06話 ゲド
俺は、蛇が食らいついた兵士と共にゲドの元へ向かっていた。
「ここだ…早く解毒剤を渡せ」
「解毒剤などない、その毒は後1時間もすれば
お前を殺すだろう。さっさと病院へ行くことだ」
「悪魔がああああ」
兵士は走って何処かへ行った。
「ここか…」
立派な扉がある。こんなところで優雅に暮らしているんだな。あの王女といい、この王国といい位の高いものにそれ相応の暮らしが与えられるらしい。
ドンッ!!!
扉をひと蹴りで蹴散らすとゲドと兵士達の姿が見えた。
そこには一度見た先程の兵士達も居た。
あの蛇に噛まれた兵士以外は逃げ出したと
思っていたが、ここに居たのか。
「ゲド、久しぶりだな」
「貴様は死んだと思っていたが…何故生きている」
「…知らん」
「面白いな貴様…神経毒と出血毒の2種類を持つ
ビルマニシキの毒が効かないとは…たまたま毒を出さなかったか?貴様でもう一度試す価値がありそうだ」
神経毒と出血毒を持っていたのか。
神経毒は、神経伝達を攪乱し、骨格筋を弛緩或いは収縮させることで身体を麻痺させる。
出血毒は、血液のプロトロンビンを活性化させ、血液を凝固させ、絶命させる。
このビルマニシキという蛇は、よりその毒が強いのだろう。30分で死に至らしめると言っていた。
それだけの毒をもらい
何故、俺が死ななかったのかは確かに不思議だ。
俺のスキル ヴェノムの効果か?
「貴様には、もう一度体験してもらおう、致命傷を与えた上でな!スキル 火炎!」
ゲドの手の平に魔法陣が描かれ、
俺に向かって火の玉がいくつも向かってくる。
「ちっヴェノム シールド!」
蛇が無数に絡みついた盾が出現する。
そして火の玉を受け止める。
「なぜ、貴様がスキルを使えている!!」
さっきまで、落ち着いて話していたゲドの表情が
一転して変わる。それもそのはずだ。
こいつは俺がスキルを使えず、勇者になれずに牢獄へぶち込まれたことを知っている。そして、牢獄で反撃のできない俺を執拗な程、虐めた。
その確信があったからこそ
俺にスキルを放ってきたのだろう。
「お前の蛇のおかけだ」
俺は嫌みたらしく言う。
「蛇のおかげ…?」
「今度は俺の番だ。お前がくれた蛇ではないが、
お前にお礼をしてやる」
俺は、蛇を何匹か手元から出してみせる。
ゲドは興奮しながらいう。
「化け物が!!」
誰が化け物だ。
お前のせいだろうが。
「化け物風情が俺様に勝てると思うな!
ファイヤーショット!」
「ヴェノム シールド!」
降り注ぐ火の矢を防ぐと
そして、俺はすかさず、
手から生み出した蛇達を投げつける。
「食いつけ!」
ガブッ!
「ぐおお…放せ…!放せぇ!!!」
その言葉を無視するように蛇は噛み付く。
ゲドは、その痛みで部屋の窓側まで
後退していく。
「そいつは毒蛇だ。食らえば1時間で死ぬ。
解毒剤を渡してやるから俺に謝罪しろ」
「ぐおおお…化け物があああ!!」
ゲドは、俺の忠告も聞かず、
俺に呪文を放とうとする。
しかし、呪文は発動することはなかった。
なぜなら、ゲドが足元の蛇に躓き、
窓ガラスをぶち破って落ちていったからだ。
「ぐわあああああああ」
ドサッ
地面に落ちた音がした。
「死んだか…?」
俺に殺すつもりはなかったのだが…
実は、毒蛇というのは嘘だ。
ここにくる前に、色々と試してみたのだが、
俺のスキルから生じる蛇は、毒蛇か無毒の蛇を選ぶことが出来るみたいだ。
先程の兵士、そしてゲドに放っていた蛇は無毒の蛇。つまり、毒というのはハッタリだ。
驚かせ、謝罪させるつもりだったのだが…
「哀れな最後だな…」
そういって、ゲドの死体を確認した後、
振り向くと兵士達が全員槍を俺に向けている。
「さっきのゲドを見ただろう。ゲドに従えるお前達が俺に敵うとでも思っているのか?」
「ぐっ」
兵士の一人が顔をしかめる。
「俺がお前らと戦う特別な理由はない」
そう言うと、徐々に兵士達は引き下がる。
それでいい。
俺も無残に人を殺したいわけではない。
「じゃあな」
俺は、近隣の森を抜け、
見つからないように王国から抜け出すのであった。