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天使の贖罪  作者: LoveDonald
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第2章1 天使



 --- 旅路 ---



 ドワーフの国ベレグオストはリップシュタットの東側に位置し、シャルドゴール山脈で隔てられている。


 ベレグオストはほぼ9割が山脈で平地と言えるエリアが無い。


 その為、ドワーフたちは山脈の地下に都市を作り、差し詰めダンジョンの様相である。


 首都モリアはベレグオストのほぼ中央の地下に位置している。


 モリアへ行くには王都を通って山脈の入り口となる洞窟から入り山脈の地下を通って行くか、先代王の様に海へ出て山脈を迂回して港町フィヨルドから入るかの何れかの方法である。


 その為、まずは一旦、王都へ行き国王陛下にもエルフの女王の伝言の通りまずは神獣を集める旅から始める事を伝えに行くつもりだ。


 「シャルロット、家族と離れるのは寂しいかい?」


 「ええ、今はまだとても寂しいです。

 でもこれから新たな旅をフェルトや神獣達と一緒にする事を思うと何だかワクワクしてきます。」


 シャルロットは白虎を撫でながら答えた。


 「フェルトは何歳の時にエルフの国からリップシュタットへきたのですか?」


 「私は15歳の時にリップシュタットへ来た。当時のエルフの里は国王陛下や指輪でリーシア王女が言っていた通り毎年の収穫時期の後にエルフの民が十数人天使達に攫われて行った。収穫時期の前には、攫われて行く者たちの手の甲に呪印が表れる為、収穫後にはその者たちに収穫した様々なご馳走を振る舞い、別れを惜しむのが慣例となっていた。私もそれが悲しくて毎年収穫の時期が来るのが嫌だった。その後呪印の表れた者たちは皆、天使の待つ天へと昇って行くのだ。

 私は、私が攫われる事や私を一人残して自分たちが攫われる事を案じた両親が、父の知り合いのルナールの家に手紙と共に私を送り出し、以後そこでヒューマンとして暮らしていた。そんな亜人社会の中での暮らしに慣れた頃、魔導士の試験を受けたのだが、元々エルフは魔力や多くの属性に適性を示せる種族なので、トントン拍子に王宮魔導士として、王宮内で魔法を教える職に付けた。」


 「それじゃ、王子様にも魔法を教えられたのですか?」


 「ああ、もちろん教えた。

 中等学校迄だがな。」


 「シャルロットの全属性適性や、魔力の大きさについては、エルフである事と女王の血筋である事が影響しているな。

 もう一つのユニーク属性については今のところ何とも分からないが。

 だが、この先に行くドワーフの国は様々な魔鉱石を採掘し他国に輸出する事で交易をしている国だ。

 シャルロットのユニーク属性に適合する魔鉱石もあるかもしれないな。」


 「そうですね。

 それとこれはエルフの里に行ってからかもしれませんが、僕の母はリーシア女王だと分かりましたが、父は誰なのかそれも知りたいです。」


 「そうだな。」


 「そう言えば白虎は人の姿には成れないの?」


 「成れない事はありませんが、その辺りの細かい変化は苦手なのでなれてもセリオン程度になります。」


 「では朱雀も白虎みたいに小鳥くらいには成れるのか?」


 フェルトが御者台にいる朱雀に聞いた。


 「妾も当然それくらいの事は容易にできます。

 でも妾は主様と同じヒューマンの姿でいたいのじゃ。」


 「このあたりで昼にするか。

 マーガレット公爵夫人がランチを作ってくれた。

 朱雀と白虎のもあるぞ。」


 大きなフリュード杉の下でランチを広げた。


 「朱雀、御者は疲れたかい? ここからは代わろうか?」


 「滅相もございません。」


 「主様、某がセリオンに変化して代わります。」


 「そうじゃ、白虎、お前ばかりが主様のお傍に居るのは不公平じゃ、次は交代じゃ。」


 「分かった、分かった。

 しかし主様、我ら神獣は何百年もの悠久の時を生きる獣、1日や二日御者を続ける事などなんでもありませぬ。お気を使われない様に。」


 「分かった。でも僕が悠久の時を生きられるのか分からないから、僕が生きている間は気を使わせて。」


 「有難きお言葉にございます。」


 「シャルロット、言っておくがエルフ族の者は寿命というものは無いぞ。

 大人に成長したら終末が訪れるまでそのままだ。

 ただし肉体が損壊したり、生きる事に対して怠惰である場合は死ぬ。」


 「え!? そうなんですか!?」


 「あー、そうだ。

 それもあってエルフは成長が遅い。

 お前のその幼女の様な体躯も10歳にしては小さいと思わないか?」


 「アハハ・・そういう事でしたか。

 いつもベスに「シャルはもっと食べなきゃ」って言われるわけですね。」


 シャルロットは食事の度に言っていたベスの笑顔を思い出し少し涙が出て泣き笑いになった。


 そんな様子を見て朱雀がやさしく肩を抱い頭におでこを当ててくれた。


 昼食も終わり、セリオン白虎が御者を代わり馬車の中は朱雀とシャルロットとフェルトの3人になった。


 シャルロットはお昼を食べて睡魔が襲って来てそのまま朱雀にもたれて寝てしまった。


 シャルロットの耳元で朱雀とフェルトが会話をしていたがそのまま朱雀に抱かれて寝てしまった。


 「魔王様・・・大天使ルシフェル様・・・ベリアル様・・・追放・・・」



 --- 王都再び ---



 夕方、ようやく王都についた。


 早速安い宿を取り、馬車を預けた。


 1階の食堂で軽く夕食を食べた後部屋に戻り誰が誰と寝るかが神獣の間で論争となった。


 結局クジで朱雀とシャルロットが、フェルトと白虎が同じベッドで寝る事になった。


 朱雀と寝るといい匂いがする。


 まるで母親のマーガレットの様な匂い、(おかあさんリーシア女王もこんなふうにいい匂いがするのだろうか。)


シャルロットは朱雀の胸に顔を近づけていつしか眠りについた。


 翌朝、朝食を済ませた一行は馬車で王宮を訪れた。

 シャルロットが国王様にお目通り願いたいとお伝えくださいと門番に言うと、ほどなくして執事が現れ、

 「ようこそおいで下さいました。

 国王陛下がお待ちですどうぞお入り下さい。」


 と中へ案内された。


 ある部屋で執事がノックをした。


 「コンコン、シャルロットお嬢様がおみえになりました。」


 「入れ。」


 「おお、よく見えたシャルロット王女。

 フェルト魔道士と神獣の方々も、まあ掛けてくれ。」


 部屋にはフィリップ王子も同席していた。

 王様が同じ円卓の席にシャルロット達も座る様に勧めた。


 「して今日はどういったお話しかな?」


 「はい、先日のエルフの女王の伝言のように先ずは残りの神獣を集める旅にでる事にしましたのでそれをお伝えに参りました。」


 「なるほど。して当面の目的は決まっておるのか?」


 「はいドワーフの国に玄武がいるそうなので先ずはそこへ行くつもりです。」


 シャルロットが答えた


 「父上、其れであれば城に鍛冶師のパイトスというドワーフ族の者がおります。その者に案内させてはどうでしょうか?」


 フィリップ王子が提案した。


 「なるほど、ドワーフ族の者がおればこの先旨く事が運ぶであろう。」


 「国王陛下、王子様、有り難きお申し出にございます。

 何分ドワーフ国には皆疎い者ばかりでしたので。」


 フェルトがお礼を言った。


 「では少し待ってくれるか?」


 「おい、鍛冶師のパイトスを連れて参れ。」


 王様は御付きの者に指示をした。


 しばらくしてドワーフのパイトスが現れた


 「王様、いったい何の御用で?」


 「うむ、パイトス、こちらはエルフの王女とその御付きの者達じゃ、皆ドワーフの国へ行こうとしておるのだがお主ドワーフの国まで道中案内してやってはくれぬか?」


 「何!?ドワーフの国へ行きたいじゃと?」


 「ではその前に、何をしにドワーフの国へ行きたいのか教えて戴きてえ。」


 パイトスは怪訝そうにシャルロット達をにらんだ。


 シャルロットはフェルトの方を見た。


 正直に話していいものかと、


 「なぁに、向こうへ着いたらわかる事だ、ここは正直に話しておいた方がいいだろう。」


 「わかりました。

 お話しましょう。

 目的は二つあります。

 一つは神獣である玄武がドワーフの国にいるという情報を掴みましたので、それを我々の仲間に引き入れたいということ。

 もう一つは私のユニークスキルに関する属性の魔鉱石を入手したいという事です。」


 「うむ、おぬし等の目的は分かった。だが神獣を仲間にしたいという点においては協力できんな。

 勘違いをしないでくれ、ドワーフにとっても玄武は地下都市を破壊したり、魔鉱石の採掘の邪魔になったりと良いことが無い。

 仲間にして連れ去ってくれるとなれば有難い話じゃ。

 しかしな、あれは人の力でどうにか出来るものでは無い、文字通り神の獣なのだから、下手をすれば死ぬ事になる。」


 「魔鉱石に関しては世に出ている魔鉱石以外に、どういう属性のものなのか分らぬ魔鉱石は幾種類か出ておる。

 それを手当たり次第試してみるのもいいが、種類が多すぎて簡単に見つかるものでは無いと思うが時間が許すのであれば試してみればよかろう。」


 「では魔鉱石に関しては協力して頂けるのですね。」


 シャルロットが聞いた。


 「ああ、採掘場の管理者には話をしてやろう。」


 「玄武の件に関しては、僕は既に2体の神獣と契約し従えています。

 ですので、まず玄武と話しをして、それから召喚術で仲間にします。」


 「なんじゃと2体の神獣じゃと?」


 「はい、こちらが朱雀で、こちらが白虎です。今は二人とも仮の姿をしていますが・・。」


 「本当に神獣なのか?どう見てもヒューマンとセリオンにしか見えんわい。」


 パイトスがそう言うと。


 朱雀と白虎が小さめの本来の姿へ変化した。


 「ほう、これは驚いた。

 そういう事ならわかった、王様の頼みだお主らに協力させてもらおう。」


 「しかし、おぬしエルフと言ったがあの特徴的な耳の形がないの。」


 「これですか、ビジブル」


 「おお、まさにエルフじゃ、元来エルフとドワーフはプライドが高い故に、いがみ会っていたのじゃが、天使の奴ら目がエルフを絶滅にまで追い込み、ドワーフとしても気の毒に思っていたのじゃ。

 昨日の敵は今日の友ではないがな。

 それにしてもなぜ隠しておるのじゃ。」


 「天使がエルフ族を何年にも渡り拉致していた災難を知って見えるのですね、ならばわかると思いますが、ここにエルフが居ると分かるような事をしていてはまずいので敢えて隠しております。」


 そういうと魔法で再度隠した。


 「インビジブル」


 「私の目指す処はエルフ族の復興もあります。

 その為にパイトスさんにも協力して頂けないでしょうか?」


 「わしにできる事なら協力しようとも。」


 こうしてドワーフの協力者を得る事ができたのであった。


 一行は王都でドワーフの国へ行く為の準備をする事とした。

 まずは地下迷宮に潜るために必要なものを調達するために王都の市場へ出向いた。市場とは言っても食料品以外にアクセサリーやその場で食べられる屋台、魔鉱石や洞窟で使う様々な道具が売られていた。一行は道具の準備と洞窟の入り口が関所になっているので、そこの通行許可証を購入した。


 「魔鉱石はこんなに沢山買うんだね。」


 「ああ、洞窟の中の都市は迷宮でつながれているが、流石に馬車で移動する事は出来ねぇ。」


 「迷宮内で寝泊りしながら都市を目指していくからな、照明や火起こし、水も必要になる。」


 パイトスは勝手知ったるで必要な物を買いあさっていった。


 王都から洞窟迄は1日掛かる為、今日は王都の宿屋で泊り、明日の朝出発する事にした。


 二日目の王都の宿は昨日泊まった宿と同じ宿をとった。


 1Fのレストランで食事を摂っていると、突然それまでの周囲の喧騒がピタリと止まるのを感じた。


周囲を見渡すとその場にいる全員の動きが止まっている。


 (何だ?なぜ僕だけが動いていられるんだ?誰かの魔法なのか?)


 すると一人の白いスーツを着た鳥の様なマスクを付けた小太りの紳士がこちらに歩いて来た。


 「こんばんわ、シャルロットお嬢様。で良かったかな?」


 「誰だ!貴方が時間を止めているのか?一体何の真似だ!」


 「そんなに警戒しないで下さい、この方がゆっくりお話出来るかと思います。」


 「貴方は一体何者・・・、だれですか?」


 「私の名はコカビエルと申します。

 貴方様は現在、神獣をお連れの様ですね、しかもそれは魔王様の下僕であった、白虎。

 5年間様子を見なかっただけで一体どうしてこうなってしまったのですかねー?」


 「5年間?」(5年前と言えば私がこの世界に来た時まさか)


 「貴方は私をこの世界に転生させた人ですか?」


 「お察しがいい。しかし人ですか。残念ながら私は人ではありません。こう見えても私は皆さまが信仰なさっている天使なのです。」


 「天使!! まさか私を! マキシマイズグラビティ!」


 「ゴッ!バキ!」


 天使と名乗った男の足元が床にめり込んだ


 「おっとこれは驚きましたね、天使と聞いてその様な反応を示す方には初めて出会いました。少し信仰心が足りない様ですね。しかし、その力の波動。なぜか貴方は、魔王様の力をお持ちでいますね。 なるほどなるほど、これがユニークスキルの正体ですか。」


 「シャルロットさん先ずはそんなに敵意をむき出しにしないで下さい。私はこう見えても貴方を我が子の様に成長の記録を付けて来たのですから。もちろん私は貴方に危害を加えるつもりはありません。」


 そういうとコカビエルは窪んだ床から出てきた。


 「よいしょと。」


 「私の成長の記録?危害を加えるつもりが無いのであれば・・、では何の用だ。」


 「はい、どうも私の日記のあなたと今の貴方が随分と様子が違いましたのでどういう事なのか様子を見に来ました。まあ、お姿は私の絵日記と変わっていないようですが。」


 「様子を見に?」


 「はい、先ずはいつどうやってその神獣を従えたのですか?」


 「白虎と朱雀はここ2ヶ月くらいの間に僕が召喚獣として従えたのです。」


 「まさか白虎は貴方様が拾われて飼われていると思っていた子猫ちゃん?」


 「はい、白虎は普段は子猫くらいの大きさです。」


 「あー、私としたことが重大な事を見落としていましたか。それで朱雀の方は?どちらにお連れですか?」


 「魔法学園対抗試合で僕が召喚契約を結びました。こちらの女性が朱雀です。」


 「インターハイの事ですね。しかしこの様な女性に変化しているとは。お姉さまのお友達かとおもっていました。しかし、よくその2頭いえ1頭と1羽が許可しましたね。」


 「僕からは魔王の匂いがすると言われ、従ってくれました。」


 「なるほど確かに、先程の力の波動であれば・・、そういう事ですね。」


 「それで貴方がたは何処へ行こうとしているのですか?」


 「僕の母、リーシア女王が他の神獣も従えエルフの里を復興して欲しいとメッセージを残したので、それに従って行動しているところです。」


 「リーシア女王?エルフの復興? それではまるで貴方、自分はエルフだと言っているのですか?」


 「そう、私はエルフの女王リーシアの娘、シャルロットです。」


 「なんと、なんと、この世界にエルフが存在する? その血を次ぐ者が魔王の力の一旦を示しさらにはエルフの王女であると! これは、これは、由々しき事ですが、先ずは調査が必要ですね。」


 「えーと、シャルロットさん、いや王女様なのかな。

 大体分かってきました。

 ご協力ありがとうございました。

 そして当面は貴方の思うがままに行動して下さい。

 またいずれ何処かでお会いしましょう。」


 そう言うとコカビエルは丁寧にお辞儀をして姿を消した、その途端に時間が動き出した。


 シャルロットは呆然としていた。


 「おいシャルロット聞いているか?」


 「え? 何をですか?」


 いつの間にか喧噪が戻っていた。


 「大丈夫か? またこの二人が誰と寝るかを争っているぞ。」


 「え? あ、そうですね。今日は順番で白虎と寝ます。」


 「あるじさまー私の胸でお眠りくださいー」


 朱雀ががっかりしていた。


 部屋へ戻る途中フェルトは床に足の形の凹みが有ることに気づいた。


 「こんな所凹んでいたか?」


 が、気の所為と思いそのまま部屋へ向かった。


 シャルロットは今あった事を話すべきか迷っていた。

 時を止める天使の話をして皆に心配をさせたく無い気持ちとコカビエルが言った「当面は貴方の思うがままに行動して下さい」と言った事もあり、シャルロットは自分の心の内に留めておく事にした。



---閑話---

 「皆さんこんにちは、コカビエルです。さてさて、どうしてこの世界を掌握している私が、この世界のエルフの存在を知らないのか調べる必要がありますね。それにシャルロットさんは魔王様の力を持ちながらエルフの国の王女だと言うではありませんか。しかも神獣を2体も従ているとは。私がこの5年の間ほぼ毎日つけていた「シャルちゃんの成長日記」は何だったのでしょうか?一体いつからこうなってしまったのでしょうねー。」



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