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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: レラ

 ああ、何度この景色を見ただろう……

 目に見える景色が高速で進んでいくこの状態、だんだんとスピードが上がり、目が追い付かなくなる……

 ふと、すべての光景が、異常なまでにゆっくりになった……そうこれは自殺だ……もう何度目になるかわからない自殺今回こそ、死ねることを願って、屋上から飛び降りた……地面が近づいてくる……


 何だろう、人の影が見えた気がする。女の子?こんなところに誰もいるはずもないのに……ああ、意識が消える、もう目覚めることはないだろう……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……どうしよう、これ……」

 敷かれた布団を見つめ、私はつぶやいた。視線の先には、一人の少年が眠っていた。

「こんな顔してたんだぁ」

 童顔だが、自分と同じくらいの年齢だろう。髪の毛は長めのなんだか不思議な怪しい雰囲気をまとった少年だ。

「まぁ、不思議で怪しいなんて言ったら、私も人のこと言えないんだけどね……」

「……ん、」

 そんなことをつぶやいていると、少年が反応したようだ。さっきまでは死んだようだったのだが……

「そろそろ目が覚めるのかな?」

そう思い、私は少年の顔を覗き込んだ。

「もしもし、どうですか?」

少しゆすりながら、声をかけてみる。すると、

「……ん、あぁ……」

少年が目を覚ましたようだ。

「やっと起きた。大丈夫?」

声をかけてみるが反応がない。

「自分のことわかる?」

そんなことを聞いてみたわけだが、やはり反応がない……どうしたのだろうか?

「……あ」

少年がこちらを向いた、私の存在に気が付いたようだ。

「よかった、大丈夫そうね。ねぇ、しゃべれる?」

しかし少年からは、答えがない。

「ねぇ、何とか言えないの?」

やっぱり、まだ意識がはっきりしないのだろうか?

「……あああ、」

「ん?」

少年がにやりと笑った、

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「!」

「キャッ!」

少年が突然、奇声をあげながら、私に襲い掛かってきた。血の色のように染まった深紅の瞳がやけに目に留まった。

「嫌! 」

「ねぇ、急にどうしたの? やめてよ!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

少年は、当然だが正気ではない様で、私の呼びかけにも全く反応がない。凄まじい力で私を押さえつけてくる。抵抗しようにも押さえつけられてしまってできない。

「やめ、やめて、やめて、やめてよ!」

ふと、私の腕が自由になった、とっさに私は、


パシッ


少年の頬をビンタした。

「ああ……」

その瞬間、少年の瞳が揺らめいた気がした。その後少年は、また気を失い、私の上に倒れこんできた。

「ちょ、ちょっと……」

……重い。

少年の体重がすべて私にかかっているようだ。

「……」

「かわいい顔して寝ちゃって、いったいなんなんの?」

まるでさっきのことは幻のように、少年は穏やかな表情で、眠っている。

「近くで見ると、本当にかわいい顔してる……」

「……じゃなくて! よいしょっと」

ようやく少年の下から抜け出せた、顔が熱い。

「男の子とこんなに近づいたの初めてかも……」

「はぁ……」

このままというのもあれなので、もう一度、少年を布団に寝かせる。

「どうしてこうなったんだろう。素直に死んでくれれば、楽だったのになぁ」


私は、死神だ。と言っても、人の命を奪うわけではない。死んでしまった人の魂を、冥界まで運ぶのが仕事だ。普段は、地上で人間として生活しているが、死の気配を感じることができるので、その気配を感じた先に行き、そこで死んだ人の魂を運んでいる。気配の先にいる人間は、すぐに死んでしまうので、よくわからないのだが、冥界では

「死ぬことのない人間に気を付けろ、死神は魂を運ぶ相手に拘束される」

と言わている。死の気配をまとう人間一人に、死神一人、そういうシステムになっているらしい。

 今日も、私は死の気配を感じやってきた。

「こんなところで自殺か、珍しいな」

今回は自殺のようだ。自殺は大体、駅とか町中のビルとか、人気の多い目立つ場所が多いのだが、今回は人気のない、路地裏だった。

そこそこの高さの建物の屋上らしきところのに、人影が見える。

「あ、あの人か……あ、飛び降りた、」

人影は、どんどん速度を上げながら、落ちてくる。

これは即死だろう。


グシャ


地面に激突し見るも無残な状態になった。少年だったのだろうか。

「死ぬってどんな感じなんだろうね。」

そんなことをつぶやきながら、死んだ少年に近づく、

「?」

「あれ、おかしいな、魂が取り出せない。もしかしてまだ生きてる?」

そんなはずはない。だって、体は完全にぐちゃぐちゃだ。こんなので生きていたら、人間じゃない。

「!」

ふと少年の体に『霧』がかかったようになった。すると、逆再生するかのように少年の体の傷が治っていった。尋常ではない。

「おかしい、おかしいよ、これ。関わっちゃいけないやつだよ。」

不穏な気配を感じた私は、その場所と少年から逃げ出そうとした、しかし、逃げることができない。

「どうして?」

『縛られる』

「まさか、こういうこと?どうしたらいいの?」

 この少年に縛られているということは、この少年は、一応人間ということなのだろう。本人に聞こうにも、少年は倒れたまま意識がない。体は治っても意識は同じようにはいかないらしい。これはどうしたものか……

さんざん悩んだ結果、結局少年から離れることができないので、仕方がなく家に連れて帰ることにした。



それでこうなっているわけなんだけど……

「なんで襲われたんだろう。それにこいつ何者なんだろう?」

なぞは、尽きないが、わかることは一つ、この少年が死なないと私は、離れることができないということだ。

 とりあえず、少年が目覚めないことには始まらない。

「う、あ」

少年が呻きだした。

「どうしたの?」

「父さん、母さん、みんな……」

どうやら、うなされているようだ。ずいぶん苦しそうにしている。

「大丈夫?」

少年の体を揺らしてみる、またさっきのように襲い掛かられるかもしれないが、この少年に起きてもらわなければ仕方がないのでしょうがない。

「うあ、あ?」

少年が目覚めたようだ、

「!」

真っ先に目に留まったのは、先ほど襲われた時にも見た、少年の瞳だ。

少年の瞳は黒い普通の瞳だった。あの時の赤い目は、見間違いだったのだろうか?

「ここは?」

少年がしゃべった。

「ん、ああ、ここは私の家だよ。」

瞳のことが気になったが、答えた。

「あなた、路地裏に倒れてたんだよ。なんであんなところにいたの?」

自分のことを話すわけにはいかないので、知らない風を装って、会話をする。

「ああ、やっぱり、また死ねなかったのか……」

「え、また?」

「ああ……もうこれで何回目なんだろう。」

少年は、心ここにあらずといった感じで、つぶやいた。

「ありがとう、助けてくれて。僕の名前はケイ。」

少年がこちらに話を向けた。少年は、ケイというらしい。

「どういたしましてかな?私の名前はメイだよ。」

「本当にびっくりしたんだよ、急にあんなことになってさ……」

ケイを見て驚いたのは本当だ。あんな、超回復を見せられて、驚かない人はいないだろう。そんなことより、私は気になっていたことを、ケイに尋ねた。

「ところで、ケイ。またってどういうことなの?」

ケイは不思議そうな様子で、こちらに向いた。

「僕、そんなこと言ってた?」

どうやら、口に出しているつもりはなかったらしい。

「うん、心ここにあらずっていう感じで、独り言をつぶやいてたよ。」

ケイは、少し気恥ずかしそうな感じで、

「そっか……まぁ、聞かれて困ることでもないしなあ。」

と言った。

「それで、どうしてなの?」

私が、ケイに聞くとケイは、こともなさげに言った。

「僕は、死にたいんだよ。」

「はい?」

「だから、僕は死にたいんだ」

まあ、そうだろう。そうでもなければ飛び降りなんてしない。それにしては、ケイから感じる死の気配が尋常ではない。すると彼の言葉終わってなかったようで、

「今までに、何度も何度も死のうとして、いろんなことをしたんだ。でもその度に目が覚めると、僕の体に異常は無くて、生きていた。どうしてなのかは、わからない、でもなぜか、死ぬことができないんだ……」

「助けてくれた人にするような話じゃないよね、ごめん。」

ケイが謝ってきた、

「ううん、別にいいよ。」

私は特になんとも思わなかったので、そう返した。

「ところでケイ」

「何?」

私はもう一つ気になっていることを聞こうと思った。

「ケイはあの時のことを覚えてないの?」

「あの事?」

「こうして、話す前に一回目が覚めたよね?そのときのことは覚えてない?」

「うん。ごめん、覚えてない。」

「ううん、別にいいんだよ。覚えてなくて当然かな、すぐにまた寝ちゃったからね。」

どうやらケイは、一度覚醒して私を襲った時のことは、覚えていないらしい。私が嘘をつきながら話しているのと同じように、彼も嘘をついているのかもしれないが、そんなようには見えない。

 あの時のケイは何だったのだろう?まるで何かに憑りつかれたかのようでもあった。しかし、ケイに覚えがない以上は、どうしようもない。ということは、ケイは自分が超回復をして、生きているということも知らないのだろう。いったケイは、本当に何者なのだろうか。

 それよりも、ケイが死ぬことができないということの方が私のにとっては、一大事だ。たとえ彼が何者であっても、彼は、死の気配を纏った人間?らしい。人間一人に、死神一人のシステムによって、私たちは、彼の魂が冥界に行かない限り、離れることができない。

「死ぬ方法、私も一緒に探してあげようか?」

私はケイにこう提案した。

「どういうこと?」

さすがにケイも不思議な様子で、聞き返してくる。

「私、人の死ぬところに興味があるの。ケイは死にたいんでしょ、なら私も一緒にその方法を考えてあげるよ。うまくいけば、ケイは望み通り死ぬことができて、私は、ケイの死ぬところを見ることができる。」

彼が死にたがっているのは、私にとっても好都合だ。何とかしてケイを殺すことができれば、私もケイの魂を冥界に運ぶことができる。しかし、どうしたらケイを殺すことができるのだろうか?ケイ自身もあの状態に心当たりはないらしいし……

「ケイって私と同い年くらいだと思うんだけど、学校とかは行っていないの?」

ふと気になったので私は、ケイに聞いてみた。

「行ってないよ。」

ケイは学校に行っていないらしい。私は、冥界ですでにその程度のことは、学習済みだ。

「じゃあケイはどこに住んでいるの?」

今後のことも考えると、ケイの家を知っていることも大切だろう。

「家はない。いつも、いろんなところにいる。」

ケイは、ホームレスのようだ。

「じゃあ、家で寝る?」

「え?」

「だってこれから、死ぬ方法を探すんでしょ。それなら一緒にいた方がいいじゃん。」

そんなことを思って私は、ケイを家に泊めることにした。

「わかった。ありがとう。」

ケイが本当にうれしそうな顔をした。

「さて、今日も遅いし、明日にしようか。」

私は、ケイにこう言い、寝ることにした。

眠い。今日一日でいろいろなことがありすぎた。早く寝よう。

「おやすみ、ケイ。」


その晩私は夢を見た。

『あなたなんか、産まなければよかった。あなたがいなければ私は……』

これは、いったい何?

誰かの憎しみのこもった声が聞こえる。

夢?

いや、夢にしては意識がはっきりしすぎている。

自分の目の前には、女性がいる。この人は、母親なのだろうか?

『お母さん?』

口が勝手に動く。どうやら体は私の意志では動かせないらしい。意識だけがはっきりとしている。

『やめろ!』

男の切羽詰まったような声が聞こえた。

その瞬間、辺りが一瞬にして炎に包まれ火の海とかした。どうやら母親らしき女性が火をつけたようだ。燃料でも撒いてあったのだろうか。

『ケイ!早く逃げろ!そして、生きるんだ!』

男性が、炎に包まれながら言った。

『お父さん、お母さん、みんな……』

そんな言葉と共に、目の前では、人が炎に包まれていく。

『おやおや、大変なことになっているね。』

ふと、男の声が聞こえた。こんな中、生きている人なんていないだろうに……

『強い魔力を感じたから来てみたんだが、これでは…… おや、君はまだ生きているのか。』

男の声がはっきりと聞こえた。

『いい魔力だ。人からの恨み・憎しみ・悲しみ、そういった負の感情をたくさんその小さな身に受けながら、心は純真無垢であるところが、素晴らしい。』

いったい何を言っているのだろうか?

この男はいったい何者なんだろうか?

得体のしれない恐ろしさを感じる。

『君はまだ死んではいけない。託された思いがあるのではないか?』

『こんなところで、死んでしまっていいのか?』

男の言葉が続いた、

『私としても、君に死なれてしまうのは困るんだ。』

『だから、君を生かしてあげよう。君のその膨大な魔力を使って生きていけるようにしよう。』

そういって、男が近づき口を寄せてくる。

首筋に痛みが走る。

「おや?何やら違うものが、混じっているね。これは、死神か。」

男は、なぜか私の存在に気が付いたようだ。

「この子に憑りつくなんて、馬鹿な死神もいたものだ……」

「しかし、それほどの死の気配をこの子は纏ってしまったのか……」

何やらぶつぶつと、つぶやいている。

「そこの死神君、君がいるということは、この子は生きることに絶望してしまっているのだろう。こんなことを死神の君に頼むのもおかしいと思うが、この子を頼んだよ。この子に生きる楽しさを教えてあげてほしい。それに、どうせ君はもうこの子からは離れられないんだから……」

男の深紅の瞳が怪しげに揺らめいた。

意識が薄れていく……


私の目の前には、天井があった。

「今のってケイの記憶?」

私がケイの記憶を見れたのは、きっとケイの死の気配が強すぎてそこに惹かれてしまったのだろう。

しかし、あの記憶は何だろう。あの男は、ケイではなく私に話しかけていた。そう、途中までは、ケイの記憶なのだろう。だが、首筋を噛んでからは、明らかにケイの中にいた、私に話しかけていた。

あの男の正体は

「『吸血鬼』」

私はつい声を漏らしていた。

あの男は吸血鬼なのだろう、あの男の言葉通りならケイもおそらくは『吸血鬼』なのだろう。

「吸血鬼か、私も運がなかったのかなぁ?」

吸血鬼は、不死の存在。そいつに憑りついてしまったということは、私はケイから離れることができないということだ。一生、いや、永遠に……

「なんか最後に頼まれごとされちゃったしなあ。」

「あ、そういえばケイは?」

ケイが気になった私は、彼の寝ている部屋に行く。

ケイはまだ眠っていた。

「かわいらしい顔して寝ちゃって……」

「う、ん……」

ケイが目を覚ましたようだ。黒い瞳と目が合った。

「おはよう、ケイ。」

ケイに声をかけると、

「おはよう、えっと、メイ?」

どうやら、私の名前をよく覚えていなかったようだ。

「よく眠れた?」

「うん、とってもよく眠れたよ。こんなにぐっすり眠ったのは何年ぶりだろう。泊めてくれてありがとう。」

ケイが笑顔を見せた。

「いつも見る夢も見なかったし。」

「夢?」

ケイが夢の話に触れた。

「うん。いつもは寝るたびに同じ夢を見るんだ、始めは暖かいんだけど、だんだん冷たくなっていって、最後は、すごく嫌な感じになるんだ。まあ、どんな夢なのかは、よく覚えていないだけどね」

ケイが見ている夢というのは、きっと自分の記憶なのだろう。最後はきっと私が見たものと同じあの情景。ケイが夢を見なかったのは、私がいたからだろう。ケイが見るはずの夢を、私が代わりに見たからケイは、夢を見ることがなかったのだろう。

「さて、今日からケイが死ぬ方法を探すとしましょう。」

「うん。」

 

その後、私は色々なことを試した。

遊園地や水族館、動物園に映画館などいろいろなところに行った。

ケイは、自分が死ぬことと全く関係なさそうな場所でも楽しそうについてきた。実際、ケイに楽しんでもらうために、私はいろいろなところにケイを連れて行ったのだ。行ったところは、どこも楽しかったと思う。ケイも、楽しんでいたと思う。

私はもうケイから離れることはできない。ならば、あの男の言う通り、ケイに生きたいと思わせるようにしようと思ったのだ。それでも、ケイは死ぬことを諦めようとはしなかった。

首吊り・首切り・切腹・ガス・溺死等々いろいろな方法を試したが、ケイは死ねなかった。

また、初めて会った時のように我を忘れて私に襲い掛かるということもなかった。

そのまま、一か月が過ぎた。


「ケイ~?行くよ。」

いつものように私たちは出かけようとした、しかしケイが現れない。どうしたのだろうか?

「ケイ、どうしたの……って、ケイ⁉」

ケイは床に倒れていた。

「大丈夫?ねえ?」

私はケイに呼びかけた。

「なん、だろう、と、ても、苦し、んだ……」

ケイがしゃべった。どうやら意識はあるようだ。

「こん、なに、苦し、いのは、は、初めて、だよ。」

ずいぶんと、言葉が拙い。いったいどうしたのだろう。少し前までは、普通だったというのに。

「こ、れは、もしか、して、死ねる、のか、な?」

そんなはずはない。だってケイは吸血鬼なのだ。よくわからないが死ぬなんてことはありえない。

「メ、イ……」

どうやらケイは、意識を失ったようだ。いったいどうしたのだろう?

すると、寒気がした気がした。

「うわ!」

私の体が押さえつけられた。押さえつけているのはケイだ。ケイの深紅の瞳と目が合った。

「まさか、初めて会った時と同じ感じ⁉」

どうしたらいいのだろう、前回、よくわからないうちにケイが気絶して助かったが、今回もそうとは限らない。

「痛っ!」

私は床に押し倒され、押さえつけられてしまった。

「ケイ!目を覚ましてケイ!」

ケイから反応はない。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ケイが奇声をあげ始めた。

ケイの口が私の首筋に向けて近づいてくる。

「やめ、やめて、ケイ!」

私は最近なぜか使えるようになった、死神の力で巨大な鎌を取り出し、ケイに反撃した。押さえつけられているので大したことはできないが、せめてもの抵抗だ。

「やめて、ねえ、やめてってば‼」

グシャ

「あ、ケイ!」

私が振っていた鎌が、ケイに刺さった。

「メ、イ?」

ケイが言葉を発した。

「ケイ?大丈夫?」

「メイ?あれ、僕はどうして、突然苦しくなったと思ったら……」

「って、うわ、血だらけだ。それに僕から鎌が生えてる。」

ケイがようやく状況を把握したようだ。

「これはメイが?」

「うん」

ケイが私に目を向ける。

「メイ、君はいったい……」

ケイが私に質問する。

「私は死神の『冥』」

「死神?」

ケイは私の答えに戸惑ったようだ。深紅の瞳が揺らめいた。

「そう、あなたの魂を冥界に送るためにやってきた。」

「そんなありえない……」

ケイは信じられないようで、ぼうっとしている。

「というか、今のあなたも十分あり得ないからね?」

私は、あきれながらケイに言った。

「え?」

「え?じゃないでしょ。どこに、こんな状態で普通にしゃべれる人間がいるのよ?」

「確かに、僕はいったい……」

これでもケイは思い出せないようだ、

「今までのこと不思議じゃなかったの?」

「なんのこと?」

「はあ、首吊りしても、首切りしても、ガスでも死ない。どう考えてもおかしいでしょうに……」

ケイは、自分の記憶に鍵をかけているのだろう。そのせいで、重要なところに目が行っていなかったようだ。いや、無意識下では理解をしていたのだろう、だから変に考えなかったのか。

 しかしここまで、いろいろやってしまったのだ、いっそケイの記憶の鍵も開けるべきだろう。ケイに鎌が刺さっている今なら、ケイに直接干渉できるような気がした。

「少しくすぐったいわよ。覚悟してね。」

「え?うわ!」

私はケイの中に干渉した。

「あった、ここだ」

ケイが封じていた記憶を発見した。

「えい」

パキン

鍵が壊れる音がした気がした。

「あああああ……」

ケイは意識こそあるが心ここにあらずといった感じで目を見開いている。開放された記憶を、一気に思い出しているのだろう。

「ああ……」

ふと、ケイの目から涙が零れ出した。

「お父さん、お母さん、みんな……」

「ケイ?大丈夫?」

私がケイに声をかけると、ケイはこちらに意識を戻したようだ。

「メイ、ありがとう。」

突然ケイがお礼を言ってきた。

「どう、いたしまして?」

鎌で体を刺した相手にお礼というのもおかしな話だ。

「たくさんのことを思いだしたよ。楽しいことも、悲しいことも。」

ケイは無事に思い出せたようだ。

「そう、よかったわね。」

「うん、本当にありがとう。メイいや、冥。」

「それに僕も人間じゃなかったんだね。吸血鬼か……不思議な男が、教えてくれたよ。僕の膨大な魔力が、周りの人に影響を与えて、狂わせてしまったんだって。でも、死ぬ前にその男が、僕の周囲の人の思いを合わせて、僕を吸血鬼にしたんだ。男は『代替わりだ、永い生を楽しむといい』とか言って、いなくなちゃたよ。」

なんだかんだで、いろんな謎が解けた。その男はどうしたんだろうか、生きているのか?生きているのなら一度話を聞いてみたいものだ。

「ケイ、これからどうするの?まだ死ぬ方法を探す?」

「ううん。僕は死のために生きるのはやめるよ。父さんにも『生きろ』と言われたしね。家族の分以上に生きるよ。」

「それがいいよ。」

ケイは、生きることを選んだようだ。

「よいしょっと」

グシャ

ケイに刺さりっぱなしだった、鎌を抜いた。たちまち傷が再生していく。

「ケイ、ほんとすごいねこれ。」

私はケイに言ったが、返事がない。

「ケイ?」

なぜだか、ケイの顔が赤い。何か悩んでいるようだ。何だろう。

すると、何かを決心したように、こちらを向いた。深紅の瞳と目が合った。

「冥」

「何?」

「僕の伴侶になってほしい。」

「はい?は、伴侶って突然何を……」

唐突にケイが私に告白をしてきた。顔が熱い。

「僕に君の血を吸わせてほしい。」

「え、血?」

ケイが何を言っているのかよくわからなかった。

「それがなんで伴侶になるのよ?」

「このまま吸血童貞でいると、また血を求めて人を襲ってしまうかもしれないんだ。けど、相手を殺す吸血行為以外で、吸血をすると、相手を一生自分のもとに縛ってしまうんだ、だから……」

「なんだ、そんなことか。」

「そんなことかって」

とても拍子抜けだった。今更だと思った、だって、

「私は、あなたにだいぶ前から縛られていのよ?死神の力で。今更でしょ?」

「う、ん?そうなの?」

「そうなのよ。それに、あなたのことが嫌いだったら、あんなに協力してないわよ。」

何を言っているのだろう。ああ、顔が熱い

「じゃあ……」

「うん、いいわよ。私の血を吸っても。そしてあなたの伴侶になってあげるわ、『ケイ』」

私は、首筋を差し出しながらケイの告白に答えた。

「ありがとう。冥。これからよろしく。」

ケイが口を私の首筋に近づけながら言った。

「っ、」

ケイのキバが首筋に刺さった。

何とも言えない、甘い痛みが走る……

これから、永い生を二人で生きていくのだ、これから先どうしようか?

そんなことを思いながら、私はケイを抱きしめた……






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