第2章5 集結
翌朝、シャルロットが目を覚ますと玄武が料理を作っていた。
「玄武おはよう。料理が出来るなんて知らなかったよ。」
「主様おはようございます。昔修行の一環で嗜んでおりました。
先ほど海で獲った魚介類も使っております。」
皆が起きて来て玄武の作った思いの外美味しい魚介スープに舌鼓を打った。
そして荷物をまとめ、一路エルフの里へ向かった。
向かうと行ってもフェルトもおぼろげな記憶から取り敢えず内陸に進んでいたのだった。
「これではどうにも拉致があかないし、見落としている可能性もあるな。3組で空から探そう。」
という事で白虎には玄武が乗り、朱雀にはフェルトが乗りシャルロットは龍化した青龍に乗って空から下を探りながら里らしき場所を探した。
三組は横並びに下を探りながら飛んでいた。
するとフェルトと朱雀から口笛の合図があった。
皆そちらへ行くと、フェルトが、
「あの大きな木の下に少し開けた所があるそこに降りよう。」
そこに降りると上からでは分からなかったが、大きな木には大きなツリーハウスが作られていた。
よく見るとあちこちの木にツリーハウスが作られていて総てが吊橋の様な橋で結ばれている。
だがそこに人の気配は無かった。広場の脇の大きな木の対面には大きな岩の塔が2本ありその間に神殿の様な建物が建てられている。
「間違いない、ここがエルフの里だ。」
フェルトが呟いた。
「この木の大きなツリーハウスが女王の家だ。探って見てくれ。私は自分の家で手がかりを探して見る。」
そう言うと玄武を連れてフェルトは自分のツリーハウスへむかった。
ハウスの高さまではしごがあるが、古く苔も生えて居るため、シャルロット達は上まで飛んで入った。
シャルロットが家の扉を開け中に入った。
中は荒らされた跡などはなくただ人が居なくなったという感じであった。
クローゼトには服がそのまま掛けてあり、洗面所やキッチンにも生活感があった。
リビングの棚の上にはリーシアと思われる写真があり、一緒に黒いスーツの男性とリーシアに抱かれた小さな赤ん坊も写っていた。
「朱雀、この男の人は魔王様なのかい?」
「嗚呼ー、そうですこのお方こそ魔王様です。」
二人ともとても幸せそうに微笑んでいる。
(この赤ん坊が僕。やはり僕は魔王ルシファーとエルフのリーシア女王の娘なんだ。)
「お父様、お母様・・・。」
シャルロットは写真を見ている視界が涙で滲んで来るのを感じた。
青龍がお腹に手を回し抱きついて来た。
朱雀は後ろから抱きしめてくれた。白虎は足元に擦り寄って来る。
父母は既に居ないが今は家族がいる仲間たちがいる、こんな時には皆がシャルロットを慰めてくれている。
「お前たち、何でも無いよ。ちょっと目にゴミが入っただけだよ。」
写真立てを戻そうとした時に裏蓋が少し浮いているのが分かった。
何だろう木の裏蓋を開けてみるとそこには2つに折りたたんだメモが入っていた。開いて見ると、
「愛しいシャルロット、貴方がこのメモに気づいた時、私はもうこの家には居ないでしょう。
エルフ復興の鍵は祭壇にあります。祭壇を調べその鍵を見つけなさい。
貴方の母リーシアより。」
そこへ自分の家を調べに行っていたフェルトが戻って来た。
「フェルトどうでしたか?何か見つかりましたか?」
「いや、何も。どうも思い出ばかりが出てきて家から出られなくなる。」
そう応えたフェルトの目もまた赤くなっていた。
「フェルトこんなメモが残ってました。エルフの里の祭壇は何処にあるのですか?」
「祭壇なら前の広場の向かいにある神殿の中だ。行こう。」
一行は祭壇へと向かった。
扉には取ってやドアノブなどはなく、魔法で鍵が掛かっていて入れない様になっていた。
「フェルト解錠は出来ますか?」
「鍵穴も無いからな。
恐らく魔王にゆかりのある地なのだから、シャルロットの魔力を流す事で開くかも知れない。」
シャルロットは扉に手を当て解錠のイメージを描いた。
「オープン。」
「ガチャ。」
という音と共に扉が中へ開いた。
一行が中へ足を踏み入れると中はコロシアムの様なすり鉢状になっており、扉の側には左右に数列の椅子があり、すり鉢の底に円形のエリアと壁に祭壇があった。
円形のエリアの中央には古びた剣の柄が刺さっている。一行は祭壇迄降りて行った。
「何が鍵何だろう?」
祭壇を隅々まで調べたが特に変わったところは無い。
「シャルロット、その剣の柄を握って見てくれ。
私が握っても反応が無く抜けもしなかったが、魔王の血を継ぐお前ならば先程の扉同様に何か変化が有るかも知れない。」
シャルロットは剣の柄を握って見たすると剣がスルスルと引き抜かれ黒銀の輝きを放った。
それと同時に祭壇の壁に文字が浮かび上がった。
「汝の血をその書に捧げん、さすれば真実の扉は開かれん。」
「何でしょうこのメッセージは、私達に何を伝えようとしているのでしょうか?」
「その書というのは、例の読めない文字が書かれていたあの本の事ではないか?」
フェルトがそう言うと、シャルロットが空間に箱があるかの様に手を入れ中から本を取り出した。
本の表紙には彫刻のレリーフが掘られており、中央に盃の様なくぼみがある。
「ここに私の血を垂らせば何か変化が起きるかも知れない。」
シャルロットはそう言うとナイフで手のひらを切り、にじみ出た血を本のくぼみに垂らした。
するとくぼみから黒銀の光がレリーフを伝って本全体に広がり輝いた。
シャルロットがコロシアムの椅子に座ると切った左手を青龍が舐めていたので、右手でページをめくると、
「フェルト文字が読めます!」
「なるほど、魔王の血筋の者にしか読めない様に隠し文字になっていたのか。」
「何かエルフの里の復興のヒントになる様な事は書かれていないのか?」
フェルトとシャルロットは本を読み進めたがエルフ古来の魔法や祭壇での儀式に関する事ばかりで、里の復興に関係する事は書かれて居なかった。
最後のページをめくった時、
これは、この剣の事を言っているのではないでしょうか?
「なになに・・ 「エルフの里に封印されし魔剣グラム。その剣はエルフの族長であり鍛冶師でもあるローレンスが魔王サタンの魔力と魂を鍛えて創りしもの。如何なる者をも死に至らしめる悪魔の剣。故にそれを使役する者は魔王でなければならない。さもなくば剣に取り込まれるであろう。」
「なんだこれは、エルフでは無く魔王サタンの魔力と魂が使われているのか?」
フェルトとシャルロットは絶句した。魔剣が魔王の魂と引き換えに作られたとは。
「エルフの復興の為には天使達の悪行を止めるしか無い、しかし普通の武器では天使を倒す事が出来ない。だが、この魔剣グラムは魔王の魔力と魂でそれを可能にした唯一の武器という事か。」
フェルトが言った。
「でもそれじゃあ魔王で無いと剣を使う事が出来ない・・。まさか・・。」
「そうだな。魔王の血を引くお前だから剣を引き抜く事が出来たのだろう。
まあ、後はお前にだけ会いに来るという天使とやらを待つことにしよう。」
一行は神殿から出るとエルフの里で休む事にした。
エルフの森は動物や木の実が豊富にあり、食材に困る事は無かった。
料理はその腕を買われて、もっぱら玄武が行っていた。
最近では人の味付けがしてある料理が美味しいのか、或いは主様と同じものを食べるのがうれしいのか白虎も生肉を食べる事はなくなり、四獣達は人型に変化して、シャルロットやフェルトと同じ物を食べていた。
「主様、この兎のお肉美味しいですぅ(>ω<)」
青龍が美味しそうに口いっぱいにお肉を頬張っている。
「みんな、そろそろその主様って言うのはよしておくれよ。
皆にも「シャル」と呼んでほしい。」
「じゃぁあー、シャル姉様ぁー。」
青龍が甘えて抱きついてきた。
「私の事も青龍じゃなくて「アオネ」って呼んでね。」
「はいはい、アオネは甘えん坊だな。」
シャルロットはアオネの頭を優しく撫でてやった。
朱雀と白虎がその様子を見てもじもじしている。
「ん?お前たちもそうやって呼んで欲しいのかい?」
二人ともブンブン首を振っている。
「じゃあ、白虎は「シロネ」、朱雀は「アカネ」、玄武は「クロネ」かな。」
「クフっ、アカネ・・なんと心地よい・・・。」
「某は、シロネ、主様一番の下僕・・・。」
「そう、わしの名はクロネじゃ・・・。」
三獣も満足そうに自分の名前を反芻している。
「時にシャルロット様、天使共はいつここに現れるのでしょうか?」
アカネが聞いた。
「ん、どうだろうねいつ来るのかは解らない。
だがコカビエルはエルフの里でお会いしましょうと言っていた。
しばらくはここで過ごすことになるかも知れないね。」
パチパチと燃える焚き火の炎を見ていると、いつの間にか炎の向こうに誰かが立っていた。
「誰だ!」
フェルトがそう言い杖を構えた。
「いやいや、これは失礼しました。
つい私も皆様の会話を聞きながら、焚き火に見いってしまいました。」
「しばらくブリですシャルロット王女様。
そして皆様、私が天使?まだ天使と名乗って良いのか分かりませんがコカビエルと申します。」
「お前がコカビエルなのか?」
「はい、左様でございます。以後、お見知りおきを。」
「さて、それで私も天界で色々と調べてまいりまして、ここ迄の事の顛末をお話したいと思います。」
「天使の掟を破った者は堕天使すなわち魔族となりますが、その力は強大であった為、天使達も決定打を欠き天使達と魔族達は長きに渡り戦いが絶えませんでした。
そこで大天使ミカエルはこの戦いを終わらせ魔族を掃討する為に、強力な武器を準備する事を考えました。その武器が、エルフの里に伝わる魔剣グラムだったのです。
天使は、里に忍び込み、それを奪おうとしましたがルシフェル様の封印が掛けてあったため、その場で未完全な複製を作るのが精一杯でした。そう、それが先ほどお話されていた様に必殺の一撃にエルフの魂一つを使う聖剣なのです。しかしそちらの魔剣グラムは違います。それは古の魔王サタン様の魔力と魂が込められています。魔王ルシファー様だけが使役出来る特別な剣なのです。」
「やはり魔王ルシファーの剣だったのだな。」
フェルトが言った。
「さようでございます。魔剣グラムは代々の魔王様に受け継がれてきた魔剣なのです。そしてその剣は今まさにシャルロット様、貴方に受け継がれました。
話を戻しまして、魔王ルシファー様はその様な天使の所業に怒り、大天使ミカエルとの一騎打ちを行いましたが魔剣グラムはこのエルフの里に封印をしていったのです。まるで誰かに託すかの様に。
それが仇になったのかも知れませんが、ミカエルは聖剣エクスカリバーを使って、ルシファー様の命を奪ったのです。
ですがルシファー様は最後に自分の魔力をロンギヌスの槍に込め、ガイアの何十億の魂の内の1魂にその力を託されました。
その時、既に私も天使に記憶改ざんされ、この世界のエルフの存在を消されておりましたが、なんと魔王様とリーシア女王様はそのことを予期してかご自分達の生まれたばかりの娘をデミヒューマンに託し、ヒューマンとして育てられたのでした。
その幼子の魂が病気で亡くなった時に、奇跡的に魔王様のちからを受け継いだ貴方の魂が私の所へ転送されて来たのです!
そしてシャルロット様の器と一体となり!
魔王様がルシファー様がシャルロット様として再来されたのです!
そういう意味で正に貴方は真に奇跡の人なのです!
いや奇跡のエルフなのです! もとい、奇跡の魔王様なのです!
あ、失礼しましたちょっと興奮してしまいました。」
「なんだ、そうするとシャルロットは本来のシャルロットでは無いのか?でも魔王の魂を受け継いでいる?それで本来のシャルロットになった?何とも天界の話にはついて行けないな。」
フェルトが言った。
「そうですこの事は天使も魔族も誰も予期し得なかった事です。
私はそのことを、天使達の悪行を!
ルシファー様を倒す為にルシファー様が愛されたエルフ達に行った残虐な行為を!
こちらに見えるルシファー様のご友人であられるベリアル様に相談しました。」
するとコカビエルの後ろから銀髪の紳士が現れた。
「ベリアル様!」
神獣達が叫んだ。
「まさか・・。理事長貴方が!」
フェルトは驚愕し、叫んだ。
「え? あ!王宮でお会いしたあの時の・・。」
「やあ、フェルト魔導士、神獣たち久しぶりだね。そしてシャルロット、私の事を覚えていてくれて嬉しいよ。」
「貴方はかつて私の父と共に天使達と戦われていたのですか!?」
「そうだともルシファーは同じ志の元、天界から離脱し天使達と戦った私の最も尊敬する友だよ。しかしどうしてそれを?神獣達に聞いたのかな?」
「いえ、王宮で貴方と触れ合った時に、私の頭の中で貴方とお父様が背中を預け合って戦う姿のイメージがフラッシュバックしました。あの時は意味が分からなかったのですが、今理解出来ました。」
「そうか、シャルロットお前にはルシファーの血と魂が引き継がれているのだね。その記憶が一時的に蘇ったという事なのだろうね。
それで、先のコカビエルの話を引き継ぐと、彼の報告を受けた私は魔族と天界にいた時の神脈から協力者を募ってね、これだけの者達の賛同を得たのだよ。」
両手を広げたベリアルの背後にはいつの間にか1000に近い堕天使や魔族の者たちの姿があった。
「なんだこの数は!いつのまに。」
フェルトが驚愕した。
「私の友であったルシファーの娘であるシャルロット王女、いや新たな魔王、我々の準備は出来ています。 どうか我々に道をお示し下さい! 天使を打てと!大天使ミカエルを討てと!」
ベリアルは片膝をついてシャルロット返事を待った。
「理事長、いやベリアル様、ちょっと待って下さい。
大天使ミカエルとそれに従う天使達を打つ事は分かったのですが、どうやって天使達の所へ行くのでしょう? 囚われているかも知れないエルフ達はどうやって助け出すのですか?
そういった事が私達はまだ全然理解が準備が出来ていないのです。」
「そうですね、細かな作戦を端折って貴方を不安にさせてしまいましたね。
まず、天使達のいるところは上空の天使の門の向こう側になります。この門をくぐらねば天界にはいけません。外からでは天界は見えない、つまり天界の門が異次元空間である天界とこの世界をつなぐゲートなのです。
ここへは私達と共に向かいます。
エルフ達の救出には別働隊を作りましょう。
囚われている場所を知っている者に案内させます。
既にそこの見張りは我々の手の物です。
主な部隊は天使達を討伐します。」
「ベリアル様、今回の首謀者大天使ミカエルは私の父の敵であり、私のエルフ族の敵です。私が魔剣グラムで決着を付けたいと思います!」
シャルロットは固い決意を示した。
「そうおっしゃって頂けると信じてましたよ。
それと私の事はただのベリアルと呼んで下さい。貴方は私の友、ルシファーの生まれ変わりです。
また貴方と背中を預け合い戦える事を嬉しく思います。魔王様。」
「分かりました。」
それからシャルロット、フェルト、ベリアル、コカビエルの4人で作戦の詳細を話し合った。
「それでは皆様、作戦のおさらいをします。
エルフの皆さんの救出にはフェルト様を筆頭に数十人の堕天使と魔族が当たり、
残りの天使の討伐は私が指揮し、残りの堕天使と魔族が当たります。
ミカエルの討伐にはシャルロット様を筆頭にベリアル様と4獣たちが当たります。」
コカビエルが作戦の内容を復唱した。
「私はこの作戦を他の者たちに伝えて来ます。 王女様、皆様は明日に備えておやすみ下さい。」
その日、シャルロットはフェルトと一緒に寝た。
シャルロットは怖くて仕方なかった。大天使と戦えるのだろうか?勝てるのだろうか。
その重責と自信の無さから来る怯えがフェルトにも痛いほど伝わった。
「シャル、そんなに固くなるな。 怯えるな。
明日はこれまでやってきた事をミカエルに思いっきりぶつけてやればいい。
もう力の制御などする必要は無い。
最後は魔剣グラムでミカエルを討伐するだけだ。
大丈夫お前なら出来る。私もついている。」
そう言うとシャルロットを後ろから優しく抱きしめた。
フェルトはシャルロットにとって姉の様に、無くてはならない存在になっていた。
---閑話---
「皆さんこんにちは、コカビエルです。いやはやあのシャルロットさんの妹さんの様な幼子が青龍だったとはまたかという感じです。白虎さんしかり、玄武さんしかり、朱雀さんしかり、いつの間にか神獣のみなさんが揃われているとは、流石シャルロットさん私の想像を常に超えて来ますねー。というより私のシャルちゃん監視日記が当てにならない事が今回良くわかりました。さて私も明日に備えてもう寝る事にします・・・。」