殺意
実際刺されてカッとして書いた。後悔はしていない
痒みを感じ、ボリボリとそこを掻く。それで目が覚めた
灯りをつけて見ると、私の上腕辺りがぷっくりと腫れている
夏の代名詞、安眠の妨げ、怒りと殺意の最たる対象
蚊だ―――
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昨今は夜中でも寝苦しいほど暑いため、部屋は締め切って冷房を入れている
つまり私を痒みによって叩き起こした憎き虫けらは、この部屋の中にいる
絶対に許さない。ジワジワと嬲り殺しにしてくれる
お前から見て、私の戦闘力は53万だ
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さて、ここで各々の命題を確認してみよう
蚊の目的は、繁殖だ。血を吸った以上はここに留まる理由など無く、
後は流れのない水辺で卵を産みつけるだけだ
つまり奴を逃がす事が、そのままイコールで私の敗北という事になる
私の目的は、抹殺だ。薬を塗りつつ痒みが収まるまでの間は嬲ってくれよう
私の勝利は、奴の死体を確認して捻り潰す事だ
冷房を止めて空気を滞らせ、この手に殺虫剤を構える
さあ、出てこい。パーティーの始まりだ
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にじり歩き、辺りを見回しながら耳を澄ませる
今、飛んではいない。あの耳障りな羽音は、していない
手当たり次第に殺虫剤を撒き散らしても良いが、それでは死体を確認できない
飛び回っているところを目視した上で噴いて落とす。これが理想形だ
ここか?それともこっちか?
シュッ、と少しだけ殺虫剤を撒きながら、嫌がった蚊が飛び立つ羽音を待つ
プ~~~ン
途端に腹の底がグツグツと沸き立ち、目が肉食獣のそれと化す
そ こ か !
容赦無く、無慈悲に殺虫剤を撒き散らす。一本使い切る勢いだ
そんな殺虫剤を持った手と私の顔のちょうど真ん中を、一匹の蚊が横切る
今、私の殺意は、有頂天だ
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殺虫剤の一本丸々を、ガスが切れるまで使い切ってしまった
いつしか涼しさを失った部屋の中で汗を滲ませ、奴の死体を探し続ける
探すこと数分、窓とカーテンの間で、奴は事切れていた
思えば、これほど私に殺意を覚えさせた蚊は、今までにいなかった
憎い仇ではあったが、蚊にしては確かに大した奴だった
人生における我が好敵手の一人として、その死に敬意を捧げよう
これは送り火だ
おもむろに煙草を取り出し、咥えて火を着ける
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殺虫剤に限らず、スプレー缶に充填されているガスは、可燃性である
ボッ、という音が響き、ガラスというガラスは飛び散り、私は黒焦げになった
2018/12/17
夜中の地震といい、スプレー缶爆発といい、どうやら私が事故・災害について書くと
北海道でそれが起きてしまうみたいです。なお次回作は『原子炉大爆発』の模様