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2話:加護と神様

「ここが教会ですよ」

リティにそう告げられ、ウィナは首を上下しながらその建物を見た。

「大きいな」

そんな感想が口に出る。

教会というよりは、神殿というのに近いだろう。

一体どうやって作ったのだろうかという大きな柱が整然と並び、その上にこれまた像やら装飾やらが施された屋根に該当するものが鎮座している。

黒いローブを着ている若い女性が、入口にいる。

そこに人々がこれまた綺麗に2列に並んでいた。

「あの人が受付か?」

「そうですね。でもわたし達はここに並びませんよー」

そういい、リティは近くにいた別の黒ローブの女性に声をかける。

「すみません、騎士団、青の大鷹所属副団長リティ・A・シルヴァンスタインですー。ミモザさんいますか?」

「!リティ様。はい、ミモザ先輩は、本堂の方にいらっしゃいます」

「取次お願いできますか?」

「はい。しばしお待ちください」

そういってその女性は、神殿の奥へとかけていった。

「知り合いがいるのか?」

「はい。一応この神殿の2番めに偉い人です」

「なかなか顔が広いんだな」

「わたしの顔は小顔ですよー」

「……」

相変わらず飛ばしてくるリティに少しイラッとしながら、

「……ここに並んでいる人はみんな加護を受けに来ているのか?」

「いえ、全部ではないですよ。何人かくらいですかねー。」

「それ以外の人は参拝とかか?」

「参拝する人もいますけど、カフェも兼ねているんで涼みにきている人が多いですかね」

「――カフェ?」

「カフェです。コーヒーとか飲むカフェです」

「教会なのにか?」

「教会でも維持費を稼ぐのが大変なんですよー」

それはなんか違う気がするが。

さっきまで神聖な雰囲気がしていた教会の建物が、どことなく世俗にまみれたものに見えてきてしまったのは仕方ないことかもしれない。

半眼で建物を眺めていると、別の女性がこちらに向かってきた。

「リティ!!」

「はろー、ミモザ先輩。お元気でしたか?」

「元気、元気。すこぶる元気よ。つい最近猪を素手で仕留めるくらい」

「おい」

思わずツッコミを入れるウィナ。

「?こちらの方は」

「ちょっぴり記憶喪失なウィナさんです。今は重要参考人としての肩書をお持ちです」

「いや、その発言はおかしい」

「大変ですねー。」

「いや、あんたもそれおかしいから」

ウィナは、おいおいとミモザと呼ばれる女性に言った。

「で、今日はどうしたの?」

「このウィナさんが、誰かの加護を受けていないか調べにきたんです」

「へえ、加護……ね。」

じろっとウィナを見るミモザ。

「じゃあ、ちゃっちゃ調べましょうか」

「お願いします」

「おっけー。こっちに来て」

とミモザは神殿の中へと誘う。

「行きますよ、ウィナさん」

「ああ」


「じゃあ、そこに座って」

と部屋の真ん中に指さす。

ドーム状の部屋で、天井が高い。

地面はコンクリートのような灰色の素材で作られているようで、そこに白いチョークで書かれた魔法陣のようなものがあった。

「ここでいいのか?」

魔法陣の中央でそう尋ねる。

「ええ、そこでいいわ。静かに座って」

ミモザに言われ、ゆっくりと腰を下ろす。

「これからあなたに加護を授けている神様と交信するんだけど……」

「?」

「はっきりいって危ないかもしれないから頑張って」

「どういうことだ?」

いきなり危機感を煽る彼女に、ウィナはおいおいと聞き返す。

「神様が怒るかもしれないからよ。自分の加護を授けたのに、それを忘れるとは何事かっ!!みたいにね。まあ、しょうがないよと思う神様もいるんだけど、中にはそのへんが許せない神様もいるから」

「……わかった。しかし神様っていうのはずいぶんとたくさんいるんだな……」

「そうねー。いったいどれくらいいるか、数えた人はいないけど、それでも加護が被ることがないから加護を望む人よりも多くの神様が存在すると思うわ」

「ミモザも加護持ちなのか?」

「わたしも一応加護持ちよ。わたしに加護を授けた神様は、『祀り事のユーディス』。どんな儀式にでも干渉できる力をもっているわ。まあ、その分デメリットがヒドいけど」

苦い表情を浮かべるミモザ。

ウィナはミモザを観察する。

ミモザは、少し茶色がかかった髪を後ろで結い上げている。

眼の色は碧。

服装は少し朱色まざった、巫女服に近い服装だ。

「どんなデメリットなんだ?」

「……神様に仕えるものだから、その身は清浄でないといけないでしょ?といったらわかるわね」

「――なるほど」

それは確かに大きなデメリットだろう。

「不老でもあるからメリットがないわけじゃないけど、ね」

なかなか上手くいかないようだ。

そうなると自分にかかってくるデメリットやらが非常に気になってくるウィナである。

「すまないがよろしく頼む」

「ええ。じゃあ何が起きても平常心でお願いね。」

パンっと両手を叩く。

ただの一動作で、ウィナは意識を失った――。



「――ここは?」

何もない。

ただあるのは白に塗りたくられた、未完成な世界。

いわゆる精神世界というやつだろうか。

「その認識であっているわ。我が加護を受けしモノよ」

「!」

急激に寒気を感じる。

さっきまで白い世界であった目の前の空間に1人の女性が立っていた。

黒い長髪をなびかせて、その紫の双眸をこちらに向けている女性。

ウィナと同じ髪型と目をもつ、少しツリ目の少女はにやりと笑みを浮かべた。

「そう怯えることはないわ。

あなたはわたしの加護を受けた。

わたしが許容したのよ。もっと堂々としなさい」

「……なかなか難しいことをいう」

物理的なプレッシャーを感じながら、そう言葉を返した。

「今後の成長に期待というところかしら?」

その言葉とともに威圧感が消える。

どうやら少しばかり存在感を薄めたのだろう。

「さて、わたしの名前はわかるかしら?」

「わからないな」

「なら、知りなさい。

我が名はミーディ・エイムワード。

かつてこの土地に起きた災厄を打破したこのシルヴァニアの王よ」

「――」

驚いた。

神ではなく王と彼女は言ったことに驚いた。

「加護を授けるものが必ずしも神である必要がないということよ。

人であっても神の位階にたどり着くことができれば、その身は昇華される。かってのわたしがそうであったように」

そこに驕りはない。

ただ純然たる事実を述べただけだ。

「さて、我が加護を受けしウィナ・ルーシュ。あなたはこのまま死ぬか、それともわたしの加護を受けたままで生きるか2つの選択があるわ。どちらがいいかしら?」

「生きる」

迷うこと無く即答したことにウィナ自身、驚きを感じた。

だが発せられた意志に迷いなどなかった。

「――へえ、覚悟ができている……ということかしら。なら授けましょう。わたしの第一のちからを」

「!」

何かが堕ちてくる。

この白い世界を貫くように降りてくる圧倒的な存在感――。

思わず息をするのも忘れ、それを凝視した。

「……刀?」

そう刀だ。

朱色の鞘に包まれた日本刀。

それがゆっくりと降りてきてウィナの目の前で動きを停止した。

「――これは?」

「わたしからの贈り物。もっともあなたにとっては悲劇への第一歩となるかもしれないわ。それでもそれに使う?」

こちらを試すように言う彼女に、ウィナは右手を伸ばした。

「――っ」

熱かった。

それこそ200℃以上の油に手を突っ込んだようにその熱さは、手だけでは収まらず、身体を魂を焦がしていくように感じられた。

一瞬が数分、数時間、数日、数年。

時間の感覚がわからぬくらいに続いたかと思ったら、次第にその熱さは消失し、刀はその主を認識した。

「赤錆の魔刀。

その力は全てを切り裂く力。

物理的にも精神的にも魂すらも切り裂く力。

でもそれはそれを扱うものにも同様に振りかかる呪いの刀。

あなたがわたしの力を振るうに足らないと判断されれば、その刀によってあなたは煉獄へと身を貶すことになるわ。」

「――なるほど、な」

痛みをこらえながら、ミーディを見る。

「力を持つものにはそれ相応の責任と義務が生じるとわたしは考えているの。

安易にその力を振りかざすものに、わたしの力は渡せない。

だから、注意しなさい。

これは警告よ。

何のためにその力を振るうのか。

もしも迷ってしまったのなら、今まで振りかざした力はあなたへと返ってくる――」

「――っ」

急に視界が綻び始める。

「……今回はここまでかしら。

あなたが耐えることができる時間が過ぎたということね。

もっと言いたいことがあったのだけれど……。」

彼女は残念そうにつぶやく。

「機会がないわけでもないから、今回はよしとしましょう。

――そうそう言い忘れていたけど、わたしと本体とはつながっていないから、安心しなさい」

それはどういう――

言葉を発せられぬまま、意識が混濁した。



「――ナさん、ウィナさん」

「……リティ……か?」

再び視界が戻った時には、真紅の瞳の少女がこちらをみていた。

もっとも心配とかそういうものはないが。

「大丈夫ですか?この指何本に見えますか?」

大丈夫だと声をかけ、周囲を見回す。

先ほどの部屋のままだった。

リティの後ろにはミモザがいて、心配そうに表情を歪ませていた。

「大丈夫?」

「大丈夫だ。……あってきたよ、加護を授けた人に」

かなり強烈だったが。

そう独白する。

「あってきたってことは、強力な神様だったのね。この結界を越えて、本人がでてきたってことでしょ?」

「ああ。……って普通は本人来ないのか?」

「普通は神様の使いが、やってきて教えてくれたりするのよ。本人がくることもあるけど、そこまで消耗するほどじゃないの」

ミモザが言うとおり、体力を使いきったかのような倦怠感がある。

「神様と人とを結ぶラインにのって、神様本人が一時的にあなたに降りたのよ。人の器では体力、精神力、魂の力すべて使ってもせいぜい数分。あなたは数秒。よっぽど容量の重い神様だったのね。それだけ力があるというわけだけど」

「神様……というか人だったらしい」

「えっ?」

「ミーディ・エイムワードって言っていた。

おれに加護を授けた神様は」

「ええええええっ!!?」

ミモザは思わず絶叫した。


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