弐、鬼憑き
「お目覚めかのぅ?」
うわっ…って、なんだ昨日の子か…顔近けぇし。ん?昨日?何かあったっけ?えっと…確か…うーん…
「ふーん、もう記憶操作まで進んでおるのか…事態は一刻を争うのぅ」
「…?えっと…僕、悪い病気か何かなんですか?」
「必要以外の記憶は削除、必要な記憶は画像データを削除しているか…面白いのぅ」
「あの…さっきから何をおっしゃっているのか…」
「あぁ、すまんのぅ。早速で悪いのじゃが、お主に昨日の記憶を与えるぞ」
何を言っているんだと思ったが、
次の瞬間には聞いたことが無い言語が聞こえると同時に視界が奪われ、眠りについた。
「…起きるのじゃ。もう記憶の定着は済んだであろう」
数時間寝た感覚だったが、すぐに目に入った時計は三十分程しか進んでいない。
上を向くと小さな女の子の顔が目に入った。
「うおっ…って、ミナか…ミナ?お前殺されたんじゃ?」
「ククク…面白いことを抜かすのぅ。忘れておるのか?それとも、とぼけておるのか?
言ったであろう、我は鬼神であると」
そうだった、この女の子…ミナは昨日、当然僕の前に現れ、契約とやらを持ち掛けた子だった。
自分を鬼と名乗ったこの子は、自我を失った僕に胸を貫かれたハズ。
そんなことを思い出した時、ミナの服を見ると、
ボロボロでいてるこっちが恥ずかしくなるほどの露出度になっていた。
「お前…な、何で、そ、そ、そんな姿を?」
「これかのぅ…お主が原因じゃよ。そんなことより、そろそろ説明せぬとな」
お主、『鬼憑き』というものを知っておるか?
――いや、知らないけど…
そうじゃろうな…まぁ、あまり有名ではないから知らぬのも当然であろう。
『鬼憑き』
それは、精神に潜む悪鬼に体を乗っ取られることじゃ。
悪鬼は憑いた者の劣等感であったり、悲しみと言った負の感情をエネルギーとする。
次第に憑かれた者は、必要以外の記憶は消去…いや、思い出せぬようになるのじゃ。
仮に覚えていたとしても、その映像は思い出せぬ。
お主の場合、もう七十パーセント程の記憶が封印されている。
まぁ幸い、お主はこのままいても完全に憑かれるこたはあるまい。
お主、幼少の頃に『誓い』を結んだであろう?
どうやら、その誓いはお主の一番の思い出であり、強い感情を持っているから良いのじゃが、
一定の時間になると乗っ取られ、鬼化していまうじゃろぅ。
そこで、『契約』を持ち掛けたが…お主は馬鹿ではない故、変に解釈してしまった様じゃが…
お主が本心より、鬼を払いたいと願うなら…我と誓いを交わすのじゃ。
我の知り合いに『陰陽師』と呼ばれる者がおってのぅ。
そやつを紹介してやっても構わぬ。こちらの願いとしては契約を結んでもらうことじゃ。
でなければ、我は払われてしまうからのぅ。
――分かった。一応話しておくが…
いや、もう知っておる。仇なのであろう?
「だから、手伝うと言っておるのじゃ」
――それに、我の責任もあるしのぅ
「ん?なんか言ったか?」
「否。空耳であろう」
そうして誓いを結び、僕はミナを連れて、家を出た。まだ桜の花は舞っていた。
あの誓いの前に、あの子とあった日も桜が舞っていたっけ?
少し浮かれながら道を歩んでいった。