プロローグ
誤字脱字には気をつけておりますが、発見した場合はご報告よろしくお願いいたします。
7月下旬
今日は終業式。長ったらしい校長の挨拶も終わり、体育館からそれぞれの教室へと戻る途中…
「なぁ、バイトやらね?」
そう言い親友である長屋元博、通称モトは僕に強引に肩組みをしてきた。
モトがこんな事をする時は大体ろくでもない話を持ってきたときだ。十中八九やっかいなことだと、長年の付き合いでわかるようになってきた。
「夏休みは嫁と海に行くので」
そう言い軽くあしらう、ついでに暑いので腕を剥がそうとする。
「またまた~、画面の中の嫁と海に行けるのかな?スマホ片手に根暗オタクゲーマーが海ねぇ。きっと好奇の目で見られるよ、そこらじゅうのカップルに。そんな事をするよりも課金するお金稼いだ方が有意義だとおもうよユウちゃん」
「ちゃん付けするな」
キモイので振り払おうとするが肩を組む力が強くなった。こうなると無理やり剥がすのは無理だ。
自己紹介が遅れたが僕の名前は三隅優。高校二年の根暗オタクゲーマーで非力なもやしっ子です。
モトが言ってる事は悔しいが正しい。期間限定の着せ替えアイテムの水着が欲しい。だが月5000円のおこずかいはあっという間に消えてしまう。すでに今月も無一文に近い。
「話だけは聞いてみようかな」
「それじゃあ学校終わったら俺の家な」
話している間に教室に着いた。僕たちの教室は体育館に一番近いのだ。
その後教室では夏休み中の課題配布や注意事項そして、成績表の配布が行われた。モトの悲鳴が校内中に響き渡ったのは言うまでもない。ちょっとは勉強しろよ。
学校は午前中に終わり昼ご飯を家で食べてから、モトが暮らすマンションに向かった。徒歩15分ってところだ。モトはワンルームで一人暮らしをしている。父親の海外赴任に母親もついていった。だがモトは、
「リアルタイムでアニメが見られないのは嫌だ、それにアニメグッズショップもほぼ無いだろ」との事だ。
筋金入りのアニオタである。そう言いきれるところは尊敬できる。が、馬鹿なので±0だ。
マンションの一階のエントランスに着いた。割と広い上に綺麗にされている。モトに出会ってから最初に遊びに行くことになったときはかなり驚いた。高級マンションの部類に入ると思う。だが中は別だ。住む人それぞれの部屋になる。モトの部屋がどんなのかはお楽しみだ。
えっと605号室だっけ?インターホンで605を入力し呼び出しボタンを押す。数秒の後、大音量で
「おかえりなさいませ、ご主人さm」
取り消しボタンを全力で押した。周りを見回したが僕以外に人はいなかった。危ない危ない。きっと親子連れがいたら「あの人何?」と子供に指差され、「見たら行けません」と母親に言われていただろう。出禁になるところだった。
エレベーターにつづくドアが開いた。上ボタンを押しすぐにドアが開いた。ラッキーだ、運が悪いと最上階の30階から降りてくるのを待つ羽目になるところだった。
エレベーターは静かでさらにエアコンも付いている。さすが高級マンション。
チーンと音がして、6階についた。少し歩き605と書かれたドアの前に来た。再びインターホンを押す。すぐにガチャっとドアが開き、
「ご飯にします?お風呂にします?それとも、ワ・タ・シ?」
玄関にエプロンを着けたモトがいた。ドアを閉めた。毎回この茶番になる。いい加減やめていだきたい。
すぐにドアが開きエプロンを脱いだモトが出迎える。
「ごめんごめん、遠慮せずに上がってくれ」
元より遠慮する気は無いが一応、
「お邪魔します」
「邪魔するなら帰れ!」
こいつ…うざすぎる。が、ここでいちいち突っ込んでたらキリが無いのでスルースキル発動。無視して靴を脱いで上がっていく。
「ユウちゃんおこ?ねぇおこなの?」
スルー安定。そのまま短い廊下を進んでいく。
「ごめんごめん、飲み物もって行くから適当に座ってて」
モトの声を背中に部屋に入る。そこで目にした物は、
「うわ、前より増えてない?」
ローテーブルの前に座り辺りを見回す。
壁一面のポスター、ショーケースの中のフィギュア達、テーブル横にあったキャラがプリントされたクッション。クッションは座るとキレられそうだったので僕は床に座っている。明らかに前に来たときよりも増えている。やはり両親がいなくてリミッターが解除されたか。そして抱き枕にさっきのエプロンが着せられていた。
「そうかな?そうかも?」
当の本人は無自覚らしい。まあアニメ薦めたのは僕だけど。ここまでハマるとは想定外だ。
モトがアニオタになる前はただの馬鹿でクラスのお調子者なだけだった。しかし今は陰陽制する超人と化していた。DQNからオタクまで幅広い層に友達を作っている。僕とは大違いだ。しかしモトはたくさんの友達ができたにも関わらずよく僕と話してくれるし家にも呼んでくれる。もしかしてホモかな?急に不安になってきた。僕の初めてが掘られてしまう。
「ば、バイトって僕じゃなくてもいいんじゃない?」
コップを持って両脇にお菓子の袋とジュースのボトルを挟んでやってくるモトに話しかける。
「ユウとじゃなきゃダメなんだ」
ヤバイ、マジでヤバイ。と思っていたところに持っていたものをテーブルに置き横にあったタブレットの画面を点け渡してきた。なになに、
「新型VRゲーム機とローンチタイトルのテストプレイヤー募集?」
特設サイトであろうページにはでかでかとそう書かれてあった。
「ここ見てみ」
と言ってモトが報酬と書かれたところを指差す。
「時給800円+歩合制?ゲーム内マネーを最終日に決算し、換金!?」
これはすごいと思ったが若干胡散臭い。最低賃金+ゲーム内で稼いだお金。稼ぎにくいようなシステムであれば、ほぼ最低賃金のみの支払いになるだろう。しかも開発会社は新規企業。ますます怪しい。
「う~ん、臭い気がするな」
改めてサイトを眺める。
新型VRゲーム機とローンチタイトルのテストプレイヤー募集中
株式会社ゲームチューン 協力 施設提供 株式会社GameTester
期間
8月5日から8月31日(休日なし)
時間
初回に限り朝8時から。以降9時から。終了時刻は17時(継続可)休憩有り
設備
冷暖房完備、無線LAN、トイレ、シャワールーム、仮眠室
食事
三食つき、最終日に請求させていただきます。(一食500円)
内容
新型VRゲーム機を使用し、同時発売となるBeasts Break Onlineをプレイしていただきバグの発見や改善点などを報告していだだく仕事です。終了時刻には帰宅できますが、そのまま継続して仕事をしていただく事もできます。もちろんその分の報酬も出ます。仮眠室は個室になっており鍵もあります。そのまま泊まっていただくことも可能です。
報酬
時給800円+歩合制(ゲーム内マネーを最終日に決算し、換金)
応募締め切り
7月28日
採用通知
8月1日
説明会
8月2日午前9時より開始、終了予定12時
応募の方は応募ボタンをクリックし指示に従って各種事項を入力して下さい
Beasts Break Onlineの公式サイトはこちらをクリック
とりあえず公式サイトをクリックした。開かれたページには、新作スキル制協力FPSと書かれていた。
僕もいろいろなゲームをやっているが、このジャンルは初めてだ。サイトを見た限りではかなり面白そうである。
「ユウFPS得意だったろ?二人で協力してたくさん稼ごうぜ」
やはり僕を選んだのはそれが一番だったか。まあ僕もモトと組むのは悪い気はしない。モトとはいろんなゲームでパーティーや小隊を組んでプレイした。モトのプレイスタイルは大体わかっているつもりだ。
「でも、二人だけだと限界があるよね。知り合い呼んじゃダメかな?もちろんモトが嫌なら呼ばないけど」
オタクな僕でも数は少ないが交友がある知り合いがいる。本当は知り合い以上の関係だけどこう言っておかないとめんどくさい。
「知り合いって、女の子?」
でた。知り合いでもすぐに性別を気にしてくる。モトはアニオタだが三次も普通に好きなのである。
「まあ、女の子だけど「よしオッケー、ユウにも女の子の知り合い居たんだな」
即答だった。飢えた狼ほど怖いものはない。
「じゃあさっさと応募しようぜ、俺もまだ応募してないからさ。ついでに女の子にメールしとけよ、しとけよ!」
とりあえず知り合いにメールを送る。名前は星山蓮華。知り合いと言ったが実際は幼馴染だ。僕から見ても結構かわいいと思う。幼馴染と口走れば写真を見せろだの、画像もなしにスレ立てとなとかなってうざいと思うので、知り合いにしておく。
メールにはサイトのURLと友達と参加するから一緒にやろうという感じの文面にした。送信を押す。
さて次は応募事項を入力しよう。応募ボタンを押す。すると氏名、年齢、生年月日、住所等いろいろな入力事項が表示された。サイトの登録とかもそうだけどなかなかめんどくさい。間違いが無いようにひとつずつ地道に入力していく。そして上にスクロールして確認する。合っていたたので次へを押す、すると
「なあ、報酬受け取り方法どうする?」
モトもちょうど同じページに進んだようなので質問してきた。
ページには最終日に手渡しか、口座振込みかの二択が書かれていた。口座振込みの方にはさらに口座番号などの入力欄があった。僕の口座番号何だっけな?
「やっぱり手渡しだよな。稼いだ札束がポンと…ってそんな訳ないか…」
「じゃあ僕も手渡しにするよ。その方がわくわくするしね」
実際のところ、口座番号が思い出せないし、帰ってから確認もめんどくさいからだ。知ってか知らずかモトは
「じゃあそうしよう!貰ったときには札束でビンタしてやる、覚悟しておけ!」
僕は呆れながら画面に目を戻す。手渡しの方を押し、次へを押す。そして応募完了の文字が表示される。
「やっと終わった~」
僕がそうつぶやいたときにスマホがなった。画面には蓮華からのメールと表示された。
「お~?女の子からメールか?」
そう言ってモトが覗き込もうとする。
「プライバシーの侵害だよ、モト」
モトの顔を押しのける。モトが舌打ちをしていたが無視する。改めてメールを開く。
私も応募したよ~
一緒にバイトできるなんて楽しみだね~
デコメだった。いまどきデコメ使うのは蓮華ぐらいだろう。
「いまどきデコメなんて珍しいな」
いつの間にか背後に回りこんだモトがそう言った。野郎、気配を消せるのか?
「勝手に見んなよ」
「いいじゃんちょっとぐらい、減るものじゃないし」
蓮華の家は訳あって少し貧乏なのだ。家族を支えるためにバイトをいくつも掛け持ちしているが、蓮華の通う学校では一切のアルバイトを禁止している。見つかれば即退学だろう、だが夏休みで泊り込みなら格段にリスクは減るだろう。そのへんで飲食店のバイトをするよりかは安全だ。と言うより蓮華、ガラケーでも応募出来たんだな。
「よっしゃ、終わってまだ時間あるしゲームしようぜ!」
「いいよ、モト。勝つのは僕だけど」
モトとのゲーム対戦では今まで僕の圧勝だ。モトは決して弱いわけではない。それ以上に僕が上を行っているんだ。中学の頃は学校にも行かず引きこもってゲームばかりしていた。つまり経験の差だ。そのことはモトも知っている、だが
「負けたらジュース奢りな!」
この戦いには負けられない。なぜなら既に無一文に近い。ジュース一本分くらいは残っているが、これは来月課金分のガチャ石代だ。絶対に負けられない。
「「いざ、尋常に勝負!!!」」
戦いは朝まで続いた。