第2章2 玄武
--- 首都モリア ---
翌朝、宿の前で荷物を馬車に乗せていると、パイトスが昨日買った荷物を持って現れた。
「そいじゃこいつを乗せて出発するぜ。」
多くの荷物を馬車につぎ込むと人の座るスペースを残し馬車は一杯になった。
御者はパイトスが勤め、後の者は馬車に乗り込んだ。
「パイトス一つ聞きたいが、玄武はドワーフに取っては迷惑な存在なのか?」
フェルトが馬車の中からパイトスに尋ねた。
「頻繁にでは無いがたまに移動をする事があって、その時に迷宮や都市にダメージを与えたりするからな。
ただ、奴が動く事で新しい鉱床が出てきたりするから、昔は山の神としても崇めたりもしていた。」
「じゃあそんな神を連れ去ってしまったらそちらが困る事になるんじゃないかい?」
「今は採掘技術も昔より上がって、玄武が居なくても新しい鉱床を見つけたり、採掘したりできるからな。 どちらかというと迷宮に被害が出る事の方が大きい。」
「なるほど。 山の神も時代の変化にはついていけないか。」
途中徐々に馬車は山の中を走る様になり、崖の様なところを走る事も多くなった。
「この先に少し開けたところに山小屋があるからそこで休憩を取るぞい。」
少し行くと山小屋が見えてきた。他の馬車も3台ほど止まっている。
山小屋の中に入ると空いているテーブルに座り、食事を注文した。
二つ離れたテーブルで冒険者の会話が聞こえてきた。
「あんな怪物、俺たち冒険者じゃどうしようも無いぞ、今回の依頼はキャンセルしかない。」
「あのままじゃ首都モリアは大半が沈んじまう。」
その話を聞いてパイトスが話しかけた。
「お前さんらモリアの話をしておったが、何かあったのか?」
「ああ、モリアの近くの火山が噴火したんだよ。
山脈の地下で玄武が暴れたのが原因なんだが、噴出した岩石や溶岩が山脈のふもとのバイカル湖に流れこみそうなんだ。」
「なんじゃと、バイカル湖の湖畔にはモリアの都市が広がっておる。
湖の水が溢れたら都市が水没してしまう。」
「ああ、今ドワーフの国王がリップシュタットの冒険者を集めて玄武を地下山脈から追い出そうとしているんだが、あんな山の様に巨大な神獣は1000人集まったところで動かせるわけが無いって話だ。」
パイトスが暗い顔で戻って来た。
「どうしたんだパイトス何かあったのか?顔色が悪いぞ。」
戻ってきたパイトスにフェルトが尋ねた。
「ドワーフの首都モリアがあぶねえ。玄武のやつが暴れたみたいだ。」
「探さないと見つからないのかと思ったけどその手間は省けるみたいだね。」
シャルロットが言うと、
「そんな悠長な事を言うとる場合じゃねぇ。
これは一刻を争う。
わしの家族がモリアには住んどるんじゃ。」
「まあ落ち着け。その玄武はモリアで暴れているのかい?」
「モリアの近くの地下山脈の地下で動いたらしい。
その影響で火山が噴火してモリア近郊の湖に溶岩がながれこみつつあるようじゃ。」
「湖の水が溢れたらモリアが水没するかもしれん。」
「洞窟の入り口からモリア迄はどれくらい掛かるんだい?」
「馬車は使えんから早くて三日一杯かかるじゃろう。」
「そんなに! そんなんで間に合うの?」
「判らんが、玄武自体はそんなに早く動く魔獣では無いから何とか間に合って欲しいんじゃが。」
「冒険者やドワーフ達はどうしてるの?」
「採掘用のダイナマイトや魔法で玄武を追い立てているようじゃが、奴には全く効いておらん様じゃ。」
「奴自体が一つの山の様な物じゃからな。」
「だからと言って強行しても危ないだけだ。安全を確保して出来るだけ早く移動しよう。」
フェルトがそう言うと、皆早々にランチを切り上げて一行は出発した。
夕方に洞窟の周囲に出来た町に到着した。
一行は馬車を宿屋に預け、必要な荷物に絞り早速出発した。
入り口の関所で許可証を見せ洞窟に入った一行は意外と広い洞窟に驚いた。
高さは20m、幅は15mはありそうな広い洞窟である。
「フェルト、僕はもっと狭い通路の様な所かと思ってました。」
「確かにな私も初めて来たが山の中にこんなに広い空間を作ってあるとは思わなかったな。
だが確かに足元は岩や穴で凸凹しているから馬車は走れそうにないがな。」
「さあ今日のうちに行ける所迄いくぞい。」
「ちょっと待って、この広さなら、白虎と朱雀に載って飛んで行っても大丈夫なんじゃない?」
「主様、任せてください。」
二人同時に返事をし、白虎は虎に変化し、朱雀は鳥獣へと変化した。
白虎にはパイトスとシャルロットが乗り朱雀にはフェルトと足で荷物を掴んで飛んだ。
「さあ行くぞ白虎。」
「御身のままに」
白虎が宙をかける稲妻の様に走った。
そのあとを朱雀も羽ばたいて飛んだ。
「これは凄い。
これなら2日で着くかもしれん。」
パイトスは驚いた様子だ。
「白虎、上から伸びてる鍾乳石に気を付けて。」
「はい、主様。」
洞窟に入って3時間ほど飛んで来たところで急に洞窟が狭くなった為、一行は降りてしばらく歩き、今日は洞窟の中でビバークする事にした。
夕食は買って来た乾燥食材でパイトスがスープを作ったので、それとパンを食べた。
乾燥食材の割には美味しいスープだった。
「パイトスこのスープ美味しいね。」
「ああ、乾物は旨味が凝縮しておるからの。
水と塩を加えて煮込むとうまいスープの出来上がりだ。」
「洞窟の中はやっぱり真っ暗なんだね。」
「ああ、そうじゃがお前さんらに良いものを見せてやろう。
二人とも目を瞑ってくれ。」
二人と神獣が目を瞑った。
するとパイトスは魔鉱石の明かりを消し。
「もういいぞい。」
と声を掛けた。
全員が目を開けると洞窟の中は光る鉱石と夜光虫によって天井が星々が輝く星空の様に綺麗だった。
「うわー。綺麗だね。」
「これは凄いな。」
「洞窟の中も中々洒落た演出をするもんじゃろ。今夜は星でも数えて寝るとしよう。」
シャルロットは白虎を抱えて寝袋で寝た。
朝なのか判らないが目を覚ますと、パイトスが魔鉱石で朝食の準備をしていた。
「おはようパイトス」
「おお、お嬢ちゃんよく眠れたかい?」
近くの地下水が流れている場所でフェルトが顔を洗っていた。
「おはようフェルト」
「ああ、おはようシャル」
「主様おはようございます」
朱雀は鳥の姿で岩の上で眠っていた様で、こちらへ羽ばたいて降り立つと同時にいつもの美しい女性に変化した。
白虎も寝袋から出てきて水を飲んでいた。
「主様おはようございます。」
みんなでパイトスの作ったスープと目玉焼きとパンを食べながら地図を見た。この狭い道を10KMほど進むとまた道幅が広くなりさらに30km進むと町があるらしい。
今日はそこで泊まる事になるだろう。
お昼頃まで進むと道幅が広くなった。一旦休憩をし、また昨日の様に白虎と朱雀に乗って先を急いだ。
二人とも慣れてきたのか昨日よりペースが早かった広い道を2時間ほど進むと、その先の開けたところに町が見えてきた。
町に到着すると意外とこの町が大きく、人が多くいたのに驚いた。
宿屋にチェックインして、宿の中のレストランで食事を注文すると、パンをもって来たウェイトレスに、
「いつもこんなに多くの人がいるんですか?」
と尋ねた。すると、
「いいえ、いつもはもっと人の数は少ないです。」
「今日は冒険者の皆さんが一斉に引き上げて来ているらしくて、ここしばらくはこんな感じになりそうです。
神殿で怪我を直している方たちも多くいるそうですよ。」
地図を見るとこの町はモリアの衛星都市の様なもので、この町を中心に十字方向に地下通路が伸びている様である。
地図を広げるとそういった町がモリアを囲むように六つある。
「よく地下にこんなに広大な道や町や都市を築いたもんだねードワーフは凄いよ」
「ありがとよ。」
パイトスが自慢げに鼻をならした。
色どりのない茶色い感じの料理が出てきた。
何の肉なのかは判らないが、味は意外と美味しかった。
食事が終わってから神殿に行って見た。確かに多くの負傷した冒険者がいた。
やけどした者が多い様だ。冒険者の一人に、
「玄武と戦って怪我をされたのですか?」
と聞くと、
「ああ、あれは戦いではなく玄武にどいてもらう為に少しこづいてみただけさ。
玄武にしたらこづく事にもなっていないかも知れないがな。」
「そしたら溶岩や噴石が飛んで来やがってこの通り打撲とやけどさ。」
「玄武はそんなに大きいのですか?」
「大きいなんてもんじゃない、近くにいると玄武の前にいるのか後ろにいるのかさえ判らなくなるほどさ。」
「朱雀、神獣っていうのはそんなにも大きいものなの?」
「それは神獣によって違います。白虎の本来の姿は10mほどの虎、私は翼の長さが10mほどの鳥、玄武は高さが100mはある山のような亀です。青龍は100mはある龍でございます。」
「玄武は小さくなれるのかな」
「それは問題無いかと」
「だけど玄武は一体何をやっているんだい?」
「それは我らには判りませぬ。玄武に聞いて見ない事には。」
「そりゃそうだよね。」
一行は神殿を後にして宿で休む事にした。
その夜も神獣たちのシャルロット添い寝係の争奪があり、今回は順番で朱雀が勝ち取った。
洞窟の中は地下ではあったが、虫の声が心地良く聞こえていた。
翌朝、一行はレストランで地図を広げてモリア迄の道のりを確認した。
「後はこの町の北側の通路を40kmを一気に飛んで行けばモリアに着くね。」
「そうだな、この分なら午前中には着けそうだな」
「本当に白虎様と朱雀様のお力のお陰ですじゃ。有難うございます。」
「なに、某や朱雀の力は主様のお力である。」
「礼を言うなら主様に言う様に。」
「お嬢ちゃん、有難う。」
「お礼を言うのはこっちですよ。」
朝食後、町を出て通路を進み地図の通り広い通りに出た。
そこからはまた白虎と朱雀に乗り飛んでいった。
すると洞窟の向こうが明るく光が差していた。
その光の中に飛び込むと広大な空間に緑の山々と大きな湖に巨大な都市が目に飛び込んで来た。
一瞬地上に出てしまったかの様な錯覚に落ちたが、上を見ると洞窟でその天井までは1kmはあろうかという高さだった。そして所々水晶の塊のエリアがあり、そこから光が差し込んできていた。
「凄い!」
シャルロットは思わず叫んでいた。
パイトスが自分の家にまずは行きたいというので、そこまで飛んで行った。家の前で降り立つと、パイトスが家の中へ入っていった。
少しして
「皆さんどうぞ入ってください。」
パイトスの奥さんと思われる女性が出てきて皆を招き入れた。」
「中にはパイトスと娘がいた。」
「どうぞ皆さん、ようこそおいで下さいました。」
奥さんがお茶とクッキーを出してくれて一息ついた。
お茶はハーブティで香りと風味が心を安らかにした。
「まだ水は溢れていないですね。このお茶美味しい。」
「はい、溶岩の流出が一旦止まっている様です。良かったらお代わりどうぞ。」
「しかし、地下にまた山脈があって湖もあるって物凄いデスネ。
これもドワーフが作ったのですか?」
「いや、この空間は自然に出来たものです。
いや、もしかすると何百年も前に玄武様が作ったのかもしれません。
そこにドワーフが都市を作っただけです。」
「さあ一息ついた事ですし、そろそろ玄武に会いに行ってみましょうか。」
「あの煙が出ている山の地下にいるんですよね?」
「何処から地下に入ればいいのかな?」
「あの山の西のふもとに洞窟があるのでそこから入る事が出来る様です。
これまでの通路と違いずいぶん狭い通路を行く事になると思います。」
家の中ではパイトスは静かで奥さんばかりが話していた。
--- 玄武 ---
一行は白虎と朱雀に乗り、洞窟の入り口まで来た。
そこにはドワーフや冒険者達がテントを張り拠点にしていた。
いきなり現れた白虎と朱雀を見てドワーフも冒険者も驚いた様子で少しづつ近づいて来た。
「皆様は一体・・。」
「玄武が暴れていると聞いて鎮めに来た者たちです。」
フェルトがそういうと、
「我々はもうお手上げの状態です。
なのに貴方方にそのような事が出来るのでしょうか?」
「我々は既に2体の神獣を従えております。
玄武の頭の方へ案内してもらえますか?」
それなら北の入り口になります。
「北にも洞窟を掘っているのか?」
「はい、現在はこの2方向から刺激を与えてこの山の下から移動させようとしているところです。」
「フェルト、では僕たちも北側から玄武に会いに行きましょう。」
「そうだな交渉事は相手の目を見て話さないとな。」
一行は北側の入り口に着くと早速中へと進んだ。
1kmほど進んだところで大きな岩に突き当たった。
「何処が顔なのか分からないな。」
フェルトがぼやいた。
「玄武、聞こえますか?」
シャルロットが話しかけるも返事がない。
「白虎、朱雀、話して見てくれないか。」
「御意に」
「玄武、久しいな、わしじゃ白虎じゃ。」
「・・・」
「主様、少々刺激を与えますので少し下がってもらえますか?」
白虎を残し20mほど後ろへ下がった。
すると白虎の体から青白い放電が出始め、一気に玄武に放出された。
「うむ、この感覚、まさか白虎か?」
玄武の体に放電の余韻がバチバチと音を立てる中、玄武の声が聞こえた。
「そうじゃわしじゃ、白虎が遥々会いに来てやったのじゃ,顔を見せろ。」
そういうと、
「ちょっと待たれよ。」
玄武の一部だった岩が徐々に小さくなり、大きな空間の中に20mほどの玄武の姿が現れた。
「おお、久しいな白虎よ、なんじゃ後ろにおるのは朱雀姫か?」
「久しいな玄武よ。お主このような火山の下で何をしておるのじゃ?」
「それよりもお主らこそ何をしに遥々この様な地下にまでやってきたのじゃ?」
「我らは我らの主様の命によりお前と話をしに来たのだ。」
「お主らの主だと?」
シャルロットは白虎の前に出ると、
「玄武よ僕の名はシャルロット。
エルフの王女にして今は白虎、朱雀の主人でもある。」
「お前の助けが欲しい。
白虎、朱雀と同様僕と契約を結んでほしい。」
「妖精如きが契約をわしと結ぶじゃと?
白虎に朱雀姫よ、お主ら間が差したのか?」
「無礼な! 我らが主、シャルロット様を愚弄するとは許せん。
シャルロット様、玄武目にはお仕置きが必要と思われます。」
「全く、神獣というのはプライドが高いだけにこちらが力を示さねば、簡単には話もできんというわけか。
シャルロットここは一つお見舞いしてやれ。」
フェルトも同意した。
「仕方ない、マキシマイズグラビティ」
シャルロットの重力魔法が発動し、玄武の足が土にめり込むも玄武自体は平気な顔をしている。
「なんじゃこれしきの魔法が」
「ヘルサンダー」
玄武の上に暗雲が立ち込め幾本もの稲妻が玄武を襲う。立て続けに、
「ヘルボルケーノ」
玄武の下から真っ赤な溶岩が吹き出した。
「お主のこの魔法、魔属性なのか、お主は只の妖精ではないな。」
「そろそろ僕の話を聞く気になったのかい。」
シャルロットはフライで飛び玄武の頭の上に降りると、両手を玄武の頭にかざした。
すると黒銀の光が玄武を包み込み、
「なんだこれは幻術か?」
玄武の頭の中に魔王との想い出が駆けめぐる。
「玄武よ私を守れ・・・。玄武お前は最強の盾だ・・・。玄武、皆と共に戦おう・・・。」
「まさか、本当に魔王様の・・再来か・・・。」
「シャルロット様、失礼仕った。
この玄武、あなた様を主とし契約を結ばせていただきます。」
「有難う玄武、コントラクト」
「おお、この力は、まさに魔王様」
これまでの中で最も巨大な魔方陣が展開し玄武との契約が完了した。
「それで玄武、君はここで何をしているんだい?」
「実は私は長年にわたり、お姿を見せられない魔王様の為に魔属性の鉱石、魔鉱石を探しております。
ようやくこの地ににその鉱床がある事が分かり発掘をしておる次第です。」
「魔属性の鉱石、魔鉱石?
魔鉱石だと全ての属性の魔法の鉱石を総称して魔鉱石と言っているのだから区別がつかないな。」
フェルトが言った
「では魔王石というのはどうでしょう?」
シャルロットが言うと、
「うむ、そうだな取り敢えずはそうするとしよう。」
フェルトも納得した。
「それで、その魔王石というのは簡単に見つかる石では無いという事かね?」
フェルトが聞いた。
「はい、以前に私が見つけた小さな石は魔王様が妖精の女王に渡しました。」
「ひょっとしてこれの事かい?」
シャルロットはリップシュタット国王から譲り受けた指輪を見せた。
「おお、左様でございます。
それが魔王石です。それよりも大きな魔王石をこの場で発見し、いつかまた魔王様に会えた時にお渡ししようと考えておりました。」
シャルロットは確かにこの指輪をもらってからゲートやフライ、メッセージなどの自分では無属性と感じていた魔属性?の魔法が使いやすくなったと感じていた。
「その鉱石を見せてくれないか?」
「承知しました。こちらになります。」
玄武は「仁王像」の様な姿に変化し大人のこぶしほどの魔鉱石を手渡してくれた。
それは黒銀の輝きを放つ魔鉱石で、シャルロットの手に渡ると一瞬凄まじい光を放った。
「おお、主様素晴らしい、魔王石が主様を受け入れましたぞ。」
「そうなのか?石が主を受け入れる?まるで意思をもっている様な言い方だな。」
フェルトが聞いた。
「魔王石はまさに意思を持つ石にございます。
力の無い物や相応しく無い者が持った場合はその者を操り相応しい者に出会うまで人の手を渡って行きます。」
「凄い石だね。」
シャルロットはひょっとして石と会話が出来るのでは無いかと念を送ってみた。
「我が主様、私に新しい名前そう魔王石と名付けて頂き至極の幸せにございます。私に何か御用でしょうか?」
「お前は私を受け入れたのか?」
「はい、あなたこそ我が属性を余すこと無く活用できる主にございます。
末永く宜しくお願いします。
あなた様の持つ杖の先端に私を埋め込んで頂ければ他の属性の魔力も我が力で上げてご覧に入れます」
「石が話した。」
シャルロットは杖の先端の窪みに石を付けると勝手に石が変形し、他の魔石の輪郭を縁取る様に杖の先端に収まった。
「どうぞ、魔法を試し打ちして見て下さい。」
「アイシクルバースト」
さきほどまで玄武が居た巨大な空間にLV2の魔法アイシクルバーストを発動させた。
すると空間全体が氷付き極寒の洞窟へと姿を変えた。
「アイシクルバーストがこの威力だと? これではまるで違う魔法の様ではないか!」
フェルトが驚いて叫んだ。
「それこそが魔王石の力です。
他の属性の力をも相乗効果で引き上げる事が出来る魔石にございます。」
玄武が説明してくれた。
「玄武、これから我々は青龍の元へ行く。お前も一緒に来てくれるか?」
「仰せのままに」
玄武は跪いて了承した。
「その前にこの火山はお前が居なくなって今後噴火をする事は無いのか?」
フェルトが聞いた。
「私が活動していた事でマグマの活動も活発になっていましたが、私が去ればおさまって行くでしょう。」
「そうか、よかった」
シャルロット達は玄武と共にこの場所から去り、もう火山活動はおさまる事を洞窟の入り口にいたドワーフと冒険者達につげた。
「信じられない。」
「正に勇者様だ。」
「皆の者、此度の玄武鎮圧はこちらに御わすシャルロット王女様のお力である。
この事を語り伝えるが良い。」
フェルトがそう言うと。
「シャルロット王女万歳!」
冒険者やドワーフの兵士達は声を上げて喝采した。
「フェルト、ちょっと恥ずかしいです、やめて下さい。」
「この先我々の協力者を増やすためにも、単なる勇者などではなくお前の名前で手柄をアピールしておいたほうが良いからな。」
とフェルトが言った。
そうして白虎・朱雀に乗り颯爽と飛び去って行く姿を兵士達はいつまでも喝采し見送っていた。
「シャルロット王女万歳!」
パイトスの家に再び着くと、
「パイトス、私たちはこれから青龍がいるという北の海に向かうがその前にエルフの里へ向かうつもりだ。ドワーフの国の北側には港町か何かあるのだろうか?」
「え!玄武の方はどうなりましたので?」
「こっちらが玄武だ。」
「ドワーフよ、私が魔王石の採掘をしている間迷惑をかけた様だな。
何分お主らは小さすぎて認識できんかったわい。
火山はもう鎮まる故、心配はいらん。」
「流石、シャルロット王女様、玄武様まで従えるとは。」
パイトスは空いた口が塞がらない様子だ。
「そういう事なら後はこの都市の北側の通路をまっすぐ行くだけです。
途中来る時にあった様な町があるはずですので、そこで休まれるとよいでしょう。」
「後は出口が港町フィヨルドになります。
そこからは船を探すか、白虎様、朱雀様のあの宙を駆ける方法で海を渡れると思います。
エルフの国とされているアルブヘイムまでは半日ほどで着くはずです。」
「有難う。助かります。
それともしフィヨルドまで一緒にくるのであれば、そこからはゲートでリップシュタットの王城まで送り届けても良いけどどうする?」
「そうしてもらえるなら助かります。
わしもご一緒させて頂きます。」
---閑話---
「皆さんこんにちは、コカビエルです。今日のシャルロットさんにはまた新たなお友達が増えましたね。しかも随分と厳つい強面の方です。しかし用心しなければならないですね。まさかまた残る神獣では・・・。」