第1章10 魔法学園対抗試合 その1
--- 魔法学園対抗試合 前日 ---
日曜日、いよいよ王都へ出発する時が来た。王都までは丸一日掛かる為、日曜日は移動日となる。
シャルロット達は大型馬車で父・母・祖父母・フェルト・執事・メイド2名・ベアトリス・シャルロットの10名が王都へ向かい、ホテルに5泊する予定である。
家族にしてみれば娘達の試合はついでの様なもので、王都への観光や社交界での情報交換が主の目的である。
ほかのメンバーもおよそ似たような構成でバラバラに王都へ向かう予定だ。
「ベアトリスにシャルロットは試合の準備は万全かな?」
父、ラインハルトが聞いて来た。
「勿論、優勝を狙っているわ。」
「それは頼もしいな。 シャルロットはどうかね?」
「お父様、僕も優勝を狙っているよ。」
「そうか、我が娘は二人とも頼もしいな。」
「シャルロット、試合で使用する魔法は第三位階迄の魔法にしておく様にな。」
フェルトが話しかけた。
「相手チームにそれ以上の位階魔法を使う者がいた場合もですか?」
「そうだ、第4位階魔法を使える物が居るとも思えないが、もし居たとしてもその辺りの差は白虎が埋めてくれるだろう。それよりもお前の魔法が必要以上に目立たない事の方が重要だ。」
「分かりました、フェルト先生」
長い馬車の旅も終わり王都での滞在場所のブリストルホテルに到着した。
ロビーではケニー、ソフィ、マリンの3人とドレーゼンのメンバーが先に到着して待っていた。
「みんな早かったわね。」
「ベス達のところは大人数だから大型馬車の足が遅いのは仕方ないな。」
「食事が済んだらベスの部屋で作戦の最終確認をしようよ。」
夕食は立食パーティの形式で参加しているのは第二学園メンバーの家族の他にイメルダ先生、王都の有力な貴族の方々も招かれており、ベアトリスもシャルロットも他のメンバーもあちこちで挨拶をしなければならなかった。
「そうですかこちらがご息女と明日のメンバーの方々ですな。第二学園の1位とは素晴らしい。ラインハルト公爵も鼻が高いですなー。」
この国の大臣を務めているアルフレッド侯爵がメンバーを値踏みするように眺めていた。
「おや?こちらの幼いお嬢様は姉上の試合を観に来られたのかな?」
「いいえ、大臣閣下。私も試合に参加いたしますのよ♪」
シャルロットが丁寧にお辞儀をした。
「いやこれは、驚きましたな。差し詰めこちらの・・(シャルロットです♪)シャルロット嬢様が第2学園の秘密兵器ですかな?」
大臣は冗談で言っているのだが、ベアトリス達は、当たっているだけに、苦笑いをするしかなかった。
「そうですか、そうですか、いや実に可愛らしい。
では王都学園の秘密も皆さまに特別にお教えしましょう。
フィリップ王子様達の召喚獣は何でも一撃で相手を倒してしまう凄まじい力を持っているそうですぞ。
どうか可愛いお嬢様方はお気をつけて。」
「有難うございます。大臣閣下♪」
どうにかこうにか晩餐会を抜け出したシャルロット達はベスの部屋に集まった。
「ねえ大臣の話聞いた?一撃で相手を倒すって、どこまでが本気だろうね?」
「王子は2位トーナメントだから、ドレーゼンに教えた方が良いんじゃない?まだ晩餐会にいるのかなー?」
「メッセージ、ドレーゼン」
「まだ晩餐会にいるの?王子チームの情報を聞いたから703号室に来て」
直ぐ様ドレーゼンが駆け込んで来た。
「シャルロット嬢!今のはなんだ?」
「メッセージだよ。」
「素晴らしい!素晴らしい魔法じゃないか。どうやるのか教えてもらえないだろうか?」
「いや、それシャルロットしか無理だし。呼んだのはそんな事の為じゃないし。」
ベアトリス達はアルフレッド大臣から聞いた召喚獣の事をドレーゼンに話した。
「うむ、それを聞いたところで何も手は打てない。
それが本当なら一撃で倒されるだけだし、冗談だとしても我々が立てている作戦で行くしか無いのだから。
まあでも王子達の初戦は我々では無いからそこで様子を見るとしよう。」
「それもそうね、それじゃ、まず明日の予定は2位トーナメントの王都チーム対ケルンチームの観戦ね。どんな凄い召喚獣か楽しみだね。」
「ケルンチームは明後日、私たちも戦うチームだからどんな戦い方をするのか要注意だね。」
「半数は魔人が占めるのなら空からの攻撃があるのかな?私たちの空の駒はシャルとワイバーンだね。」
「主様、某も宙を駆ける事など造作も無い事です。飛んでおる者たちなど叩き落としてくれますぞ。」
「宙を駆けるって・・。まあいいわ。」
「召喚獣は白虎以外温存しておいた方がいい。攻撃の邪魔になるだけ。」
「2回戦目のケムニッツも見ておかないとね。ひょっとして王都チームが破れたら次に当たるわけだしね。」
「そういうわけで、明日の試合は全て要注意で観ておく事。解散!」
--- 魔法学園対抗試合 朱雀 ---
翌日、いよいよ魔道学園対抗試合がスタートした。
第一試合は王都第一学園対ケルン第四学園の試合である。
この二位トーナメントの王都第一学園にはリップシュタット王国第一王子であるフィリップ王子が参加している。
ケルンチームはイメルダ先生の情報通り三人が魔人で二人がデミのチームである。
試合開始直後ケルンチームはワイバーン二体とガーゴイル一体を召喚し、三人も召喚魔獣と共に空へ飛び王都チームへ襲い掛かった。
対する王都チームも同時に召喚陣を形成していたが三人掛かりで巨大な召喚陣を形成していた。
「むっ、この気配は・・」
「如何した白虎、何か感じるのか?」
「主様、この気配は私と同格の神獣です・・そう、朱雀に間違いございません。」
「朱雀・・。」
巨大な召喚陣から姿を見せたのは、真っ赤に燃え盛る焔、いや巨大な鳥獣であった。
焔は空へと舞い上がり、
「ヘルファイア!」
第五位階魔法ヘルファイアを放った。
宙を舞って来たケルンの魔獣及び魔人は魔法一発でレッドシグナルとなり、地面に墜落してしまった。
続いて朱雀はデミの陣営に向け同じ様に
「ヘルファイア!」
を放った。
デミ達は必死に防御魔法「アイシクルシールド」を展開するも、ヘルファイアの業火であっけなく溶けてしまい、炎の渦の中心が竜巻の様に舞い上がり立ち消えた。
炎の後に残った二人もレッドシグナルとなり、あっという間に王都チームの勝利となった。
神獣一体で一方的な展開となり、スタジアムの観客は呆気にとられ一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声が上がった。
「良いぞ!フィリップ王子。」
「素敵よ!フィリップ王子様!」
シャル達のメンバーは一様に強張った表情をしていたが、当のシャルロットはワクワクし、何か面白いものを見つけたと言わんばかりに目が輝いていた。
「凄いよ、白虎、凄いよ、お姉ちゃん!」
「ちょ、凄いってねー、あんなのと真面にやれると思うの!」
「僕、楽しみでしょうがないよ!」
「ちょっと、召喚獣が魔法を使うって!しかも魔法一発でレッドシグナルで、防御魔法も通用しないってどうすればいいのよ! ああ、アルフレッド大臣の言った通りね。」
ベアトリスは絶望的な表情で言った。
「全くだ、全く参考にならなかったぞ。」
ケーニッヒも項垂れている。後の女子二人は言葉も出ない。
そうこうしているうちに第2試合のロンデウス第2学園とケムニッツ第三学園の戦いが始まった。
ケムニッツ第三学園は3名が獣人で2名がデミの構成である。
開始早々ケムニッツ第三学園はフェンリルを召喚し獣人3名が魔獣と一緒にロンデウス学園に遅い掛かった。
ロンデウス側は左右に、
「グランドスワンプ(ドレーゼンチーム)」
を展開し、中央に1本の通り道を形成した。
その為、フェンリルと獣人ははここに集中して通って来る事になり、ドレーゼン達はそこに魔法を集中して攻撃した。
「アイシクルダガー(ドレーゼンチーム)」
「ホーリーアロー(ドレーゼンチーム)」
「ファイヤボール(ドレーゼンチーム)」
「ライトニング(ドレーゼンチーム)」
「アイシクルバースト(ドレーゼンチーム)」
「ホーリーアロー(ドレーゼンチーム)」
「クリスタルダガー(ドレーゼンチーム)」
ケムニッツ側のフェンリルは3体とも倒れたが獣人3名はイエローシグナルで突っ込んで来た。
至近距離での戦いはスピードに優れた獣人に部があったが、それでも3対5での戦いで獣人3名はレッドシグナルで脱落し、ロンデウス側も一人脱落2名がイエローで2名がグリーンとなった。
「ファイヤーボール(ケムニッツチーム)」
「アイシクルダガー(ケムニッツチーム)」
獣人の脱落を見てケムニッツ側から魔法攻撃が放たれたが、ロンデウス側の、
「ストーンウォール(ドレーゼンチーム)」
で防がれた。ロンデウス側はライガー2頭とフェンリル1頭を放ちケムニッツ側を襲わせた。
ケムニッツ側が魔獣に応戦している間に、ロンデウス側から魔法攻撃が放たれた。
「ライトニング(ドレーゼンチーム)」
「アイシクルダガー(ドレーゼンチーム)」
「ホーリーアロー(ドレーゼンチーム)」
「アイシクルバースト(ドレーゼンチーム)」
ケムニッツ側は魔獣と魔法による攻撃でまたたく間にレッドシグナルとなり、ロンデウスチームが勝利した。
準決勝は午後からとなり、お昼のインターバルとなった。
シャルロット達はおスタジアムで購入したお弁当を食べながら午後からの戦いについて話をした。
「ドレーゼン達勝って良かったのかなー」
「今頃は食事も喉を通らないかもね」
「朱雀だっけ? あんなの出てきたら、ドレーゼン達もケルンの二の舞いだぜ。」
「白虎、朱雀と君は何方が強い?」
シャルロットは興味本位で聞いてみた。
「主様、某にも判りませんが、負ける気は毛頭ございません。」
「フェルト先生、朱雀が王都チームの召喚獣になっているという事は、王子もかなりのLvって事?」
「いやそうでは無い様だ、召喚術を3人で発動している様だったし、あの杖の魔鉱石も恐らく召喚術に特化した魔鉱石だと思われる。
つまりかなり無理をして朱雀を召喚していると考えられる。
したがってあの3名は攻撃に参加出来ないだろう。
だからといってあの朱雀の攻撃に耐える魔法を使えない限り勝算は無いだろうな。」
「ドレーゼンたち厳しいだろうなー。」
お昼の休憩はあっという間に終わり、準決勝の戦いが始まった。
初っ端にドレーゼン達は召喚獣を召喚し王都チームを襲せた。
王都チームは王子達3人で朱雀を召喚し、残り二人もライガーを召喚した。朱雀の召喚は少しタイムラグがあり、戦火の口火はパーティの中間点で魔獣同士の戦いから始まった。
直ぐにドレーゼン達は攻撃魔法を王都チームに放ったが、朱雀の姿が焔と共に立ち上り阻まれてしまった。
「アイシクルシールド(ドレーゼンチーム)」
「クリスタルウォール(ドレーゼンチーム)」
ドレーゼン達は朱雀の攻撃に備えて防御魔法を重ね掛けしていくが、
「ヘルファイア!」
朱雀のヘルファイアですべてのシールドが飛ばされ2名が脱落となった。
「3人残ってるぞ」
2人がイェローで1人がグリーンで残り、再度防御魔法を3重掛けした。
「アイシクルシールド(ドレーゼンチーム)」
「クリスタルウォール(ドレーゼンチーム)」
「エアリアルウォール(ドレーゼンチーム)」
「ヘルファイア!」
ヘルファイアは中間点でドレーゼンチームの魔獣が突破したのを見図り魔獣たちに放たれ全てが戦闘不能になった。 続けて、
「ヘルファイア!」
重ねがけした防御魔法もむなしくドレーゼンチームは全滅してしまった。
王都チームはドレーゼン達の魔法と1体逃げ切ったライガーによる攻撃を受けたが、一人がグリーンシグナル、一人がイェローシグナルになったのみであった。
「やっぱり駄目か・・。」
「でも防御魔法を重ね掛けする事で一撃で全滅する事は免れていたよね。」
「三重に重ね掛けしたら、全員残っていたかも。」
「残っていたとしても逆転は無理。」
シャル以外の全員が暗い顔をしたままホテルへの帰路についた。
ホテルでの夕食で、
「明日はいよいよ私達の番だね。」
「朱雀さえ居なければこっちには白虎がいるから勝てるのに。」
「何を言う小童、朱雀が居たとしても某が負けるはずがないぞ。」
「そうだったわね。」
「だけど王都チームは何を隠しているか分からないわ。」
「2位のトーナメントで朱雀だったら1位はもっと凄いのが出てくるんじゃない?」
「あれ以上って考えるのも嫌だわ。」
「お前たち、ここまで来たら当たって砕けるしか無いだろ。覚悟を決めるんだな。」
「一人、一番小さいのが楽しみでしょうがないって顔してるぞ。」
全員がシャルの様子を見て苦笑いをするのであった。
--- 魔法学園対抗試合 白虎 ---
翌日、いよいよ1位トーナメントの試合がスタートした。
最初の試合は王都第一学園チーム対ケムニッツ第三学園チームである。
どういう訳かは解らないが、王都チームは大した召喚獣は出ず、獣人が大半を占めるケムニッツチームに負けてしまった。
全員がこちらが王都の1位という事が理解出来ないでいた。
第二試合はいよいよロンデウス第2学園対ケルン第4学園である。
ケルンのチームは3人が魔人のチームである。
試合開始早々、シャルは白虎を召喚した。
「サモン 白虎」
巨大な召喚陣が展開し、空には暗雲が立ち込め雷鳴が轟いた。召喚陣の中から青白い電気を纏った5mを超える巨大な白虎がゆらりと踊り出た。
「ガァオォ!」
アリーナを振動させるほどの遠吠えに、会場は一瞬どよめき立ったが直ぐ様大歓声に変わった。
ケルンチームもワイバーンを召喚し三人の魔人と共にロンデウス学園チームに向かって飛んだ。
ベアトリス達はワイバーン、バジリスク、ベアウルフを出しケルンチームへ向かわせた。
シャルロットは白虎にまたがり、
「白虎、空の敵へ向かって!」
と声を掛けると、
「御意に。」
と白虎は応え、空に向かって稲妻の様に走って行った。よく見ると、白虎の足元には小さな召喚陣が次々と出来、その上を走り抜けては消えて行った。その召喚陣が稲妻の輝きに見えるのだった。
「マキシマイズトールハンマー!」
白虎はケルンの魔人達の前にあっという間に立ちはだかり、雷の第5位階範囲魔法トールハンマーを発動した。
「ウギャー」
幾つもの落雷が魔人たちとワイバーンを捉え、真っ黒に焦げたそれは地面に落ちて行った。魔人たちは全員がレッドシグナルである。
地上の方はベアトリス達が召喚した魔獣達がケルンチームの二人しかいないメンバーを襲い遅れてレッドシグナルとなり、あっという間にロンデウスチームが完勝した。
「やったね!」
「白虎、凄いよ空も飛べるんだね。」
「某は飛んだのではなく駆けたのである。これくらいは朝飯前なのだ。」
既に小さくなった白虎はシャルの頭の上で得意げに言った。
2試合が終わり、お昼のインターバルに入った。
シャルロット達はレストランでのランチに舌鼓を打ちながら、
「白虎がいれば明日の朱雀戦も何とかなりそうだね。」
「ベスったら、まだこのあとケムニッツとの戦いがあるのよ。」
「ケムニッツなんて楽勝だって。」
ランチタイムも終わりいよいよ1位トーナメントの決勝となった。
決勝は、先程勝ったロンデウス第2学園と王都チームに勝ったケムニッツ第3学園との対決である。
スタートの花火が上がり戦いが始まった。
ケムニッツ側はフェンリル5体を召喚し獣人三人とロンデウスチームに向かった。同時にロンデウスチームも白虎を始めワイバーン、バジリスク、ライガー2体を召喚し、ケムニッツチームへ向かった。途中、足の早い白虎がケムニッツの獣人2名とフェンリル2体を前足で払い除けそのままケムニッツチームに迫った。ケムニッツチームからファイヤボールにアイシクルダガーが飛ぶも白虎は前足で払い除け、
「マキシマイズトールハンマー(白虎)」
を放ちケムニッツ陣営の2名をレッドシグナルに変えた。後方では獣人1体とフェンリル3体がワイバーン、バジリスクベアウルフ2体と戦っていたが、数の多さでロンデウスチームが勝り、獣人がレッドシグナルとなってロンデウスチームの勝利となった。
ホテルに戻ったメンバーは緊張が解けぐったりしていた。
「何だか疲れたねー。」
「2試合とも召喚魔法しか使って無いのに凄く疲れたぁ。」
「明日はいよいよ朱雀のいる王子様チームだね。」
「明日の作戦考えておこうか?」
「まず間違いなく朱雀が出てくるだろうからそこは白虎にまかせて、私達は王都チームの二人に専念だね。」
「2対5だから楽勝だと思うけど先ずは魔獣を召喚して、後は様子を見ながら攻撃魔法だね。」
「恐らくあの二人は召喚獣は出すだろうけど、基本は朱雀に召喚魔法を掛けている3人を守る為に防御魔法を使って来るはず。」
「白虎が破れたら私達一気に焼かれちゃうよ。」
「お前たち、某が負けるはずがなかろう。」
「ホント? 頼むよ白虎。」
作戦会議を終え、夕食をさっさと済ませた彼らは明日に備えて早めに寝たのだった。