街では
短く圧縮したストーリーです。
その街の中心部には敵の侵入を警戒する監視塔が建っていた。街の周囲には侵入者に反応するセンサーが設置されていた。装置は二十四時間作動し、街の平穏を支えていた。言ってみれば中世の城塞のように外敵から隔絶されていた。市長は市民たちに太鼓判を押した。
「この街の安全は守られている。皆さん安心して欲しい」
市民は市長の言葉を信じた。
東の国で戦争が起きた。
戦いは夏の時季に始まり、その年の冬まで続いた。何人かの怪我をした兵士が、街の入り口にやってきた。
「どうか、助けて欲しい」
兵士たちは懇願したが、市長は、食料と水を与えて追い返した。やや非情に思えた市長の行為だったが市民は黙認した。
戦争はやがて一方の国の降伏で終了した。
街の産業が戦争当事国への復興景気で潤った。援助はお金になった。だれひとり文句を言うものはいない。
「私の言ったとおりだ。街の安全は守られて、しかも市民の経済は潤った」
市長は、デスクの前で助役に向かって上機嫌でいった。
ある日、市長室に、一人の男が訪ねてきた。忙しい市長には見覚えのない男だった。
「私の顔に見覚えありませんか?」
男は、市長に言った。
「さて、どなたです?」
市長は怪訝な顔でくわえたタバコに火をつけた。男は、間をおいて市長に言った。
「私はあなたに街から追い返された東の国の兵士でした。仲間はみな命を落とした。あなたに人間の心はない」
男は、それだけ言うと部屋を出ていった。
市長は、少しの動揺もみせずにタバコをふかしていた。
助役が室内に入ってきた。
「確かに人間の心はないな…」
助役は、市長の首に手をのばし、小さなスイッチに触れると動作をリセットさせた。
市長だったロボットは、その場にしゃがみこんで静止した。
「有事には非情はつきものだが、平和になれば
対応を変えなくては…」
助役は、独り言を言いながらロボットを引きずると、防災倉庫の隅に、用の無くなった備品をかたづけた。
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