第2章3 天使再び
そして一行はフィヨルドを目指し白虎・朱雀に乗り出発した。
フィヨルド迄はモリアに来た時と同様に途中地底の衛星都市の街で一泊し、二日の旅程を経てフィヨルドについた。
そこで宿をとり、宿の部屋からゲートを開いて王城へ戻ったのだった。
「国王陛下、ドワーフの国にて玄武を従え今戻りました。」
「よくぞ無事に戻られたシャルロット王女。
パイトスも案内の責務よくぞ果たしてくれた感謝するぞ。」
「してそちらの神々しい武人が玄武殿かな?」
「国王陛下、私が大地と水を司る神獣、玄武であります。
現在はこのシャルロット様の下僕として使えております。」
「玄武殿、シャルロット王女への協力感謝する。
今後もシャルロット王女には様々な苦難が待ち受けているだろう。
如何なる時も王女の支えとなって欲しい。」
「この玄武、命に代えましてもシャルロット様の盾となりお守りします。」
「それでシャルロット王女、次の予定は有るのかな?」
「はい、ヨツンヘイム近海で青龍を探したいと考えております。そして今宵はフィヨルドにて宿を取っておりますので、これにて失礼致します。」
シャルロット達一行はフィヨルドにもどるのであった。
フィヨルドの宿に戻った一行は夕食を取りながら今後の行動方針を話し合った。
「青龍がいるのは白虎と朱雀の情報からこのヨツンヘイムの北側の海でいいよね。
玄武は何か情報があるかい?」
「わたくしも青龍とは久しく会ってはおりませぬがヨツンヘイム周辺の海域であろうと思います。」
「青龍とはどんな神獣なんだい?」
フェルトが聞いた。
「全ての海と気候を統べる神獣、リバイアサンとも呼ばれております。」
「それなら何処の海に居ても可笑しく無いのでは無いか?」
「それが私にもよくわかりませんがここ10年ほどはヨツンヘイム周辺の海域から離れようとしていない様です。」
「いずれにしてもヨツンヘイムへ向かい、途中で青龍に遭遇出来れば良しとし遭遇出来なくてもそのままエルフの里へ行ましょう。エルフの里の確認後、北側と周辺の海域を探索する事にしましょう。」
食事を済ませ部屋に戻ろうとしたところをカウンターから呼び止められた。
「シャルロット様、お客様がロビーでお待ちです。」
(こんなところでお客?まさか?)
シャルロットはロビーへ行くとソファーに白いスーツにマスクを付けた小太りの紳士がソファに座っていた。
「貴方はコカビエルですね。今回はどんな御用ですか?」
「まあ、そんなに焦らないで、ひとまず座って下さい。」
コカビエルは落ち着いた様子で話した。
シャルロットが向かいのソファに座るとコカビエルが指を鳴らし、またしても周りの喧騒が静かになり、時が止まった。
フェルトと神獣達は少し離れた処でこちらへ歩み寄るところで止まっていた。
「実は私もあれから色々と調べたんですよ。
なぜこの世界を掌握している私がこの世界にエルフがいた事を知らなかったいや、失念していたのか。 どうやら天界のシステムに上位天使の介入と私の記憶改ざんがあった様なんです。
理由は解らないのですが、この事実を私は告発して良いものかどうかまだ迷っているんです。」
「何を言っているのか僕にはよく分かりません。」
「そう、そうでしょうねぇ。
私もまさか貴方がエルフの女王と魔王ルシフェル様の娘だったなんて事は思いもしませんでした。」
「魔王ルシフェル様!? 私が魔王の娘!?」
「はい、そうなんですよ。
おやそれはご存知なかったですか?」
「はい、知りませんでした。
私も父が誰なのか知りたかったのです。」
「そうでしたか。
しかも貴方はこの世界で魔王様と縁があるにもかかわらず、魔王様のちからは血縁として受け継いだものとは別に、貴方が転生する前に既にその魂が魔王様の力を持っていたのです!
更には私がその魂をシャルロット嬢の幼き肉体に転生させていたとは!
ああ、これは何と言う偶然でしょうまさに奇跡!
あっ、失礼少々興奮してしまいました。
何はともあれ奇跡の様な確率で貴方は一つになりこの世に再び生を受けたのです。
そしてどうやら恐ろしい事に先日お会いしたときの何倍も力が増加している様ですねぇ。
いったいそれはどういう事ですか?」
「この魔石の効果だと思います。」
シャルロットが杖を渡すと、
「おお、これはまた珍しい石ですな。
ふむふむなるほど。これはこれは上位天使の聖遺物、インテリジェンスデバイスですねぇ。
しかもルシフェル様の魔素と同じ波動を感じます。」
「正にこれを得て、生前の魔王様とほぼ同等のお力を得た様ですな。
しかし、本来であれば魂の監視の中で魔王様の力を発現させた貴方を私は大天使様に引き渡さなければならないのですが、先ほどお話した様に上位天使のシステム介入、私の記憶改ざんが分かった今、そう簡単に大天使様への報告をする訳には行かなくなりました。
ひょっとして貴方は、どうして天使様がこの世界のエルフの存在を隠していたのか・・。
何かご存知ですか?」
「分かりませんが、天使達はこの世界のエルフを定期的に拉致し、今では私とフェルトの二人だけになってしまいました。」
「なんと、天使がエルフ達を拉致ですか? これはまた穏やかな話ではありませんな。
何か客観的な証拠はありますか?」
「唯一あるのはこのエルフの女王リーシア様からのメッセージです。」
「拝見しても?」
シャルロットは指から指輪を外すとコカビエルに渡した。
「おお、これもルシフェル様の・・・、
ふむふむ・・・、メッセージが記録してあるようですね。
ちょっと失礼して」
コカビエルは何か四角い箱を取り出しその上に指輪を載せると、またあの映像が宙に現れた。
「私はエルフ族の女王リーシア。
愛しいシャルロット、私達エルフ族は大天使ルシフェル様を神として仰ぐ一族です。
ルシフェル様は神の戦いの度にその魔力と命を奪われる我らエルフ族の事に心を痛め、大天使ミカエルと忌まわしき聖剣を砕く為に、・・・・」
「なんとなんと! そうですか! そうでしたか!
あっ、すいませんちょっと興奮してしまいました。
指輪はお返しします。
それともう一つお伺いしてもよいでしょうか?」
「何ですか?」
「あちらの強面の武人は何方でしょうか?」
「ああ、あれは神獣の玄武です。」
「やはりですかぁ。いや参りましたねもう驚きません。
さてさて、それでは私も忙しくなりそうです。
最後に、貴方がたはこのメッセージの内容ですと、大天使ミカエル様を討伐されるおつもりですか?」
「分かりません。
天使が何処に居るのかもどれほどの力を持って居るのかも分かりませんし。」
「なるほどなるほど、私は一度はルシフェル様に忠誠を誓った身でした。
しかしルシフェル様が天界の掟を破り堕天使となった後はお力添えが出来ず、大天使ミカエルの手によって滅されてしまいました。
しかしこうしてこの世界でも黄泉の世界でも力を集中し、
私と貴方を巡りあわせて下さったこの奇跡は!
正に私にも!
天井世界の正義を成せと!
言っておられるものと確信しました!
あっ、すいませんちょっと興奮してしまいました。」
「それでシャルロットさん、当面、貴方はどうされるおつもりですか?」
「先ずは最後の神獣青龍を仲間にしてエルフの里を訪れたいと思います。
そこから先はまだ。」
「わかりました。
そしてここまでの話はあのお方ベリアル様にもご相談しなければ・・・。
あ、すいません。独り言です。
では、シャルロット様方は先ずは予定通り行動して下さい。
私も天使と魔族の中でこの正義を成す戦いの賛同者を集めます。
またエルフの里でお会いしましょう。」
「分かりました。
コカビエルさん宜しくお願いします。」
「ではシャルロット王女様、また後ほど・・・。」
コカビエルの姿が消え周囲の喧騒が戻って来た。
近くへ来たフェルトが、
「なんだ、お客じゃ無かったのか?」
と聞いて来た。
「その事で話があります。」
シャルロットはもうこれ以上隠しておくのは得策では無いと考え、皆を部屋へ集めた。
(さーて、さて、どうなってるんだ? この星のエルフを天使が拉致し魔力と魂を聖剣に込めるとは何やっているんだ!?
これは一大事です。 先ずはルシファー様と親身にされていたあのお方、ベリアル様にもこの事をご報告し、ご協力を賜らねばなりませんね。そして信頼出来る天界の仲間から順に当たって行くしか無いですねぇ。 そして、エルフのお仲間が天界で監禁されていないかも探る必要がありますねぇ。
どうやら 私もルシファー様の忘れ形見であるシャルロット様に忠義を尽くしたくなりました。)
「改まってどうしたんだシャル?」
「フェルト驚かないで聞いて下さい。
実は天使が接触してきています。」
「な!本当なのか!?我々をエルフと知って接触してきたのか?」
「いえ、最初は違いましたが今は我々がエルフだと知っています。」
「ちょっと待て、天使は道具の様にエルフの命を奪うのだぞ。忘れたのか?」
「はい、最初に接触して来たのは、王都の最後の夜でした。天使、いや、コカビエルという名前ですが、彼は彼と私以外の時間を止めて現れました。
そしてなぜ神獣を連れているのかやこれから何をするのかを聞いてきました。
私は、リーシアのメッセージの事エルフ復興の事を話しましたが、彼はこの世界にエルフが存在していた事を知らなかった様です。」
「そして先程また現れました。
彼は私が女王リーシアと大天使ルシフェル、魔王ルシファーの娘だといいました。」
「なに!お前が魔王の娘だと!?」
「主様は魔王様のご息女! お世継ぎか!」
フェルトも神獣達も一様に驚いた様子である。
「父は神の掟を破り堕天使となりエルフの存続を掛けて大天使と戦ったそうです。結果は大天使に敗北してしまいました。」
「そしてコカビエルは大天使がエルフの魔力と魂を糧に聖剣に力を与えていたという事を知らなかった様です。
それが分かった彼は私の大天使を打倒するという反旗に私たちの最終目的に力を貸そうと言ってくれました。」
「まさか、あのリーシア王女のメッセージを聞いた時は壮大過ぎて雲をつかむ話だったのが、こんなにも現実的になって来るとはな・・・。」
フェルトも驚愕していた。
「シャルロット王女様、我らの命は魔王様の世継ぎである貴方様と共にあります。」
神獣達もさらに忠誠を誓うのであった。
「それで、そのコカビエルとはまた会うのだろう?いつ何処で会うんだい?」
「青龍を仲間に付けてエルフの里を調査するという事は続けて欲しいという事です。」
「では先ずは青龍を見つける事が先決だな。
明日はヨツンヘイムへ向かう船を探すとしよう。」
今夜はシャルロットと朱雀、フェルトと白虎、玄武は床で小さな亀の姿で寝ていた。
「クフッ・・魔王様・・。」
今夜はやけに朱雀が体を撫で回してきたので中々眠れなかった。
---閑話---
「皆さま、こんにちは、コカビエルです。
今日はシャルロットさんと有意義な意見交換ができました。
やはりあの強面の武人は神獣玄武でしたか。
そして上位天使達の悪事も明確になりました。
まずはベリアル様にこの事を相談し、私の親身にしている天使達にも賛同頂かなくてはなりませんね。」