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暁の海の女神  作者: 呉提督
18/21

第18話 海中からの刺客

バギーニャに戻るスヴェントヴィトの中で、

俺は不満を垂れ流していた。



「なにが『日本は負けて甦るべき』だよ!

結局得するのは一部の権力者だけじゃないか!」



「そうだよね。人の命を軽くみてるみたいで

あまりいい気分にはならなかったな。」


風花も俺の考えに賛同してくれた。

でもそれは平和な時代から来た生ぬるい人間の

考え方かもしれない。


ただ、いつの時代もひとつだけ確かなのは、

日本の権力者たちは自分たちの利益しか

考えていないということ。

経済の有力者と政治家、官僚の黒い繋がりは

70年前から現在に至るまでまったく

変わっていない。



輪形陣を組み、太平洋を静かに北上する艦隊。

俺はこの時まだ、この時代の

"本当の恐ろしさ"を知らなかった。




日本を出港してから2日。

艦隊が択捉島付近に差し掛かった頃、



「聴音機に感あり!正体不明潜水艦1、

本艦隊に接近中!!」



血相を変えて艦橋に飛び込んできた

情報士官の報告で艦橋中に緊張が走った。

それまでの和やかなムードが一変する。



「総員戦闘配置につけ!」



「対潜制圧戦よ〜い!!」



駆逐艦が爆雷を投射すべく速度をあげた。

潜航しながら接近してくる潜水艦に対しては

"戦闘の意思あり"として撃沈が認められている。


駆逐隊の爆雷攻撃が始まった。

派手な水柱が次々と海面に立ち上る。

しかし、オイルの流出は確認できず、

撃沈には至っていないようだ。



俺はこの時まだ心の中に甘えがあった。

戦闘に対するゲーム感覚を捨てきれていなかった。



「本艦左10時方向、雷跡2!!」



見張員の報告は絶叫に近かった。

不気味な航跡をひいた魚雷が2本、

スヴェントヴィトに迫ってくる。


刹那、俺は猛烈な悪寒に襲われた。

震えが止まらなかった。

初めてこの時代の真の恐ろしさを知った。


2本の"死神"が俺達を地獄に誘おうと

スヴェントヴィトに伸びてくる。



「転舵!取舵一杯!!」



ロディアーナ艦長が転舵を命じる。

舵が利きはじめるまでの1分間。

それは俺の人生で最も長い1分間だったかも

しれない。



スヴェントヴィトは急速に左に回頭を始めた。

だがしかし、魚雷発射点との距離があまりに近すぎた。


魚雷の1本がスヴェントヴィトの左舷中央部を

直撃し、激しい揺れが艦橋を襲った。

主砲発射時の心地よい横揺れとは違う。

下から突き上げられるような縦揺れである。

もう1本はスヴェントヴィトの前方を通過していった。


排水量5万トンを超えるスヴェントヴィトに

してみれば、魚雷1本程度の被害は

被害のうちに入らないだろう。


でもそれは、俺に恐怖を植え付けるには

十分すぎる攻撃だった…。




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