7 前半
団長視点です。
王都の騎士団にいた頃は女からよく告白をされていた。
自分で言うのもアレだが、俺は騎士団員としてはけっこう有名だった。騎士学校を首席で卒業後、王都の護衛騎士団に入団。その後、異例の早さで隊長を任してもらえるようになり、未来の総騎士団長なんて噂されるほどだった。
その頃から女にやたらと声を掛けられるようになった。飲みに行こう、遊びに行こう、一夜の関係だけでいい、あの頃の俺は女からとにかくいろんな誘いがあった。が、俺はもちろんその全てを断った…………とはいえない。正直に言うと、酒にひどく酔ってしまって一夜の関係というのは何度かある。まぁもう過去のことだしあまり覚えていないからどうでもいいが。だが、きちんと女と付き合ったことは一度もない。女からの本気の告白は全て断っていた。
隊長を任されて数年後、俺は総騎士団長の補佐のような仕事もするようになった。その頃に紹介されたのが娘のルル嬢だった。総騎士団長がどういうつもりで俺に娘を紹介したのかは何となく気付いていた。まぁ俺と結婚させたかったのだろう。あのときの俺は23歳で、ルル嬢は17歳だった。これから付き合ってゆくゆくは結婚…とそんな考えだったのだろう。
めんどくせぇ、と思ったが、総騎士団長の手前、その後ルル嬢とは二人で何度か会った。苦痛だった。女と面と向かって話すことほど苦痛なものはない。何度か二人で会っても俺のルル嬢への苦手意識はなくならなかった。
やがて総騎士団長も交えて3人で食事をする機会があり、そのときに『娘と結婚をしてくれないか』とついに言われた。少し考えさせて下さい、と俺は告げた。が、考える気などなかった。答えは最初から出ていたからだ。
結婚をする気はない。
どうして苦手な女と結婚なんてしないといけないんだ。めんどくせぇ。でも、相手は全騎士を束ねる総騎士団長だ。ここで下手な返事をしたら俺の騎士人生が左右されてしまうかもしれない。慎重な判断をした方がいい。承諾するという選択肢はすでになかったので、俺は何か良い断り方はないかと考えていた。
そんなある日、俺は第3護衛騎士団へ左遷されることになった。ここではまだ話したくないがちょっといろいろめんどうなことをやらかしてしまったのだ。それが原因で俺は本部の護衛騎士団の隊長の任を解かれ、国境付近にあるエリスール領の第3護衛騎士団の団長になった。
それに合わせるようにルル嬢との結婚話が白紙に戻された。おそらく総騎士団長は、本部から左遷された男と娘を結婚させたくなかったのだろう。正直、助かったと思った。本部から左遷されたことは悔しかったが、結婚話が消えたことは正直ホッとした。
エリスールは本部よりもかなり治安が悪く、俺たち護衛騎士団の仕事量は多かった。加えて、それまでいたベテランお手伝いのばぁさんが辞めた代わりに新しく入って来たお手伝いの女がどんくさくて、そいつに仕事を教えるのに手がかかったりと、俺はそれなりに忙し日々を送っていた。
だから、ルル嬢のことなどすっかり忘れていた。しかし、ある日突然にルル嬢から電話があったのだ。今度、俺のいるエリスールへ行くので会ってほしい、と。今更何だと思ったし、めんどくせぇと思ったが、総騎士団長の娘の誘いを断るわけにはいかなかった。
ルル嬢に街の案内をしていたら、第3護衛騎士団の詰所でお手伝いをしたいと言われた。もちろんすぐに断った。お手伝いならアリスがいる。仕事のできないどんくさい女だがそれなりに頑張ってはいる。アリス以外のお手伝いをここに置くつもりはなかった。しかし、ルル嬢はなかなか引き下がってくれず、自分の仕事振りを見てから決めてほしいと言われた。そんなものを見ても俺の意見は変わらないが、それで気が済むならと俺はルル嬢を詰所へ連れてきた。
まさかルル嬢から告白をされるとは思わなかった。総騎士団長から結婚話を持ち掛けられたとき、ルル嬢もまた父親に言われて俺と結婚をさせられる立場だと思っていたからだ。しかし聞けばあのときからルル嬢は俺に気があったらしく、総騎士団長である父親に自ら俺との結婚話を持ち掛けたらしい。総騎士団長は娘を可愛がっていたから、娘の願いを叶えたかったのだろう。それに、自分で言うのもアレだが、俺は将来有望な騎士だったから娘の相手にふさわしいとでも思ったのだろう。だから、俺にルル嬢を紹介した。
しかし、俺が本部から左遷されることになり娘の相手としてはふさわしくないと思い直した。で、俺とルル嬢の結婚話を白紙に戻した。けれど、ルル嬢は俺のことがずっと諦めきれなかったらしい。父親に内緒でエリスールへと来て俺に想いを告げた。ここでお手伝いをしたいと思ったのも俺のそばにいたいと思ったからだそうだ。
俺はもちろんすぐに断った。前回の結婚話は総騎士団長の手前、返事を遅らせたが、今回はルル嬢の個人的な気持ちで、むしろ総騎士団長は俺との結婚を認めないと思いすぐに断りの返事をした。
ルル嬢は泣いていた。その泣き顔を見たとき、やっぱり女はめんどくせぇと思った。本部にいた頃にフッた女たちもみな泣いていた。泣けばいいと思っているのか?泣いたって俺の意見は変わらない。
ルル嬢は部屋を飛び出していった。追いかけはしなかった。それよりも俺はさっきからずっとアリスのことが気になっていた。
アリスにルル嬢とのキスを見られてしまった。
部屋の窓から外を覗けば、中庭に咲いている花の前でしゃがみ込んだまま動かないアリスの後姿が見えた。
俺はすぐに部屋を飛び出していた。
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