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第1話 冒険の始まり


 巨大な木々の異常に発達した緑によって地面まで日光の光が届かない。

 そんな深い樹海に囲まれ、幻想的な風景を目の当たりにした者が圧倒され呆然としてしまうことも少なくはない。

 ここら一帯はよく霧が発生し、かつ木々によって光が届かない故、『迷いの森』と呼ばれている。

 迷ったら最後、奇跡的に晴れること以外、助かる方法はない。

 そんな人の寄り付かない深淵に一つ、ポツンと小屋が凛として佇んでいた。


 「ねえ……あのさ」

 「うん?」


 唐突に話を始める少女に首をかしげる少年。

 小屋の中で二人はゆったりと窓の外の蠢く濃霧に目を向けていた。


 「この生活、いつまで続けられるかな?」

 「どうしたのいきなり? ん~……ずっと続けばなぁって、思ってるけど」

 「曖昧だなぁ、イルクはいっつもそう」

 「ご、ごめん…………」


 イルクと呼ばれた少年は少し困ったような表情を浮かべ、弱々しくも少女へと視点を合わせる。

 しかしイルクと目を合わせる様子はない。

 そして妙な沈黙の時間が流れた後、


 「ーーーーもうこの暮らし、やめない?」


 唐突に投げられた言葉に唖然としてしまうイルクを他所に少女は話を淡々と続ける。


 「そろそろ限界だと思うの。霧が出てない時にここを見つけられたらお終いだし……」

 「ルシアちょっと待ってよ、だって僕たちここまでいろんなこと乗り越えて頑張ってきたんだよ? なのにそんないきなり…………」


 先までのゆったりした雰囲気はもうどこにもなく、ルシアの話に混乱するイルクは無意識に座椅子から立ち上がってしまった。


 「わかってるよそんなこと。私だってたくさん考えて出した答えなの。もうこの生活を始めてから一年以上経つ、そろそろ怪しまれてもおかしくないし、万一バレちゃったら私たちどっちも殺されちゃうんだよ? だったら、もう……」

 「う、うん…………」


 正論を突きつけられ、自然と表情が暗くなっていく。


 黒髪に薄い茶色の瞳を携えた少年は、真っ白になった頭をなんとか回転させ言葉を選ぼうとする。

 それに対し、長い青白の髪をなびかせると同時に黒の細い尻尾をゆらゆらゆっくり揺らし、金色に輝く瞳で何か決心した面構えを見せる少女。

 そんなイルクとルシアの間にまたも嫌な沈黙が訪れる。

 だがそんな沈黙はイルクによって破られた。


 「確かに僕たちは本来一緒にいてはならない敵対する者同士。こんなの味方からすれば明確な裏切りだし、お互いバレたら逃げることはほぼ不可能だ。だからルシアの言ってることに全くの非はないし、僕たちはここでお別れするべき、なんだよね……」


 ルシアから目を離さず、弱々しい普段からして珍しくも強気な口調で自らの想いを伝えた。

 

 「でも、でもさ……もし僕たちのこの関係が終わっちゃって、もう一生こうして会えなくなって、また敵対する関係になっても僕は…………」

 

 ーーーー君の、ルシアのことがずっと大好きだよ。



<><>



 聖国領北東部パンギュラ国第一兵士訓練所講義室。


 「……い……おい…………ク……おい、イルク起きろ!」

 「は、はい!? すみません! ね、寝てません!!」

 「……矛盾してるぞ」


 うわっ……またやっちゃった。大切な講義で寝ちゃったよ。

 戦闘における心構えについて壇上に立って講義しているのはパンギュラ国第一隊分隊長のヨン隊長だ。

 パンギュラ隊は総勢5万人を越え、南東に位置するグランガーザスという国についで大国である。

 そこの隊長なのだからそこそこ権力を持っているお方なのだろう。

 主に新人の育成や講義を担当してくれている優しい方ではあるが、よく僕が講義で寝てしまうものだから最近は怒られることが多い。

 焦りによって生じた冷や汗が自分が寝ていたという事実をぼやけた脳に叩きつけ、それによってだんだんと意識が覚醒していく。


 「授業が終わった後私のところに来い。いいな?」

 「は、はい……」

 「では授業を再開する」


 はぁ、結局また怒られるのかぁ…………


 周りの隊員たちにクスクス笑われるのを感じて遣る瀬なく思われたが、なんとか授業を終えてヨン隊長の元へ向かった。


 「毎回の居眠りに関してはもう問わない。今日呼んだのは別の件についてだ」

 「え……?」


 身構えていた力が一気に抜け、きっと間抜けな顔をしてしまっている。


 「ナルドレア大陸の遠征についてお前に話がしたかった。今回の遠征にはイルク、お前にも行ってもらう」

 「それ本当ですか!?」

 「冗談を言いにわざわざ呼んだわけないだろう」

 「いやでも僕、能力適性試験の最終審査落ちてますよ……?」


 昂った気持ちの後に襲ってきたのは話の内容への何処とない不安であった。


 「知っている。だがある方の推薦でな、その方はどうやらお前に戦いの素質を見出されたようだ」

 「ある方……?」

 「ふむ。他言無用だぞ? ヒシム元帥だ」

 「ヒシム様がぁ~~~!!!??」

 「声がでかい!! ……まぁそういうことだ。出発は来週初めの早朝、元帥の期待に応えるために少しでも強くなっておけ、わかったな?」

 「は、はい!!!」


 ヨン隊長は遠征の旨を僕に伝え終わると、教材を携え講義室から出て行ってしまった。


 にしても思わぬ朗報だった。まさかあの憧れのダンジョン大陸に行けるなんて。

 これでもし僕が能力を手に入れられたら…… 

 ーーーー魔国との戦いに参加できる。


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