伍、罪を着せあう戦い
「ほれ、起きるのじゃ。全く…はぁー」
ん…ん?この感覚…ミナとあった時と同じ…てことは、暴れたのか?
「ふむ、その通りじゃ。全く、我がお主を止めるためにどれだけの力を使ったと思うておるのじゃ」
「す、すいません」
って、なんで僕が謝っているんだよ。なんか悪いことしたっけ?
周りを見渡し、今の状態を認識する。
えっと…今、僕は自分の部屋にいて、時間帯は朝。ミナが馬乗りしてる、といったところか…
「お主のおかげで、せっかく我が自分で作った服がビリビリではないか。
体は治癒で復元できても、服は出来んのじゃぞ?」
よくミナを見ると、きわどい感じになっていた。
ていうか、それを僕のせいにされても困るだけなんですけど。
「んで、狼どもはどうなったか教えてくれないか?」
「まずこちらから聞きたいことがある。何故妖怪払いの術を知っておったのじゃ?」
「いや、普通に…過去に妖怪に憑かれたことがあって、
僕から離れた妖怪に向かってお祓い師さんが使っていて、僕に教えてくれたんだ」
「なるほど…見えてきたかの」
一体何を言っているのかは理解しきれなかった。ま、触らぬが吉と見た。
「んで、狼がどうなったか教えてくれ」
「それが人にモノを申す態度か?」
うわ、何だこいつ…急にえらそぶりやがったぞ。今までそんな立場関係だったっけ?
「…教えて…下さい?」
「何故疑問形にするのじゃ?ほれ、我はもう出かけるぞ?」
「はいはい、いってらっしゃい」
「…なんじゃ、この間抜けが。お主、今のはフリじゃろ?はよ言えというフリじゃ」
うわ、いつの間にこんな面倒くさいキャラになったんだ?
少なからず、こっちの変な知識を入れてしまったってとこか…
そういえばこいつ、僕が勉強している間にテレビを見まくっていたもんな。ってどうでもいいわ。
「…お主、つまらん思考を巡らせるぐらいじゃったらはよ頼まんか」
「いや、そんなに頼んで欲しいのかよ」
「ま、正しく言うと土下座がみたいのじゃ。謝罪やら頼み事する際にやるあれが。
ほれ、このドラマのように」
そう言って見せてきたのは「半○直樹」とかいう、一昔前のドラマのワンシーンだった。
「へー…って、お前は何歳の子供だよ!」
「ほう、これがツッコミとやらか。なかなか見物じゃの」
いや、こいつまさかコントでもしてる気だったのかよ。本当に見た目通りの精神年齢なのかよ。
「お主、今、我の事を馬鹿にしたじゃろ?…と、そんなこと言って遊んでいる暇のないということか」
いきなりミナが僕を投げたかと思うと、
窓ガラスが割れ、さっきまで僕がいた場所に大きな穴が空いた。
――奇襲かよ
「今までの敵と同じじゃったら楽なのじゃがな。厄介者じゃな。だからこそ話しておくことがある」
すぐに外へ出ると狼と黒ずくめの不気味な一人がいた。
つい身構えてしまったが相手に戦意などは見られない。
「まぁまぁ、そう身構えんでくだせぇ。残り少ない時間ですがお話でも致しあせんか」
「貴様は誰じゃ?名を申せ」
「ふむ、礼儀がなっているのであればそちらから名乗るもんじゃございあせんか?」
「ま、良いかの。ミナ・ヴェスト・オリアツェルじゃ、鬼神である」
「わしは折神。鬼憑きの完成体という訳でごぜぇやす」
折神…どこかで聞いたことがあるような…確か、ニュースでやってたような…
「んで、そこのお坊ちゃんは何をしておるんですか?」
「………」
「無言ですかぁ。少しはお答え願えると思ったんですがね」
ケッ、また「喋らない」って約束してしまったからな。
何か出来ないものか…と言っても何も出来ないし、何の力もない。
「まぁ、こちらの要求はミナさんに消えてもらうことなんですわ」
何?ミナに消えてもらうだと?一体何故?
「ふむ、我に消えろなどと、訳をお聞かせ願いたい」
「すまんな。わしでなく依頼主に聞いてくだせぇ。
わしはただミナという奴に消えてもらうように頼まれただけなんせぇ。
ま、聞いてくれないなら暴力しかないが…どない致しあす?」
「ふ、そんなの決まっておる。戦じゃ」
ミナは不敵な笑みを見せた。が、僕には分かる。これもまた見栄だということを
「…ミナ…」
「やめぃ、お主。そのまま下がっておれ」
確かにここで下がっても何の意味もない。というより生かしてくれるとも思えない。
かと言っても戦って勝てるとも思えない。
それに何が何でも不気味な奴に近づくなって言われたし。
「お主、今回この気配がするということは鬼憑きがいる」
「鬼憑きって言ったら僕と同じ?」
「じゃが、完全に鬼化しておる。何が何でも近づくでない。
いいか、お主の記憶は氷の中に閉じ込められたと言ってもいい。
溶かすのは容易ではないが、さらに閉じ込めるのは安易に出来るもんじゃ」
なんて会話をしてしまったからな。多分、こいつの言うことは絶対だ。
「さて、始めるかのぅ」
「それじゃあ問答無用の殺しあいといきますかなぁ」