第8話 生き地獄
感想欄で艦隊司令部について
ご指摘があったので、第7話の
司令部の記述を一部変更しました。
スヴェントヴィトに乗艦して
早くも1ヶ月が経過した。
気になっている人のために一応報告。
俺の私物はすべて返却されたものの、
スマホは海水が入ってダメになり、
財布は無事だったが、福沢諭吉のお札なんて
この時代では紙切れだ。
そんなわけで、なんの役にもたたなかったとだけ
伝えておこう。
ところで、この物語を読んでくれている
健全なる男子諸君は多くが俺の境遇をうらやましいと
思っているのではないだろうか?
正直に言おう。地獄だ。
まず朝の6時に帝国海軍伝統の起床ラッパが鳴る。
俺はいつも7時に起きて大学に通っていたので
起きれない。
だいたい司令部付の世話係に起こされる。
その後、服を着替えて甲板に集合。
長官はもう起きていて、亜紀子からの冷たい
視線が突き刺さる。
国旗掲揚、軍艦旗掲揚、国歌斉唱と朝の儀式が続く。
自衛隊でたまに見ると「おお!スゲー!」って
なるが、1ヶ月もやっていると飽きてくる。
眠くなるが長官の手前、あくびすら許されない。
女性onlyでもそこは軍隊。しかも帝国海軍の
血筋を受け継いでいる。
1時間に及ぶ長い儀式が終わって
ようやく朝食が与えられる。
飯はうまい。しかも豪華だ。
ただ、女性とふたりで食事をしたことがない
俺はマナーがわからない。
常に亜紀子の目線を気にしながら食事をしないと
いけず、飯も不味くなる。
その後、午前の会議が始まる。
だが、俺は意見を言う機会すらない。
だいたい亜紀子が議題と読み上げ、ユリアと
亜紀子が30分くらいでほとんど決めてしまい、
それを長官に報告。
それで終了。
たまに長官が「新浪中佐は意見ある?」と
聞いてくれるが、俺はなにも言えない。
そのまま午前が終わる。
昼食は天気がよければ甲板で食べる。
もちろん、軍楽隊付きのフルコース。
ただ、ここではさらにマナーに
気を使わなくてはならない。
高校の家庭科の洋食のマナーの授業を
寝ていたのが悔やまれる。
一度、指を洗う小皿(フィンガーボールだったか?)
の水を飲みそうになった。
配膳係に呆れ顔で止めてもらったからよかったが。
その後、午後の会議が始まる。
ここでもまたほとんど亜紀子とユリアが
決めてしまう。風花もほとんど反論しない。
その後ほとんどお腹の空かない状態で
夕食が始まる。
マナーを気にしながらの食事となるのは
言うまでもない。
午後6時に軍艦旗が下ろされ、
業務終了となるのだが、ここでまた問題が生じる。
入浴である。
旗艦となる戦艦の長官私室や参謀長私室、
司令官私室には個別の浴室が設けられていたが、
それ以外の兵はほぼ全員が
公衆の大浴場を利用する。
(戦艦大和ですら艦長も大浴場を使っていたと
聞いたことがある。)
そんなわけだから、俺も風呂を使うには
大浴場を利用するほかないのだが、
当然女性に混じって入浴など不可能。
よって夜遅くに貸し切りで入ることになる
わけだが、既にたくさんの兵が入浴している
ため、お湯(もちろん海水)は
決して綺麗じゃないし、洗面器に3杯使えるはずの
真水もなくなっていることが多い。
幸い士官なので毎日入浴できるが、
体のベタつきはどうにもならない。
こうして俺の1日は終わる。
昭和日本で知り合い0、持ち金0の生活を
するよりはマシだが、
軍艦生活の過酷さは俺の想像を遥かに超えていた。
現代にいた頃は海軍の軍艦生活に
憧れていた自分がいたが、
やはりそれは想像の世界でやるのが
いいのであって、実際に逃げられない状況で
やるとものすごく辛い。
俺をこの世界に送り込んだ神様や、
この世界に来た時に軍人生活を望んだ
過去の自分を恨みながら、俺は今日も生きていく。




