肆、悪夢の序章
「もう朝じゃ、ほれ起きよ」
ん?もう朝か…
「っ…ビックリした…ミナかよ」
「なんじゃ?おかしいことがあったのか?それともいい夢でも見とったか?」
「いや、いきなりロリっ子の顔があるとビビるわ」
そりゃそうだろ、いきなり過ぎてマジでビビったわ。
いくら異常事態だからとはいえ、アニメ的展開はマジ勘弁だよ…。
「はて…そんなことより、遊ぼうかのぅ」
「遊ぶって…暇なのは分かるが何して遊ぶんだよ」
「散歩でもするか。今の世を見たことが無いからのぅ」
おいおい、今の世って何千年も生きてきたんじゃねぇのかよ…
て、ここ何日の事があって散歩って、次こそ間違えなく殺されるぞ。
そう、四月二日の夜以降、《送り雀》の軍団に襲われ続けた。
その度に体をボロボロにして帰ってくる。そんなこんなで、昨日は僕を囮に使いやがったし。ミナめ、外道が。
「お主、言うたであろう。我には心の声が聞こえると」
「あ、すまん。って、僕謝るようなこと考えたっけ?」
そして、愉快な朝が終わり、地獄の散歩が始まる。
「お主、ここは現実世界であって、アニメのようなナレーションはないぞ」
「う、うっせぇ。カッコつけてたから変なこと言うな!」
「んで…やっぱりフラグ通りじゃねぇかよ」
「うぬ…この数は少々まずいぞ。我でも捌き切れん」
数えるだけで三十は超えており、雀と思われる奴らも三はいる。
「お主、何とか奴らの攻撃を掻い潜り、逃げるのじゃ」
まずいぞ、ミナがこう言うってことは…マジでやばい証拠だ。
「ミナ、お前はどうするつもりだ」
「どうもこうもあらんわ。こ奴らを一蹴し、お主の元へ戻るんじゃよ」
いや、そんなことはハッタリだ。
ミナは、自分が不死身ではないと言っているんなら、多分、このままじゃ消えてしまう。そんな中でも、「スキは我がつくる。そのうちにはよ逃げるのじゃ」と言う。
ミナは何処から取り出したのか、棘のついた金棒で十匹ほど消し飛ばすと
「早く行くのじゃ」なんて叫んだ。
「僕だって……戦える」
そこには劣等感が残ったが…何としても消すために、死ぬ気になる。
記憶の殆どが思い出せない中、不意に一つだけ思い出した。
「妖怪払いの術…魂陰消結-急急如律令」
以前、僕は妖怪憑きにあったことがある。その際に聞いた術だった。
体質的に見えざるモノを寄せ付けやすいらしいから、その際に教えてもらったものだ。
印を結び、どんどん敵を触っていった。触った敵は次々と消えていく。
だが、すぐに次次へと湧いてきた。
「はよ逃げるのじゃ」
「…ミナ、危ない!」
もう遅かった。ミナは血飛沫と共に倒れる。無惨な音と共に血の匂いがして、嫌な記憶が蘇る。
「あ…あ…ア、アァ…あああああああああああああああああああああああああああああ」
そこからは意識はない。眠るような感覚に襲われ、瞼を閉じた