第1章11 魔法学園対抗試合 その2
翌日、いよいよ学園対抗試合も最終日となった。
初戦は1位トーナメントからケムニッツ第3学園対2位トーナメントのロンデウス第2学園の3位決定戦である。
開始早々ケムニッツの側は昨日と同じく5体のフェンリルと三人の獣人がロンデウスチームに向かった。
ドレイゼンチームからはフェンリル、バジリスク、ワイバーンの3体が向かった。
中間点で魔獣と獣人が相まみえるも数とレベルの差でケムニッツ側が押し切り、獣人2人とフェンリル1体がドレーゼンのチームに迫った。
ドレーゼン達は、
「アイシクルウォール(ドレーゼンチーム)」
で氷の壁をパーティの周囲に作り、内側から、
「ホリーアロー(ドレーゼンチーム)」
を放った。獣人達はイェローに変わりファイヤボールを放ち障壁を溶かすも、直ぐ様、ドレーゼンチームはサンドストームを張りケムニッツ側の進行を阻んだ。
サンドストーム の効果が切れたのを見計らって、獣人とフェンリルが飛び出すも、
「グランドスワンプ(ドレーゼンチーム)」
がサンドストームの下に仕掛けてあり、飛び込んだ獣人とフェンリルは身動きが取れなくなった。
ドレーゼンのチームは更にライガー2体を召喚し敵陣営に向かわせ、2人が敵チームに3人が獣人とフェンリルに魔法で攻撃を行い、獣人2人はレッドに変わりフェンリルも動かなくなった。
ケムニッツチームへの攻撃は防御魔法で防がれていたが、魔法の効果が消えたと同時にライガー達が襲いかかり、そこにドレーゼン達の魔法が着弾し、ケムニッツの残り2名もレッドに変わりロンデウス第2学園チームの勝ちとなった。
--- 魔法学園対抗試合 激突 ---
いよいよ大会のフィナーレを飾る最終試合となった。
ロンデウス第二学園対王都第一学園の戦いである。
2体の神獣同士の戦いでもあり、アリーナは割れんばかりの歓声に包まれていた。
開始早々、王都チームは
「サモン 朱雀」
朱雀を召喚し、ロンデウスチームも
「サモン 白虎」
「サモン ワイバーン(ベアトリス)」
「サモン バジリスク(ソフィア)」
を召喚した。
朱雀が飛び立ち白虎が駆け上ると、
「朱雀、久しいな。よもやこんな所で人間どものお遊びに興じて居るとはな。」
「・・・。」
「なんだ、某を忘れた訳ではあるまい?」
「・・・。」
「ヘルファイア!(朱雀)」
いきなりヘルファイアを白虎に放つも、稲妻の様な速さで白虎が避け、競技場の障壁が焼かれた。
「なんだ!障壁が焼けたぞ。大丈夫なのか?」
観客がざわめいた。
「白虎、避けるのはまずい、シールドで耐えて、ベアトリス達を守って。私は王都チームへ向かう。フライ。」
「御意に。」
朱雀は直ぐ様ロンデウスチームに向けて、
「ヘルファイア!(朱雀)」
を放った。そこへ白虎が稲妻の様な速さでロンデウスチームの前に入り、
「エレクトリカルシールド(白虎)」
稲妻を格子状に展開しヘルファイアを防いだ。ヘルファイアの着弾と共に轟音がなり響き、同時に白虎は朱雀に襲い掛かった。
白虎は鋭い爪と牙で、朱雀も鋭いくちばしと爪でお互い斬り掛かった。
地上では、ワイバーンとバジリスクが王都チームに向かうも、王都チームの防御魔法、
「サンドストーム(王都チーム)」
で近づけなくなっていた。そこへシャルが駆けつけ、
「メテオフォール(シャルロット)」
上空からの隕石攻撃を行い
「ホーリーアロー(シャルロット)」
を上空の魔法陣から放った。
王都チームは2名が脱落し、サンドストームが解けると同時にワイバーンとバジリスクが王子達に迫った。
直ぐ様1名が脱落したその時、上空から白虎が落ちる様に着地し、
「主殿、朱雀の様子がおかしいです。そう、まるで暴走をしている様です」
「暴走?白虎お前はベアトリス達を守って。」
「しかし主殿、某は」
「良いから行くんだ!」
「御意に!」
「人間どもめ、この私、朱雀を貶めるとはー、許さん!」
「ヘルファイア!(朱雀)」
ベアトリス達目掛けてヘルファイアが飛び、間一髪、白虎が間に入り
「エレクトリカルシールド(白虎)」
寸での所で防いだ。
「ヘルファイア!(朱雀)」
今度は王都チーム目掛けてヘルファイアが飛び、シャルロットが王都チーム側へ回り、
「ハードクリスタルドーム、アイシクルウォール(シャルロット)」
ダイアの硬さのクリスタルドームを王都陣営に展開し、内側に氷の壁を張った。
ヘルファイアが轟音と共に着弾したがドームは破壊されず、ドームの周囲のグランドが掘り下げられていた。
「王都チームが攻撃されているぞ!」
そんな叫び声もつかの間、空からヘルファイアの雨が降って来た。
グランドでは白虎とシャルロットがロンデウスチームと王都チームを守っていたが、魔法の障壁が持たなくなって来て、観客が慌てふためき一目散にアリーナの外へ避難していた。
シャルロットはそんな中、杖を朱雀に振りかざし、
「マキシマイズグラヴィティ!(シャルロット)」
を唱えた、すると上空にいた朱雀がグランドの中央に地面にめり込む様に落ちて来た。
「これは、流石、我が主様、凄まじい魔力であられる。」
白虎は感嘆し直ぐ様、主人の近くに寄り添った。
「人間どもめー許さんぞ!良くも妾を!」
「朱雀、落ち着いて! おとなしくするんだ!」
「黙れ人間風情が、妾を騙し操るとは!」
「朱雀、きさま主様に向かって何と言う無礼な!」
「お前は、白虎では無いか、人間を主様などとお前も謀られたのか!」
「黙れ朱雀、主様は魔王様の再来、お前も主様の偉大さをその身を持って知れ!」
「この抗えぬ力、人間よお前の仕業なのか? お前は何者だ!?」
「私の名はシャルロットと言います。今は私の過去を調べる為にこの白虎にも協力をしてもらっています。朱雀、魔王に使える神獣として白虎と共に私に協力をしてくれないだろうか。」
そう言うとシャルロットは朱雀の頭に手を置いた。シャルロットの手から黒銀に輝く光が溢れ出し朱雀を包み込んだ。それと同時にグラヴィティの効果は消えた。
「朱雀・・・、さあ飛ぶぞ朱雀・・・、付いて来れるか朱雀・・・、白虎と競争だ朱雀・・・。」
魔王との思い出が走馬灯の様に朱雀の頭の中を流れた。朱雀の瞳はいつしか涙が止まらない。
「ああ魔王様、私の愛しい御君・・・」
「朱雀、お前の怒りは良く分かる。 だが今は落ち着いておくれ、そして白虎同様私と召喚契約を結んで欲しい。」
「分かりましたシャルロット様、魔王様、御身のままに。」
「コントラクト(シャルロット)」
朱雀の周りに巨大な魔法陣が展開された。
「愛しい御身、一つお願いがあります。 私はこれ以上一時たりとも御身と離れたくはございません。 どうかこのままの姿で御身のお側に置いて下さい。」
「それじゃ白虎同様に邪魔にならない姿になってくれる?」
「御身のままに。」
そう言うと朱雀の体が火の粉となって消えていき、現れたのは炎髪金眼の美しい女性だった。
「これで常に御身のそばに居られますわ!。」
そう言ってシャルロットを抱きしめた。
「私は御身じゃなくてシャルロット。苦しいから離して。」
「ええい朱雀、主様から離れぬか!主様は某が守る故。」
そう言って白虎はいつもの様にシャルロットの頭の上で必死に後ろ足で朱雀を蹴っている。神獣たちとわちゃわちゃしていると、
「シャルロット嬢、少し良いだろうか。」
王子とチームメイトが声を掛けてきた。
「こ、このぉ人間風情がー!」
朱雀が吠えた。
「朱雀待って、 王子様何でしょうか?」
「先ほどは我々共々守って頂きありがとう。我々の完敗だ。」
「そして朱雀様これまでの無礼をお許しください。」
「許せるものか!人間風情が妾を力で使役しようなどと思い上がりも甚だしいわ。灰にしてくれようか!」
「まって朱雀、王子様たちはお前の強大な力を貸して欲しかったんだ。
僕はお前と同等の力を持っているから話が出来たけど、王子様たちにはそれしか方法が無かったんだよ。 今回は僕に免じて許しておくれ。」
「滅相もございません。御身が謝る様な事ではありませぬ。
それに御身の力が妾と同等など、妾では抗えぬ圧倒的な力を持ち、そして私の愛しいあのお方と同じ匂いを持つ貴方様と出会えたのは真に運命でございます。
どうかいつまでも我らの上に君臨して下さいまし。全ては御身のままに。」
「王子様、許してくれたみたいだけど不相応な力を持てばいつか破滅します。これからはそれを持つに相応しい力を修練して下さい。」
「シャルロット嬢、このフィリップそれを得るに相応しい力を持つまで鍛錬に励む所存です。その時まで待って頂けるだろうか?」
王子は片膝をついてシャルロットの手を取りキスをした。
「??はい?何を??」
「くっ!こーのぉ、人間風情がー!」
--- 宮廷舞踏会 ---
こうして学園対抗魔法試合はシャルロット達、第二学園の優勝で幕を閉じた。
その後、宮廷にて表彰式が行われた。
3位はドレーゼン率いるロンデウス第2学園、2位はフィリップ王子率いる王都第一学園、1位はベアトリス率いるロンデウス第2学園である。
特別賞としてMVPにはこの大会で神獣2体を従えたシャルロットが選ばれた。
表彰式を終え、一端ホテルに戻ったメンバーは、夜の宮廷舞踏会に向けて着替える事となった。
朱雀はほぼ下着の様な恰好だったので、ベアトリスの衣装を借りて着替えた。
王宮へは大型馬車で向かった。
「ようこそおいで下さいましたロンデウス公爵様。皆様」
入口では執事が出迎え会場に案内してくれた。
会場は広く中央に舞踏会用にスペースを取り、その周囲に立食パーティ用に様々な料理が並んでいた。
「うわー、美味しそうな料理が並んでるよー。」
「俺は腹ペコだぜ。」
「ドレーゼン達や先生方も来てるね。」
「フィリップ王子のチームも居るよ。」
舞踏会の開催に当たり国王陛下から挨拶があった。
「皆の者良く集まってくれた今宵の舞踏会は学園対抗魔法試合の慰労も兼ねておる。本日の上位3チームの若者は前に。」
シャルロット達は舞踏会上の王座に上る階段に並び2位の王子チーム、3位のドレーゼンチームが前に並んだ。
「この者たちが今大会の功労者であり本日の主賓でもある。
皆の者、今宵は大いに食べて飲んでそしてこの若者たちと踊り語らって意中の者を射止めてほしい。」
会場に音楽が流れ舞踏会が始まった。
と同時に王子と踊ろうという女子たちが広間へ流れ込んで来た。
駆け寄ってくる女性をしり目に、王子は振り返りシャルロットに片膝をついて手を差し出した。
「シャルロット嬢、私と一曲踊って頂けますか?」
シャルロットは困った様にベアトリスの方を向いた。
「シャル、王子様の申し出よ。踊ってらっしゃい。私達は向こうに居るわ。」
シャルロットは王子に手を差し出し、
「喜んで。」
二人は広間の中央で踊り始めた。
シャルロットは踊りはあまり得意でないがそれでも屋敷では教養の一環としてベアトリスと一緒に練習していた。
二人が踊りだすと会場の皆が羨望の眼差しで見入っていた。
周囲を見渡すとベアトリスも含めチームメンバーは王子チームのメンバーと踊っている様だった。
「シャルロット嬢、優勝おめでとう。
第二学園には凄い魔導士いがいると聞いてはいたが、まさか貴方の様に可愛らしい方でしかも神獣まで使役しているとは思いもしませんでした。」
踊りながら王子が話しかけてきた。
「僕もまさか王子様達が朱雀を使役しているとは思いませんでした。」
「お恥ずかしい、私達のは使役ではなくただ魔石の力で操っていただけです。
貴方を見て思いました。 本当に神獣と白虎様と信頼関係が出来ているのだと。」
「私もこれからもっと研鑽を積んで貴方に相応しい魔導士になろうと思います。
その時貴方に認められたならば私と婚約して頂けないだろうか?」
「え?はい? いや、あの僕はまだそんな事・・考えられないというか・・。」
「分かりました。貴方はそのまだ若い。
ですが私は本気だという事を覚えておいて欲しい。」
「その、まだ分かりませんが、覚えて置きます・・。」
曲が終わり、王子に丁寧にお辞儀をし、ベアトリスの所に行こうとしたシャルロットに、後ろから、
「シャルロット嬢、次は私と踊って頂けないだろうか?」
今度はドレーゼンが跪いていた。
「え?はい?あ、喜んで。」
「まあ、まあ、シャルロットは人気者さんね、貴方。」
母、マーガレットが嬉しそうにほほ笑んだ。
「うむ、我が娘はまだ幼い故、そう簡単には嫁がせる訳にはいかん。」
父、ラインハルトは複雑な表情で呟いた。
「主様も気苦労が絶えぬな。」
白虎は気の毒そうに呟いた。
「くっー!人間風情が魔王様と踊るなど。」
朱雀は悔しそうに呟いた。
「まあ、シャルのやつも良い人生経験になるだろ。」
フェルトも呟いた。
「あっー、私はもうおなかぺこぺこ。」
ベスは花より団子である。
皆、一様に感想を漏らしていた。
「フェルト先生、お久しぶりです。」
フィリップがグラスを持ってフェルトの所へ来た。
「フィリップ王子お久しぶりです。」
「シャルロット嬢は先生のご指南で成長されたのですね。
同じ生徒なのに私などより素晴らしい力を持っている。」
「シャルロットのあの力は生まれ持っての才能です。
努力してどうかなるものではありません。」
「それより王子、朱雀のあの召喚術は頂けませんでしたな。
3人掛かりで抑制していては、手数が足りない。
まして一人倒れたら今回の様に抑制は出来なくなる。」
「あれでも一応王都内では他のチームとの模擬戦で十分戦えたのですよ。
やはりシャルロット嬢の力に屈したという所です。」
「なるほど。しかしまあ、朱雀も収まる所を見つけた様ですし、今後ほかの神獣にちょっかいを出す様な時は今回の事を肝に銘じて下さい。」
「いや、神獣はしばらくはこりごりです。」
「シャルロット嬢、優勝おめでとう。
そして君の訓練のお陰で私たちも3位になる事が出来た。
ありがとう。」
「僕はただ当たり前の事を教えてただけ。
3位になれたのは君たちの実力。」
「それでも言わせてもらいたい。
そして私も更に研鑽を積み魔導士として少しでも君に近づきたいと思っている。
君と同じ高みに立てたとき、僕と交際してもらえないだろうか?」
「え?はい? いや、あの僕はまだそんな事・・考えられないというか・・。」
2曲目が終わりシャルロットはこれ以上、声を掛けられない様に足早にベス達の所へ行った。
「もう僕疲れちゃったよー。お腹も空いたし。」
「お帰りー、シャル。」
「主様、さ、さ、お腹が空いたのでは?この鳥の手羽など美味しいですよ。私が食べさせてあげます故。」
朱雀がお皿に色々盛って来てくれた。
「手羽先は共食いじゃないのか?」
フェルトが突っ込んだ。
「ありがとう朱雀。でも一人で食べられるからいいよ。」
朱雀が盛って来たものをパクついていると、先ほどまでラインハルト公爵と談笑していた銀髪の紳士がシャルロットの元へやって来た。
「やあ、シャルロット君。優勝おめでとう。君は我が学園史上私に次ぐ類まれな才能を持った生徒だねぇ。こうして会うのは初めてだが私もうれしいよ。」
シャルロットは初めて会う紳士だが手を差し伸べて来たので、手を挙げる様に差し出すと少し屈んで手の甲にキスをした。
すると突然電気が走った様にシャルロットの体が痺れ、頭の中にイメージが流れて来た。
それは二人の男性が背中を預け合い、羽を持った屈強な男たちと戦う姿であった。
シャルロットは慌てて手を引っ込めた。
「ではシャルロット君、いずれまた学園で会いましょう。」
紳士は笑顔でそう言うと王都の貴族達の方へ去っていった。
「フェルト先生、い、今のは誰ですか?」
「ん? あー、知らなかったのかお前の学園の理事長だ。」
「あの人が理事長!?」
「どうかしたのか?」
「あ、いえ、別に何でもありません・・。」
(何だあの感覚は? 僕と同じ?いや少し違うが何かとっても懐かしい感覚・・・。とても気になる存在だ。)
するとそこへ王宮の執事が現れ、
「ロンデウス公爵様、シャルロットお嬢様、フェルト魔導士様、王様がお呼びです。こちらへどうぞ。」
「主様、私もご一緒に・・。」
朱雀が申し出たが、
「今は3人呼ばれただけだから、白虎お前が来ておくれ。」
そう言うとシャルロットは白虎を抱きかかえて三人で執事の後に付いて行った。
別室にはすでに王様が待っていた。
---閑話---
「皆さまこんにちは、コカビエルです。今日はインターハイでの戦いでしょうか? しかしちょっと待って下さい、白虎と朱雀ですか誰が召喚しているのでしょうか?魔王様の神獣をインターハイで使役するとは、うむむむ・・・シャルロットさん大丈夫でしょうか?けがなどされなければ良いですが。コカビエルは心配です。」