プロローグ:終わりの始まり
初執筆ですよろしくおねがいします。自由気ままに書いていきたいと思っています。
「今日は降霊の儀の日か…今日こそはなんとしても止めねば。」
そう呟いた者の声は、雲ひとつない青空とは変わってとても暗い声だった。
冒険者ギルド。国や個人が依頼を出しそれを登録している様々なクラス・階級に分かれた冒険者が依頼を処理する。報酬・階級は依頼の難易度に応じて振り分けられまた冒険者も階級に応じた依頼を受けることができる。階級は下からブロンズ・シルバー・ゴールド・ミスリル・オリハルコン・アダマンタイトとなっている。
そんな冒険者階級の中で俺はクラスは勇者でレベル6の魔法を行使でき、つい先月俺は数少ないアダマンタイト冒険者に認定された。
とはいっても捌く依頼はドラゴン討伐といった武勲が高まりそうなものではなく野党退治といったシルバー階級の冒険者数名がいれば対応できそうなものだが、俺はパーティを組まずに一人でこういった依頼を優先的に対処している。アダマンタイトクラスでなければならない高度な依頼ももちろん取りこぼしがあれば対処するつもりだが、そもそもそういった依頼は月に一度あるかないかなので、別のアダマンタイト冒険者に任せている。武勲にも興味ないしな。ミスリル・オリハルコンクラスの依頼も依頼に対して冒険者のほうが多いので基本的に自分が対処することはない。
今日もシルバークラスの依頼でリザードマンの野党の討伐だった。いつものように完了報告を入れて帰って日課の鍛錬でもするかと思案しながら歩いていると、
「よう。依頼の帰りか?」
そう声をかけてきたのは同じ村で育った腐れ縁とも呼べる唯一無二の親友ジン。ジンは俺と違って5人のパーティを組み彼らもまたつい先日アダマンタイトに認定された冒険者だ。パーティの実力もさることながらジン自身の剣技・魔法もかなりレベルが高く、魔法は10あるレベルで5まで使える実力者だ。もっとも向こうも依頼を終えたあとなのか今はジン一人だ。
「ああ。野党の討伐をしてきた帰りだ」
「今日のは歯ごたえはあったのか?」
「いいや。数はそれなりにいたが大したことはなかったな。とはいえ首領はそれなりの身なりでレベル3の魔法を行使してきていたからおそらく魔法騎士団に入ったものの落ちこぼれて野党になった類なんだろうな。」
顎に手を置きながらそう俺は分析する。
「まあレベル3程度でも勇者のクラスでレベル6の魔法を使えるお前ならまあ相手にはならんだろうな」
「ああ。ただたまにパーティで組んで対処してみたいと思ったりすることもなくはないんだがな。やっぱり一人が一番気楽だな。それにしても一人でどうしてそんなところにいるんだ?」
ジンが待っているときは9割型模擬試合だがあえて訪ねてみる。
「俺が待ってるって言ったら一つだろ?」
「俺たちの町フレンギの観光ツアーか?ならそいつは楽しみだ。何せ知り尽くしているやつからの案内だ。きっと未知の地も発見されるだろう」
「同郷のやつが何寝ぼけたこと言ってやがる。それよりもいつもの模擬戦だ」
剣先をこちらに向けながらジンが言う。
「いいだろうただし報告を済ませてからだ。ついでに訓練所の使用許可ももらわないといけないしな。その間にルールを決めておいてくれ」
「ルールなんていつもどおり武技・魔法はレベル2まで。地に膝をついたら負けでいいだろ」
「わかった。ちょっとまってろ。」
そう告げて俺はギルドの受付へ向かう。受付はあらかた報告が終わったあとなのかまばらだったので空いてるカウンターへ向かった。
「こんにちは。依頼の受託ですか、報告ですかどちらでしょう?」
そう受付ギルドのネイアさんが尋ねてくる。
「討伐完了の報告と。シルバー案件04~07まで片付けてきた。報告書もここにある。あといつものように訓練所を貸してもらいたい。空き部屋はどうなっている?」
そう問いかけると受付嬢は書類に目を通しながら
「あ~今は使ってる部屋はないので1番でお願いします。いつも言ってますがレベル4の武技・魔法は禁止です。報告書も問題ありませんので行っていただいて結構ですよ」
「使わないから大丈夫だ。」それだけ返すとジンの元へ向かう。
「ジン、訓練所は押さえた」そういうと早速ギルドの地下にある訓練所へ向かう。
「今日は何番だ?」と聞かれたので
「今は閑古鳥だから1番だ」と返す。
「そうか」
それ以上返してくることはなく黙って1番訓練所に向かう。
訓練所は入り口が転移魔法でつながっていて管理された平原のフィールドに転送される仕組みになっている。
部屋に入りお互い間合いを取ったところで互いに模擬剣をもったところでジンが
「さて始めるとしよう。今日こそは勝たせてもらうとするぜ」
「そんなに勝ちがほしいなら金貨10枚で譲ってやるぞ」と冗談交じりで言ってみる。
「はっ!抜かせ」
その言葉を皮切りに激しい剣の応酬が繰り広げられる。
剣戟の合間に低位の魔法も発動されるがお互い決定打には至らずこう着状態が続く。
「はあはあ。俺もアダマンタイトになっただけあって腕が上がってるだろ?今日はさすがにその封印している左眼使ったほうがいいんじゃないか?」とジンがやや挑発交じりに言ってくる。
「ふー…確かにこの数ヶ月で見違えるほどに腕を上げているが、まだ使うには及ばないな。とは言えここまで刃を交わした返礼に新しい武技を疲労するとしよう」
そういうと俺は距離をとり正眼の構えを取り県と体に風の魔法を付与させる。
「そう簡単に武技を使わせるかよ」とジンは遣わせまいと距離をつめようとするがそんなのは関係ない。この技は特段溜める時間は必要ない。すばやく剣を左腕に乗せるような構えを取り返す刀で神速の一刀を叩き込む
「風剣七の太刀風切」その一太刀はガードの暇を与えず完璧にみぞおちに叩き込まれた。
「がはっ。」その一言を最後にジンは地に膝をつけた。
「ちくしょう。また勝てなかったか。最後のあれはなんだ?」そういってジンは仰向けに倒れこんだ。
「いや今回は俺も少し危なかった。あれは全身と剣に風を付与し全霊の一撃をこめたただの居合いに近い特性を持つ武技だ。とはいえ風を大きく纏わせてリーチを長くしたり神速の斬撃を飛ばしたり色々用途はある」
「そうかよ」よほど疲れたのかジンの返答は短いものだった。
数刻休憩の後。模擬剣をしまいお互い帰路も同じということもあって西の果ての村フレンギへ一緒に帰ることにした。
「こうやって帰るのも前の模擬戦以来だな」
「確かにな。とはいえ会えば模擬戦と一緒に帰るのはセットみたいなもんだしな。そういえばパーティメンバーとはうまくやれてるのか?」と俺は最近のパーティ事情を知らないので疑問に思ったことを聞いてみる。
「ああ、別に色恋沙汰もないしチーム同士の仲も良好だ。関係はきわめて良好だよ。そんなお前こそどうなんだよ?前の模擬戦以降で骨のある依頼はなんか受けたのか?」
「そうだな…」少し過去を振り返ってみる。
「まだ眼を使うほどの相手には出会ってはいないが、二ヶ月ほど前にレベル7の魔法を使う魔法剣士と戦ったのが一番手こずらされたな。幸いにも火属性に特化した魔法剣士で剣よりも魔法使いよりだったから水魔法で相殺しつつ武技でゴリ押しをしてその場は収める事ができたが一時間近く戦わされた」あの時は本当にきつかった。多様な属性で応酬されていたら流石に左眼を使ってステータスの底上げをしてもレベル差で負けていたかもしれない。高レベルの魔法を使うスペルキャスター相手との戦いは今後の課題と言える。
「そんな苦戦を強いられてんのに未だにパーティを組もうと考えないお前に尊敬するわ」ジンが嘆息混じりに答える。
「一人のほうが気楽なんだよ。いざというときには回復魔法も使えるしいちいち分前を分配する必要もない。人間関係にも気を使う必要もないしな。気心知れたやつなんてジン一人で十分さ」
「ったくそんな事言われたらなんもいえねーじゃねえか」頭をポリポリ掻きながらジンが照れた表情を見せる。
「っとここでお別れだな。」俺はフレンギの外れに住んでいるためジンとはここで別れることになる。
「ああ、そうだな」ジンの返事は短かった。
「じゃあまた明日」俺の挨拶にも短く「ああ」としか返ってこなかった。そしてこの会話がジンと交わした最後の会話になることをこのときの俺はまだ知らず、ジンが小さい声で「すまない」といっていたのも聞き取ることはできなかった。