表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

5話:敵か味方か

「ウィナさん、寝る所どうするんですか?」

「寝るところ――か」

はっきりいってまだ、このシルヴァニア王国内の地図は頭に入っていない。

お金はあるが、騎士になったとしてもいつ廃業になるかわからない現在としては、貯金をしておきたいところだ。

「……あてはないな」

「じゃあ、わたしのところにきます?」

「よろしく頼む」

「――――――え、本当に?」

あまりに同意に至るスピードが早かったためだろう。

リティは目を丸くして聞き直してきた。

「ああ、正直、お金はできるだけ貯金に回したい。というかそもそもおれは、このお金がいくらくらいの価値があるのかすら、わからないだが」

先ほどの服の店でも結局、リティが先輩風を吹かせて代金を払ってくれたのだ。

「ふぅむー、まだデレ期がくるのは早いと思うんですが」

「で、どうなんだ?」

「ウィナさんがつれない」

くすんとわざわざ言葉にだすところがリティらしい。

「いいですよー。1人くらいはよゆーですし」

「じゃあ、よろしく頼む」

「頼まれました!!」


「ここです」

「家は普通だな……」

なにげにひどいことを言うウィナ。

アパートといっていいだろう。

一つの建物に複数の入口がある。

建物形式は洋風で、木製のドアに細工が施されていて、そこに家の番号が書かれている。

「騎士団で借りている建物なのか?」

「そうですよー。ウィナさんも騎士団に入るか、作るかしたら貸与されると思いますよ」

「?」

「まあ、細かい話しは中でしましょう」

ふわあと大きくあくびをしながら、リティは自分の家のドアを開けた。

――部屋番号は009。

なんとも微妙な番号である。

入ってみると、1人で住むには十分な広さであり、キッチンも完備している。

今日までのリティの素行をみていると、部屋はおそらくきたないだろうと予想はしていたが、ウィナの予想は外れであった。

別段きれいとまではいかないものの、ゴミが落ちていたり、服が散乱していたりということはない。

「適当にくつろいでいてください。わたし服着替えますから」

そういい、リティはウィナはぐいぐいと部屋の中央へと押していく。

中央にはテーブルがあり、腰掛けなのだろう、なんとなく人を堕落させそうなクッションが鎮座していた。

黙ってたったままというのも、アレなので、ウィナはとりあえず腰を下ろした。

「……疲れたな」

テーブルに突っ伏す。

頬に当たる木製のテーブルの感触が心地いい。

髪の毛が目元にかかるのがうっとしいが、これも仕方がないのだろう。

そもそもスカートで地べたに座ると中が直接床に当たり、なんとも冷たい。

カーペットのようなものが敷いてあるからまだ、これぐらいですむがなければ冬など凍えるのではなかろうか。

そんな益体もないことを考えていると、

「ウィナさん?」

と髪をほどいたリティがいた。

「……髪、長いな」

「ウィナさんはお疲れですか?」

「まあ、な」

「ふむ、相当お疲れですね。栄養ドリンクとか入りますか?」

「あるのか」

「それっぽいのなら、ありますけど」

「――なあ、リティ」

そこで、ウィナは顔を上げ、しっかりとリティを見る。

「おまえは、一体何者なんだ?」

「どういう答えが欲しいですか?」

微笑し、逆に問いてくる彼女に、ウィナは苦笑した。

「さて、どういう答えと言われても、な。シンプルでいくのなら、おまえは敵か味方か?」

「味方ですよ。ただ条件によっては敵になるかもしれませんけど」

全くもって今日一日、リティという人間を観察して、観察した通りの反応にウィナは笑った。

「ああ、おまえならそういうだろうな。

正直、おれは今日一日、この世界のことを見て、そして自分がなぜ記憶を失っているのか、ずっとその理由を探していた」

「それでみつかったんですか?」

「1日くらいで見つかるなら、そもそも誰も苦労しないだろう。見つかるわけがない。

――だが、きっかけはあった。それはおまえだよ。リティ」

「へえ」

感嘆の声をあげる。

「正確にいうなら、おまえの周りからおかしいと言われている言動に、ひどく親近感を覚えた。使われている言葉、概念、それに記憶の片隅にひっかかる感じがした。

おまえはおれを知っているのか?」

「知りません。

今日はじめてあいましたよ」

「――そうか」

嘘は言ってはいない。

そうウィナは判断して、会話を終わらせようと思った。

しかし――。

「でも、関係はありますね、たぶん。」

「なに?」

「そう遠くない未来にわかると思いますよ。あなたがここに存在する。それがきっと理由なんだと思います」

リティは、そう断言したのだった――。



――場所は変わる。

ここは、シルヴァニア王国最深部。

限られたものしかくることのできない領域に、数人の人影があった。

「……とうとうか」

それは男の声。

「そうね」

それは女の声。

男にはようやくという切望の感情が込められている。

女には男とくらべて特に感情というものはなかった。

ただ来るべきときがきた。

――それだけだ。

「器となるにふさわしいのか、それともただの愚者となるのか」

「どちらにしても今回の計画は、最終形を見ることになるわ。良い結果にしても、悪い結果にしても」

「ああ、だからこそ慎重に事をすすめる必要がある。」

「そうね。まずはお手並み拝見といきましょうか」

「――侮るなよ」

「まさか。

このわたしの力を継承するものをわたしが侮るとでも?」

「……愚問だったな。」

「気にしないで。

長かった計画の準備もこれで大詰め。

気持ちが昂ぶるのも仕方ないわ」

女は肩をすくめてみせる。

彼らの望みが達成しうるかはわからない。

しかし、どちらにして少女の存在によってサイコロは振られた。

あとはどの目になるかはそれこそ神の悪戯いたずらの結果だろう。

フっと女笑う。

それこそ今更だと。

この世界に神はすでにいないのだから。

ゆえに運命をたぐり寄せるのは、人の理のみ。

「では、始めるとしよう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ