第14話 日本へ
1940年 2月
バギーニャ艦隊主力はペトロハバロフスクを
静かに出港した。
目的地は俺や風花の祖国、日本。
日本との親善交流が今航海の目的だ。
ペトロハバロフスクを出てすぐ、
艦隊は第一警戒航行序列を組んだ。
この周辺はソ連の潜水艦が多数出没するからだ。
ペトロハバロフスクから横須賀までは
およそ2500km。巡航速度の20ノット(36km/h)で
3日かかる。
去年のクリスマスから1ヶ月と2週間。
風花の言葉が頭を離れたことは一度もない。
『元の時代に帰りたくない?』
あれは彼女の優しさだったのだろうか。
それとも何か別の意図があったのだろうか。
彼女は結局教えてくれなかった。
出港からわずか2時間。
艦隊は濃い霧に包まれた。
スヴェントヴィトの隣を航行する
ハイリュゾヴァの姿すら見えない。
「発光信号で各艦と連絡!陣形を保って!」
ロディアーナ艦長の指示が矢継ぎ早に飛ぶ。
見張員が増強され、防空指揮所で艦の全方に
目を凝らす。
霧の中での航行はバギーニャ海軍の十八番だそうだ。
年中濃い霧が発生するカムチャッカ半島の軍隊に
とって、霧は最大の武器になる。
日本海軍が夜戦を伝統とするように、
バギーニャは霧中を勝機としているのだ。
出港から12時間。ようやく濃霧を抜けた。
現在地はセベロクリリスク南東あたり。
バギーニャ海軍の精鋭たちにもさすがに
疲れが見える。
この間、脱落したり、衝突した艦は一隻もない。
その美しい艦隊運動は感嘆の一言に尽きた。
ここからは千島列島を島沿いに南下して
横須賀を目指す。
翌日午後
その後は特に問題もなく、無事に航海を続け、
艦隊は根室沖に差し掛かった。
すると、
「10時方向!駆逐艦1、接近!」
艦隊に小さな駆逐艦が迫ってきた。
マストには旭日旗が掲げられている。
大湊警備府の二等駆逐艦だろう。
こちらを迎えに来てくれたのだ。
「駆逐艦より信号!」
「『ワレカルヤ。貴艦隊ヲ歓迎ス。
ワレ二追従サレタシ』です!」
出港から3日と7時間。
艦隊は駆逐艦に先導され、横須賀へ入港した。