14話 シザーの森
♢
次の日。
俺は、今後、長旅になることに備え、
資金稼ぎをしようと例の草原へ行き、魔物を討伐したのだが…。
「ゴールド1枚ですね…ヒッヒッヒ」
少ない。あれから何度かあの草原へは、足を運んだのだが、何故か数が減っていた。
魔物を倒さなければ、金は手に入らない。
商人をやろうにも知識と道具がない。
困った俺は、商人に聞く。
「俺たちでも行ける、他の魔物が狩れる場所はないか?」
「ヒッヒッヒ…お二人のレベルなら
このシザーの森が良さそうかと」
あの草原から少し西へ行ったところだ。
地図の感じだと、恐らくは歩いていける距離だろう。
「行くの?」
「まぁ、草原に魔物がいないんじゃ、
シザーの森へ行ってみるしかないだろう」
♢
シザーの森。かなり深い森らしく、一度迷うと出られない迷宮の森とも呼ばれているらしい。
「こんな不気味な場所に案内するなんてやっぱあの商人おかしいわ」
「まぁあいつは見るからに怪しいが…」
「迷ったらどうするの?」
「それは大丈夫だ」
俺は、蛇を取り出し、入り口に置く。
「一定間隔で、蛇を置いて行く。もちろん
アイズをかけてある」
「本当に便利な蛇ね…」
♢
しばらく進むと、川がある場所に出た。
「綺麗な川!飲めるかしら!」
「 ミラー」
汚染はなし。不純物もなし。
「飲める。問題ない」
「…ユウヘイのスキルって、ミラーとか
アイズとか、なんか用心深い人の為にあるようなスキルばかりね」
言われてみると確かにそうかもしれない。
スキル名もヴェノムだ。
まるで、復讐を仕掛ける為のスキルにも思えるな。
その時だ。
ん…何やら蛇に反応がある。
俺は、瞬時に反応がある蛇の視点に変える。
何かが見える。
あれは…なんだ。
ゴブリンやモグラのような魔物とは違う図体のデカさ。高さだけでもゴブリンの3倍はある。
姿は、ツノが生えたイノシシに似ていると
でも言えばいいだろうか。
そのイノシシに似た魔物は、俺が監視している蛇に向かって口を大きく開き食べようとしている。
俺はすかさずスキルを発動する。
「ボマー」
ドゴン…
森の少し奥で爆発音がする。
やったか?
いや、あのデカさだ。恐らく死んでいない。
「なによ、今の爆発音は!」
水を必死に飲んでいたのか
髪をビショビショに濡らしたエルザがでてくる。
お前は、何をやっているんだと、
ツッコミを入れたいが、我慢する。
「敵だ。一匹、爆発させたが、まだ生きている可能性が高い」
「あの爆発で倒せない敵って凄くでかいんじゃ…」
ブオオオオオオオン!
何かが叫び声をあげながら
目の前の森から突進してくる。
「なによ、この鳴き声は!」
「さっきの奴だ…来るぞ!」
ブオオオオン!
姿を表すと、ツノを凛々しく高らかにあげながら
俺たちに向かって吠える。
「デカすぎよ!!!」
俺と違って、ゴブリンとは比べ物にならない巨大な
魔物を初めて見たエルザは驚いている。
俺は、すかさず蛇をイノシシに似た魔物の全ての足に向かって投げつける。蛇は、丸く巻き付き魔物を離さない。
「ヴェノム ロック!」
すると、蛇は石型の手枷へと姿を変えて魔物の動きを止める。
魔物は身動きが取れなくなったことに驚き、暴れている。
「やった捉えたわ!後は私が!
ウォータースパイラ…」
「まだだ!詠唱をやめろ!!」
そう言い放ったと同時に手枷が弾ける。
自由になった魔物はツノで突き刺そうと
エルザに襲いかかる。
「ひえ!」
エルザは、情けない声を出しながらも横に飛び、
魔物の攻撃をなんとか避ける。
「もしあのまま詠唱を続けていたら…ぞっとするわ…」
「礼を言う暇があれば体制を立て直せ、また来るぞ」
魔物は、後ろの右足を後方に下げながら、
今にも突進の構えに入っている。
こいつの一撃を喰らえば、間違いなく死を意味する。
長期戦は避けたい。
ならば…
「エルザ、お前は左に思いっきり走ってあいつの気をそらせ」
「…はい?そんなことしたら私吹っ飛ばされてしまうじゃない!」
「任せておけ、策はある」
「…死んだら一生恨むわよ!!」
エルザはそう言いながら、左に大きく旋回する。
魔物はエルザに向けて、突進する。
標的を変えたようだ。
俺は一息つくと、先程と同じように蛇を投げる。
「ヴェノム ロック」
追いかけられながら、エルザは言う。
「それはさっき、破られたじゃない!きゃあああああああ」
違う。これはただの時間稼ぎだ。
俺が放っていた蛇をすべて集めるための。
ザザザザザ
森の奥から、大量の蛇達が
一斉に出てくる。
魔物が手枷を破る頃。
その時にはもう、その蛇達はイノシシを
取り囲んでいた。
「ヴェノム インパクト!」
ドゴンッ!!!
凄まじい爆音がした。
そして黒煙の中から出てきたのは、
もう動くことのない魔物だった。
「やった…!倒したわ!ってユウヘイ、あんなに大量の蛇一体どうやって…」
確かに、エルザの言う通りだ。
俺が蛇を生み出すには少々時間がかかる。
「俺は蛇を置いていたのは帰りの目印確認の為、だけではない。最初からこの事態に備えて蛇は他にも
複数体おいていたということだ。その証拠にほれ」
パチンと音を叩くと
森の中から何十匹もの大量の蛇が出てくる。
シャーーーーー
「きゃあああああああああ!早くしまってええ!」