第11話 主砲射撃訓練
1939年も残すところおよそ1週間。
今日は今年最後の訓練が行われる。
そう。
スヴェントヴィトの主砲射撃訓練である。
前回の射撃訓練の時は俺はまだ正式な海軍軍人では
なかったため、訓練に参加することはできなかった。
戦艦の主砲発射を間近で見れる。
ミリオタにとってこれがどれだけ嬉しいことか、
想像することは容易いはずだ。
12月22日 06時00分
もう聞きなれた起床ラッパが
鳴り響き、戦艦スヴェントヴィトは
活動を始めた。
乗務員たちが装備の点検を行っている。
気象士官は風力、気温、雲量などを艦長に説明する。
スヴェントヴィトの艦長は34歳のロシア人
ロディアーナ大佐だ。
髪型は、金髪を後ろで団子状にして帽子を被っており、
顔には薄く化粧をしている。
風花らと比べて大人の色気がある。
34歳といったら、他国の軍隊では
大尉が少佐クラスなので、彼女も
十分若いのだが、艦隊司令長官が19歳、
艦隊主任参謀が16歳だから、なんともいえない。
午前7時には早めの朝食が始まり、
風花たちと艦長、航海長らスヴェントヴィト幕僚が
打ち合わせを行う。
2倍近く歳の離れた部下にも慕われる
風花はやっぱり凄いと感じる。
午前8時、
艦隊各艦に出港命令が下りた。
まず、軽巡オフレフカが駆逐艦ポクロフスク、
同ネルチンスクを率いて出港し、
港湾沖合いの哨戒を実施。
続いて重巡ハルチンスコエ、スヴァローグ級二番艦
ストリボーグ、そしてスヴェントヴィト、
最後に護衛のハイリュゾヴァ級2隻と駆逐艦4隻が付いた。
ペトロハバロフスクを出港し、
30kmの沖合いで合流する。
艦隊はわずかな時間で綺麗な単縦陣を
形成した。
「これより、主砲射撃訓練を実施する!」
ロディアーナ大佐が艦最上部にある
主砲射撃指揮所に命じた。
すると突如、
ビー!ビー!ビー!
サイレンが大音量で艦内に鳴り響いた。
46cm砲発射の合図だ。
大和型戦艦の場合だと、このサイレンが
鳴り響いてから1分以内に退避しなければ
主砲の爆風で吹き飛ばされてしまったそうだ。
スヴェントヴィトの18インチの主砲が
水圧によってゆっくりと左に旋回する。
「主砲弾装填完了!」
「照準よし!射撃用意よし!」
「よし、撃てぇぇぇぇ!!!」
ズドーーーン!!!!
スヴェントヴィトの主砲がついに火を噴いた。
猛烈な衝撃波と爆音が艦橋を襲う。
海図台に寄りかかっていなければ床に
叩きつけられそうなくらい物凄い衝撃だ。
発射音も耳栓をしていなかったら鼓膜が
破壊されるほど凄まじい。
発射された8発の鉄の塊は空気を切り裂き、
20km離れた目標に向かっていく。
秒速780m。
音速よりもずっと速い。
「だんちゃ〜く、今!!」
巨大な水柱が目標を包んだ。
水柱が収まった時、標的はもう海上にはなかった。
俺は、今まで、これはすべて夢じゃないかと
思っていた。
タイムスリップしてきたことも、
風花と出会ったことも、
バギーニャ海軍に入ったことも。
起きたら、いつもどおりアパートの
寝室で寝ていて、
風花たちのことも全部忘れているかもしれない。
そう思っていた。
でも今日確信した。
これは夢じゃない。
現実なんだ。
その証拠に、俺は、46cm砲の射撃音を、衝撃を、
全身で感じている―――――――
体の底から込み上げてくる振動
震えあがるような轟音
皮膚にビリビリ伝わってくる衝撃
間違いない。
俺は、今、現実に、戦艦の艦橋に立っている!
俺は、この時代で戦い、生きていくことを
改めて決意した。