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団長視点です。

「シュークリーム美味しかったですね、団長」


さっきからアリスはずっとこればかりを言っている。よほどあのシュークリームが気に入ったのだろう。詰所に戻っても食べられるように3つほど持ち帰り用も買ってやった。すごく嬉しそうに笑うアリスを見ると、もっとこいつを笑わせてあげたいと思ってしまう。どうやら俺はもうすっかりアリスに骨抜きにされているらしい。


改めて思う。あの日、好きだと告げて良かった、と。


「あっ、団長。見えてきましたよ」


アリスが指を指した先にある白い建物はこの街に唯一ある病院だ。俺たちはアリスの親父さんの見舞いへ向かっている。


俺は前にも一度だけアリスの親父さんの見舞いへ一人で来たことがある。アリスに、なぜ詰所でお手伝いの仕事をすることになったのか聞いたとき、親父さんの入院費を稼ぐためだと教えられた。聞いたからにはアリスの職場の代表である団長として一度は見舞いへ行くべきだと思ったのだ。まさかアリスと二人で訪れるような日が来るとは思わなかったが。


建物に入ると看護師たちとアリスは親しそうに挨拶を交わしている。もう5年近く親父さんはこの病院に入院していると聞くから、もうすっかり顔なじみになっているのだろう。看護師との話が終わり俺のところに戻って来たアリスと親父さんが入院している部屋へと向かう。


「団長。看護師さんたちみんな団長のこと驚いたように見てましたよ」


アリスに言われなくても俺だってその視線には気が付いていた。


「さっきのお店でもそうだったし、病院に来る道でもそうだったけど、団長ってやっぱり人気者なんですね~」


自分が街の女性達から『団長様』なんて呼ばれていることは知っている。見回りに行くとやたらと声をかけられるが、いつもそれを無視している。そんな冷たい態度を取ってもなお俺に話しかけて来ようとするのだから女というものはやはりよく分からない。そして苦手で、めんどくせぇ。


さっきの店での女の会話を思い出す。アリスへのあの言葉が許せなかった。俺の隣にアリスがいるのがなぜそんなにおかしなことなんだ。そのときばかりは俺の女嫌いがすっかり消えていた。思わず素の俺が出てしまったが、あんな女共にどう思われようと全く気にしない。


そうこう考えながら、階段で最上階の5階までのぼるのだが俺はあることに気が付きアリスに声を掛ける。


「親父さんの病室変わったのか?」

「はい。あ、そっか。団長は前に1度来てくれたことありましたもんね。そのときはまだ病状がかなり重かったので看護師さんたちが待機している2階の部屋にいたんですけど、去年頃から少しずつですが病状が良くなってきたので5階の病室に移ったんです。すごく見晴らしがいいんですよ」


嬉しそうに笑っているアリスに、どうやら親父さんの病気が快復してきていると聞き俺も安心する。


5階の角部屋がアリスの親父さんの部屋らしい。その部屋の前まで来ると、アリスが白い扉を2回ほどたたき、声をかける。


「父さん。アリスだけど、入るよ」


アリスがゆっくりと扉を開ける。


「お見舞いに来たよ、父さん」


アリスの後ろから俺も中へ入っていく。一人部屋のベッドの上では眼鏡を掛けた白髪混じりの男性が驚いたような表情でこちらを見ていた。


「父さん。今日は団長もお見舞いに来てくれたよ」


アリスの言葉にさきほどまで本を読んでいたのだろう親父さんは慌ててその本を閉じると近くの机に置いた。そして俺に頭を下げる。


「これはこれは団長さん。お忙しいでしょうに、わざわざ来ていただいてありがとうございます」

「いえ、俺もあれから一度も見舞いへ来れなくてすみません」

「そんなそんな。団長さんからは見舞い品をたくさん頂戴してしまって本当にありがとうございます。このパジャマ、とても着心地が良くてお気に入りなんです」


と、アリスの親父さんは着ている服を触りながら「この通りツルツルで気持ちいいんです」と満面の笑みを浮かべている。


初めてここへ来たときにも思ったけれど、おそらくアリスの性格は親父さん似だと俺は思う。なんというか二人ともお気楽な性格というかなんというか、すごくのほほんとしているのだ。


「団長。このイスに座ってください」


と、アリスが近くにあったイスを持ってきてくれたので、俺はそれに腰掛ける。


「アリス。この前、持ってきてくれたチューリップが枯れてきてしまったんだ。すまないが水を取り替えてきてくれないか?」


親父さんは窓際に置かれている花瓶を指さす。そこにはこの前アリスが俺の仕事机に飾ってくれたのと同じ花が飾られていた。


「うん、分かった。ちょっと行ってくるね」


アリスは両手で花瓶を持つと、そのまま病室を後にしてしまった。

残されたのは親父さんと俺。


「団長さん、アリスは仕事をしっかりとやっていますか?」


やはり娘の仕事振りが心配なのだろう。初めてここへ来たときも同じことを聞かれたことを思い出す。


「あの子は私に似てしまってどうものんびりとしているところがあるし、おっとりとしているから、そんな子が街の治安を守る騎士様たちの詰所でお手伝いの仕事をしっかりとできているのかととても心配で」

「大丈夫ですよ。前も言いましたが、アリスさんはよく頑張っているし、私たちもすごく助かっています」


そう告げると、親父さんは安心したような笑顔を見せる。


「そうですか。よかった」


アリスの顔はおそらく母親似なのだろう。親父さんは笑うと目がなくなるほど細いのだが、アリスはぱっちりとした大きな目をしている。


「あの子には本当に申し訳ないことをしてしまったと思っています。私が病気になったばかりにスクールを退学させてしまい、親のために働くなんて。まだ十代でもっと遊びたいだろうに、本当にかわいそうで」


俯きながら話していた親父さんの顔がそこでゆっくりと上がる。そして俺を見つめる。


「でも、ここへお見舞いに来るたびに私に笑顔を見せてくれる。我が娘ながらあの子は本当に心が綺麗で優しい子なんです。どうか、ふつつかな娘ですが、末永くよろしくお願いいたします。団長さんのような男性ならあの子を安心して任せることができます」

「はい、お任せくださ……い」


そう返事をしながら親父さんの言葉を頭の中で再生させる。ふつつかな娘、末永く、俺になら安心して任せられる。なんだその娘を嫁に出すようなときのようなセリフは。

俺は親父さんの顔を見る。親父さんはにこにこと相変わらずの笑顔を俺に向けていた。


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