プロローグ2
ジンと村人たちの遺体をフードをかぶった剣士と埋葬をする。村はひどく荒れていてかつての面影は微塵もないほどだった。これをジンがしたのがにわかに信じられないがあいつが言うからジンで間違いないのだろう。
埋葬も終わったのでフードをかぶった剣士に溜まっていた疑問を投げかける。
「死体の埋葬を手伝ってくれたことには感謝する。だがジンはなぜああなってしまったのだ?そしてなぜあんたはここにいる?」
「死体の件はもう何度もやってきたこと故礼などいらぬ。あれは数年に一度行われる降霊の義の失敗した成れの果てじゃ。まず降霊の儀とは一人の贄を使いかつての英雄の魂を降ろさせる儀式のことじゃ。かつて成功した事例はないが成功すれば英雄と精神が融合し強大な力が手に入ると言われている。失敗すればお主が見たような光景が広がるだけじゃ。自我を失いただただ破壊の限りを尽くす殺人鬼と成り果てる。そしてワシはその儀式を止めるためにここに来たのじゃが、今回も間に合わなかったのが実情じゃ」
「なぜそんな危険な儀式が行われる?成功事例もあんたから聞いた話ではないと聞く。なのになぜその儀式が絶えないんだ?それにどうやって村を特定している?」
「力なきものでもこれが成功すれば一役英雄になれるからであろうな。数年に1度決められた場所でしかおこなえぬことがより拍車をかけているのじゃろう。英雄の器がいかに重いものなのかもはや儀式を行う連中は理解すらしておらぬよ。儀式は星読みの力を使いある程度の予測を立てる。幸いこの儀式は人の種族でしか行われてはおらぬので他種族のところに行く必要はないが、それでも特定にはかなりの時間を要する。故に今までワシはこの儀式の存在を知ってから20年ほど活動をしておるが、間に合った村は一つもない。最短で儀式完了後の暴走直前を止めたことくらいじゃな」やや疲れた様子でフードの剣士は語る。
「そうか…こんなくだらない儀式を人は繰り返してきてジンはその生贄にされたんだな」
「ああ…そういうことになる。最もなぜ生贄となることを了承したかまではもう知る手立てはないが…」
「話は変わるが時折見かける空間の歪みのようなのも儀式と関係あるのか?」
「なにっ!!お主も歪みが見えるのか?」驚いた様子で問いかけてくる。
「ああ、とはいってもまだ2箇所ほどでしか確認してないがな」
「あの歪みの先は正直誰にもわからん。生きて返ってきたものがおらぬからだ。だがあそこからモンスターがでてきているから首魁のようなものはいると考えて間違いないうじゃろう。あと歪みが多くの人間に見える時は儀式の日と重なるのは確認できておる。つまり歪みと儀式は無関係とは言えなんのが現状じゃな」腕を組み考えるような仕草でフードの剣士が言う。
「そうか…ならばいずれは解決しないといけない問題だな」
「今のお主の腕では無理じゃ」ピシャリと言い切られる。
「これでもアダマンタイト級でクラスは勇者だぞ?それでもダメなのか?」
「無理じゃ。まず第1にクラス勇者にはスキルにモンスター特攻がない。第2に過去にアダマンタイト級冒険者複数名のパーティが歪みを確認し乗り込み結果帰らぬ人となった。今も探索中なのか中ですでに全滅しておるかはしらぬが。以上2点の結果を踏まえればアダマンタイト級一人ではお話にならんだろう。パーティ探しは後々お主に任せるとしてまずはモンスター特攻を持つクラスチェンジし、ワシのもとで腕の底上げをすることはすぐにでもできる。お主に覚悟があるのならワシは手助けをしてやろう」
「ジンを手にかけそして歪みが関わりがありそうだと判明した時点で歪みの調査は俺の使命になった。あんたがその力を貸してくれるというのなら喜んで受け入れよう。よろしく頼む」そう言ってお辞儀をする。
「わかったまずは冒険者ギルドに行きクラスチェンジをしてまいれ。なる職業は抹殺者じゃ。あのクラスは忌み嫌われておるが裏スキルとしてモンスター特攻が付与されている。そしてそれが終わったらワシの住処に来てもらう」
「抹殺者か…主に処理係のなるクラスだな。とはいえクラスに裏スキルが有るなんて知らなかったぞ」
「当然じゃ殆どのものは上級クラスの裏スキルなど知らぬ。ちなみに勇者にも裏スキルはあり味方の数に応じてステータスボーナスがある。とはいっても多いパーティでも10人前後じゃから効果の実感は薄いだろうがな」
「ぼっちの俺なんて効果ゼロだな。なら何も迷うことはない。俺は抹殺者になり腕を磨いて歪みをつぶす」
「いい返事じゃ。では改めてよろしく頼むぞ。名乗るのが遅れたがわしの名はツバキじゃ」
「俺の名は……………イレイザーで構わない」
「ふむっ?まあ良いじゃろう。ではイレイザー夜が明けたら冒険者ギルドに向かうぞ」
「ああ、あいつのパーティメンバーにも報告しなきゃならないしな」
こうして二人は俺の家で仮眠をとることとなった。
翌朝、二人で朝一に冒険者ギルドに向かう場所はフレンギの街から東に行ったトールという城下町だ。
朝一に行ったのにも訳がある。ジンのパーティがいつ来るかわからないため待ち伏せしているのだ。
とはいえしばらくはこなさそうなので、テーブルでコーヒーを飲みながら待つ。
しばらくするとジンのパーティの二人が現れたので、大事な話があると声をかけ受付へと向かう
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」ニコニコとした表情で受付嬢が問いかけてくる。
「今日は重大な報告があってきた。後ろのアダマンタイト冒険者たちにも関係のある話だ。説明をしたいのでギルドの応接室を借りたい。あとギルド長も呼んでほしい」
「…はい、かしこまりました。奥の応接室をお使いください。ギルド長へも声をかけておきます」受付嬢も真剣な様子を感じ取ったのか深くは追求してこずそのまま奥へと通されることとなった。
「さて、こんな応接室にジンの親友さんが呼んできたってことはジン絡みかね?それにジンがいないようだがどうした?」ジンのギルドの一人のドワーフが話しかけてくる。名前は覚えていない。
「今ギルド長を呼びに行ってもらっているそれが揃ったら事情を説明しよう。それまではまってくれ
。あとジンは来ない」
「よほど重大なことらしいな。わかったよあんちゃんが言うならギルド長が来るまで待たせてもらうとするわ」そう言ってどかっと椅子に腰掛ける。
「ちょっと私は了承した覚えはないんだけど!依頼も片付けなきゃいけないのに早くしてほしいのだけど?」そういうのは確かヒーラーをやっていた女のはず。正直ジンのパーティ連中とは数えるほどしか交流がなく名前を覚えていない。
「ギルド長にも同じ報告しなきゃならんのだ。二度手間になるし全員揃うまで話はせんぞ。それが嫌なら一人で依頼を処理してくればいいだろ」こういう相手をいちいち相手していたらキリがないので毅然とした対応で対応する。
「私がヒーラーなの知ってるでしょ。わかったわ。待たせてもらうわよ。そのかわりギルド長が来たら用件を話してよ」ブスッとした表情でヒーラーが言い、ヒーラー含め他のパーティも渋々といった様子で椅子に腰掛ける。
15分ほど待っただろうか…ギルド長がノックをして入ってくる。
「お待たせして申し訳ない。重要な話があると聞いてやってきたのだが、早速話を聞かせてもらえるかな?」そういってギルド長も椅子に腰掛ける
「わかった。全員揃ったようなので報告を始めさせてもらう。単刀直入に言う。昨晩ジンが降霊の儀の生贄となり暴走。村人を惨殺し、襲いかかってきたため対象を討伐した」
全員が驚いた表情をしどよめきが走る。
「おい、あんちゃん。討伐ってどういうこった?そもそも降霊の儀とは何じゃ?それに暴走とは一体どういうことじゃ?わけが分からぬ順を追って説明せい」ドワーフの男が矢継ぎ早に質問をしてくる。
「わかった。俺も昨日聞いたばかりの知識なのだが、俺の知ってる限りで説明をさせてもらう。まず降霊の儀というのは数年に一度特定の場所で行われる人間種特有の儀式で、生贄を一人使いその身に英雄の魂を融合させる儀式らしい。そして儀式に失敗したものは暴走状態になり死ぬまで破壊の限りを尽くすらしい。そしてその暴走状態はいかなる方法でも解除することはできず破壊の限りを尽くす。そしてジンはフレンギの村人を惨殺し俺に襲いかかってきたため対象を討伐した。以上だ、ここまででなにかあるか?」あたりを見回す
「ふむ~。そのような儀式があり、ジンが生贄にされていたのはのう。にわかには信じがたい話じゃが、お前さんが嘘をついているとも思えん。とはいえあまりに急展開すぎて、今は現実を受け入れるので精一杯じゃのう」ドワーフの男が疲れたように椅子にもたれかかる。
「降霊の儀。噂には聞いていたが本当にあったとは…私もにわかには信じがたい報告を受け、正直戸惑っている。だが君は嘘を付くような人間でないことも私は知っているし、君とジンが親友だった事も知っている。親友を討たねばならなかったこととてもつらかっただろう」ギルド長が慰めてくれる
「正直つらい出来事でしたが同時に自分の使命も見つけることができました」
「ほう、それはなにかね?」ギルド長が興味深そうに問いかけてくる
「この世界には歪みのようなものがあります。歪みが見える人間と見えない人間がいるようですが自分には見えます。そしてその歪みと儀式は無関係ではないという情報を得ましたので、自分の腕を磨いて歪みの真相究明に全力を尽くしたいと思います。可能なのであればすべての歪の封鎖、それを実行したいと考えています」
「ふむ、歪みかね?歪みに関しては他の冒険者からも報告で聞いたことはある。そしてその歪みを確認できるパーティで調査に行った冒険者がいるが誰一人として生きて返ってこなかったことも。それでも調査するのかね?」ギルド長が問いかけてくるが、
「はい、俺の意思は変わりません。」俺もすでに覚悟を決めている。
「そうか、君がそこまで言うのなら私も止めはしない。だが、すでにアダマンタイト冒険者が先行して帰らぬ人となっている。貴重な人材を失うのはこちらとしても困る。調査に行く際はくれぐれも万全にしてから対処してくれ。それからそちらにいるのはジンのパーティだね?これからどうする?今のメンツでアダマンタイトが難しいのならいったんオリハルコンに戻させてもらうが?」ギルド長がアダマンタイトパーティに問いかける
「そうじゃのう。正直アタッカーのジンを失ったのは相当な痛手じゃ。アダマンタイトとしてやっていくのは無理じゃろう。それにワシ等も今はこの状況を飲み込むのがやっとじゃ。当面は活動中止じゃな」ドワーフの男が答える
「そうね。わたしも少し気持ちを整理する時間がほしいわ」ヒーラーの女も続く。
「そうか…俺からの報告も終わったし俺はクラスチェンジして修行に向かわせてもらう」一刻の時間ももったいないので席を立ち堆積しようとする。
「報告感謝する。私からは何もできないが修行、調査頑張ってくれたまえ」ギルド長からねぎらいの言葉をもらい小さく返事をし応接室を出る。向かう先は職業変更受付所だ。
職業変更受付所。冒険者ギルドの一角にありクラスアップするときや俺のように職業変更するときに使われる場所である。クラスアップは多いが基本的にクラスチェンジはよほどのことがない限り使われることはない。みんなクラスアップの時点でビルドは固まってるし裏スキルなんて認知されてなさそうだしな。もちろん有料である。
「おや?勇者の方ではあありませんか。こちらに来られるのは珍しいですね。こちらに来られたということはクラスチェンジでしょうか?」窓口の女性が物珍しそうに聞いてくる
「ああ。クラスチェンジをお願いしたい。クラスは抹殺者だ。いくらかかる?」
「えっ!?勇者から抹殺者ですか?本当にクラスチェンジされるのでしょうか?でしたら金貨5枚必要ですが…」驚いた様子で窓口の子が言ってくるその声を聞いていた冒険者も「よりによって抹殺者かよ」などどよめきがおきる。だが俺はその声を無視し
「金貨5枚だ。何番に入ればいい?」淡々とした口調で質問する
「はい、確かに金貨5枚いただきました。では4番のお部屋をお使いください…あの本当にクラスチェンジされるのでしょうか?今のままでもよろしい気がするのですが…」やはり異端者のなるクラスだけあるのだろう何度も確認するような様子で問いかけてくるが俺も覚悟は変わっていない。
「ああ俺は抹殺者にならなきゃならんのだ」そう短く答えて4番の部屋へと向かう
4番の部屋に入った俺は冒険者プレートをセットしクラスチェンジの段取りに入る。クラスチェンジと入っても大それたことはなくプレートをセットしなるクラスを選択するだけである。なりたいクラスから抹殺者を選択し、無事クラスチェンジは終わりとなった。
クラスチェンジも終えたので表で待たせているツバキのところへ向かう
「終わったのか?」ツバキが短く問いかけてくる
「ああ、報告もクラスチェンジも済んだ。あとはツバキに鍛えてもらうだけだ:
「そうか…では参るとしよう」ツバキが歩きだす
こうして俺はツバキと3年間修行することになるのであった。