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第2話 死した友の過去


 この世界は大きく分けて二つの勢力がある。

 相容れず、遥か昔から頻繁に戦争を引き起こしてきた、聖国と魔国。

 今現在も何処かで戦いは起こっており、その全ては平和的に解決することがほとんどないという。

 聖国と魔国にはそれぞれ種族が属しており、魔国なら例えばヴァンパイアやダークエルフ、魔有翼種、魔人種など。聖国ならドワーフやエルフ、有翼種、人種がいる。

 その中でも魔人種と人種は天賦の才に恵まれず、生まれ持って能力を身につけていないので、ダンジョンに潜って能力を手にしなければならないのだ。

 ダンジョンはナルドレア大陸 (通称ダンジョン大陸) だけに多数存在し、一つのダンションを攻略すると一つの能力を手に入れられる。


 話は逸れてしまったが、魔国領と聖国領の間に位置するナルドレアはもちろん魔人種と人種の争いが絶えず、僕たち人種のような劣等種はある程度チカラをつけてからでないとダンジョンに辿り着く前に、魔国軍やナルドレアに生息するモンスターに殺されてしまうことがある。

 だからこの国パンギュラではダンジョン大陸に行く前に適性試験を行い、大陸に足を踏み入れて無事能力を手に入れる程のチカラがあるかどうか試すのだそうだ。


 「あぁ、やっとだよブルネ。やっと…… ーーーー復讐できる。」





 今でも覚えている、あの少し蒸し暑かった真夏の夕暮れ。

 普段よりは幾ばくか涼しかった頃、ナルドレアから帰還した荷台に積まれていた複数の何かが丁寧に布で包まれていて、それが遠征に行った者の死体と知った時、僕は無意識に周りを見渡していた。


 「ヨン隊長!」

 「イルクか。どうした?」

 「あの、ブルネは……?」


 そこで何処か物鬱げな表情を見せるものだから、体がカーッと熱くなるのがわかった。


 「生きていますよね!?」


 ふむ……と、重たい口を開いて僕をそっと見る。


 「今回の遠征では数回にわたって魔国側と激しい衝突があったんだ。そこには魔人種だけでなくヴァンパイアなどの危険種もいてな……犠牲は自然と肥大化していまい、能力の収穫も少かった。」

 「じゃあ…………」

 「すまない……しかし彼の最期は勇敢だったよ。手に入れた能力で味方の帰路をあの危険種共から切り開いて見せた。どうか気を落とさないでくれ、イルク。それじゃあブルネも浮かばれない」


 そう言い残して遠征一行は目の前から去って行ってしまった。

 放心してしまう僕はその後しばらくしてから遺体安置所に赴き、暗い部屋の冷たい床に横たえられたブルネを見た。

 その表情は死んでいるにも関わらず、何処か笑っているようで何かを誇っているようにも見えた。

 クソッ……なんで死んじゃってまでそんな風に笑っていられるんだよ、と。

 彼を見つめるその目からは自然と涙がボロボロと流れ落ちていた。


 ーー昔からブルネはそういう人間だった。

 いつもニヤニヤして、何かにつけて笑え笑えって言ってきたのを今でも鮮明に覚えている。

 そのくせ無駄に正義感が強いやつで身の回りで不穏があるとすぐに介入して解決しようとしてた気がした。僕は毎回それに付き合わされてよく振り回されていたけど…………

 でも、いやだからこそ彼は人を惹きつける力があって、僕もそれに魅了されていたんだと思う。

 よってブルネの周りにいると自然と友達も増えた。

 塞ぎがちだった僕をブルネは外に連れ出して、彼と出会っていなかったら一生見ることのできない世界を見せてくれた。


 だから……ブルネがそんなこと願うはずないってそんなの百も承知だけど、それでも。

 僕はその日から復讐を誓った。

 万人に優しくて、そして何事にも勇敢な少年をこうして殺した魔国の種族共を僕は絶対に許さない。




 そうして一年経った今、やっと僕もダンジョンに挑戦する資格をなんとか手にしたってわけで。


 「ふぅ……よしッ! 頑張るぞぉ~~~!!」


 能力に対する童心的なワクワクする気持ちと復讐への昂ぶる気持ちが僕を自然と走らせた。


><><


 一週間後。パンギュラ国東門前。


 「え~、みなさんおはようございまぁ~す。俺が今回の遠征隊を率いる隊長のマクリ・エルスタントです。よろしくね~」


 能力を未だ持たない新兵達の間で多少の動揺が生まれる。

 それもそうだろう、確かに早朝ではあるが、遠征のリーダーともあろう方があそこまで眠そうにしていると引き締まるものも引き締まらない。

 ただものすごく頼りになる方であることはその名前を聞いてはっきりとわかった。


 ーーーーマクリ・エルスタント大将、このパンギュラ隊のトップであるヒシム元帥の右腕とも呼ばれるお方で、元々はヒシム元帥の幼馴染らしい。

 その腕前はかなりのもので、一人でD5ランクの龍を葬ったという。


 ちなみに龍はこの『空星領域』という世界で最強の生物であると伝承されており、ランクはD1~5まで分けられる。D5ランクは世界中の強豪でも倒すのは難しいとされ、D4ランクは聖国軍の中でたったの十二人しかいない。

 そしてその十二人の一人がヒシム元帥というわけだ。

 D3~2ランクは未知の龍が多く、D1ランクに関しては 『伝説』 とまで呼ばれている。

 聞くだけでロマンのある話だ。


 「ん~、そこの少年、準備は大丈夫?」


 不意に話かけられたのが自分であることに気がつくと、反射的に裏返った返事をしてしまった。

 周りの皆んながクスクス笑うものだから赤面を隠せない。


 「緊張するなよ~? そうやって死んじゃったやつたーくさんいたからさ。遠足気分で、お~け~お~け~!」


 灰色の髪は多少目にかかり、その奥から深い青の瞳が覗く。すらっとした背丈はあまり強さを感じさせないが……この人実際はすごく強いんだよな。


 う~ん、にしても遠足気分でいいわけないだろうなんて突っ込めない…………


 「あれ? よく見たら君、ヒー君のお気に入りじゃないか! いやぁ、あいつもよくやるよなぁ、遠征寸前になっていきなり君を編入させるなんて。振り回されて大変だとは思うけど頑張ってくれよ~。」

 「は、はい……」


 いきなり元気になったかと思うと、唐突に励ませれたものだから、あからさまに困惑してしまう。

 しかし周囲の雰囲気は先よりも緩和しており各々が遠征に対するやる気に満ちた表情を見せていた。僕も周りの雰囲気に後押しされ、少し出遅れてしまったものの遠征に対する信念を心に輝かせる。


 「よーし、じゃあ行きましょっか! 細かい編隊とかは港に着いて船に乗ってから知らせるから、とりあえず今は港を目指そう。道中でモンスターとか出でくると思うけど、ほとんどの場合『除け石』でなんとかなるから変に刺激しないようにね」


 マクリ大将がそう促すと遠征隊は列を作って、石造りの豪奢な東門から外の世界へと進行を開始する。

 僕は遠征隊の列の中に入り、ワクワクする気持ちを持って東門を向くとそこには山の向こうからチラリと太陽の光がこちらに差し込んでいた。

 そこに僕は自然とブルネの面影を感じたのかもしれない。無意識に口から言葉が出ていた。


 「…………行ってくる!」


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