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暁の海の女神  作者: 呉提督
17/21

第17話 敗戦革命

総理官邸で待つこと10分。

豪勢な応接室に

がっちりとした体格の初老の男が

姿を現した。



「お待たせしました。

大日本帝国総理大臣、米内光政です。」



男は丁寧にそう名乗った。

米内光政は"海軍軍人は紳士たれ"を

最も実践していた人物として知られている。

海軍の人間はお洒落でスマートでなくてはならない

という考えだ。


歴史上の評価はともかく、

米内光政というひとりの人間は信頼できると

俺は思った。


「さて、新浪君、君の話は山本から聞いている。

70年後の世界から来たと。」



「はい。そうです。」



「そうか、70年後の日本はどうなっているかね?」



やはりその質問が来たか。

なんとなく予想はしていた。

未来の人間が目の前に現れたら誰もが聞いてみたい

ことだ。


俺は返答に迷った。

知らないと答えれば"未来から来た"という

俺の最大の外交カードを失う。

これは論外だ。


では素直にしゃべるのか?

大日本帝国が世界最強と疑わないこの国の人間に、

大東亜戦争の悲惨な末路をぶちまけるか?

そんなことをしたら、俺は非国民として

ムショにぶちこまれる。



最後の選択肢は嘘をつくこと。

戦争に勝利し、繁栄した日本を妄想して

答えることだ。

だが、相手は海軍でのしあがってきた百戦錬磨の

軍政官。

その場しのぎの嘘はすぐにバレる。



「日本は・・・・


日本は豊かな国になりました。

餓死する人間はひとりもいません。

平均寿命は世界一で、経済では世界第三位。

欧米にまったく劣らない先進国のひとつに

数えられています。」



すると、米内は納得したように

頷き、俺にこんな質問をした。



「日本は米英と戦争をするのかね?」



「それは・・・」



この質問には答えたくなかった。

この質問に答えることは

日本の悲惨な末路を教えることに繋がってしまう。

それだけはなんとしても避けたかった。



しかし、米内にはそれすらも

読まれていた。



「私はね、日本は米英との戦争に

負けるべきだと思っている。

日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、

日本は戦争に勝ちすぎた。

勝ちすぎて自身の実力を疑わなくなってしまった。

日本は米英との戦争で完膚なきまでに叩き潰され、

新しい国になるべきなのだ。」



腹が立った。

猛烈に腹が立った。

言葉では表せないいらだちが俺に

襲いかかった。


俺は我を忘れて猛然と立ち上がり、そして言った。



「負けるべきだと?

叩き潰され、新しい国になるべきだと?


ふざけんな!


あんた、総理大臣だろ?

一国のトップだろ?

だったらなんで国より先に国民を守ろうとしない!?

戦争に負けるということは、何百万人の人間が

死ぬってことなんだ!

罪のない女子供だって死ぬ!


そんなデカイ理想に浸っている暇があったら、

米英との戦争を全力で回避する方法を考えろよ!」



柄でもなく声を荒げ、大日本帝国の総理大臣、

海軍大将ともあろう人にとんでもないことを

言ってしまった。

バギーニャの使節とはいえ、タダでは済まされないだろう。



「確かに、君の言うとおりだ。

肝に命じておこう。

まさか息子と同じ年齢の青年に説教されるとはな。」



だが、彼は怒ることはなかった。

俺を罰することも。


こうして、米内光政との面会は終わったのだった。



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