。
シャルロットはリーシアの隣で、ロンデウス家での生活、学校生活、これまでの冒険の思い出を止めどなく話し続けている。
そんなシャルロットの話に母リーシアは優しく微笑みながら聞き入っていた。
シャルロットは幸せだった。
その夜、母リーシアとシャルロットは一緒に寝た。
「シャルロットが赤ちゃんの時以来ね。」
「僕、赤ちゃんの時からそんなに変わって無いんじゃない。」
「そうね。早く大きくならないとね。」
シャルロットはその言葉でベアトリスを思い出し涙がこみ上げて来て、リーシアの胸に顔をうずめた。
「よしよし。」
リーシアは何も聞かず、優しくシャルロットの頭を撫でた。
「お母さん、魔王様・・お父様ってどんな人だったの?」
「お父様はとても強くて優しい人だったのよ。シャルロットが生まれた時はとても喜んでいつもあなたにお話しながら添い寝していたわ。お母さんが焼きもち焼くくらいね。」
「私、お父様のこの力のお陰でお母さんにも神獣たちにもフェルトやベス、学園のお友達にもめぐり逢えたわ。」
「そうねお父様は亡くなられても私達を見守って下さっているわよ。」
「うん、お父さん・・・」
シャルロットは闘いの疲れからまどろみ、眠りに落ちて行った。
「・・シャルロット・・シャルロット・・」
「おとうさん・・」
「むかーし昔、今より遥か昔のお話だよ・・・異世界の獣は封印され、その国は豊かになり王女様は幸せに暮らしたとさ・・・。シャルロット、この世界は広く、驚きに満ちている。 お前は大きくなったらそんな世界を冒険し、多くの経験や仲間を手に入れなさい・・・お前の人生も幸せに満ちた物になる事を祈っているよ・・・」
翌朝、身支度を済ませると。
「お母さん、僕まだこの世界の事をもっと良く知りたいんだ。だから神獣達とまた旅に出るよ。いつか必ず戻って来る。」
「はい! お父様にお会いしたのね! そう言うと思ってました。この里の事は私に任せて頂戴。」
シャルロットはフェルトの所へ行き、
「フェルト、・・・」
「言わなくても解っているぞ、私も付いて行ってやろう。我々はもっとこの世界の事を知らねばならないな。」
「ありがとう! お姉ちゃん!」
そう言うとシャルロットはフェルトに抱きついた。
シャルロットはフェルトが一緒に行ってくれる事がどれだけ心強い事か心の底から理解した。
フェルトはシャルロットの中で、先生の位置からベアトリスの一つ上のお姉ちゃんの地位になっていた。
「そうと決まればドワーフの関所に馬車を取りに戻らないとね。」
4獣と二人はゲートをくぐり新たな度に旅立つのだった。
---最終話---
「皆さまこんにちは、シャルロットさんいやシャルトット大天使様の冒険も一先ずひと段落ですね。私のシャルちゃん成長日誌も今回で終わりです。なんだか切なく寂しいですねぇ。やはり引き続き大天使様には内緒で日誌を付けさせて頂きましょう。それでは皆様またお会いする日まで。さようならぁー。」
完