大画面で面識の無い生き物が己へ愛を叫ぶ罠☆
幽かな疑惑――――――だが、確かな疑念。
生じた其れは、僅かな引っ掛かりを残しつつも意識の海から流された。
さて。
彼女は深夜に独り言ちる。
此処は彼女の部屋。今日は彼女の黒歴史とも云うべきアニメの放映日だ。絶叫防止用のクッションを抱き締め、いっそ悲壮感すら感じさせる表情で視聴していた彼女だったが、意に反して今回は異種族陣営の出番も少なく、一先ず胸を撫で下ろす。健やかに眠れそうだと仄かな笑みを唇に刷いた彼女の視線の先で、其れは始まった。
「……映画、化?」
エンディングも終わり、テレビを消そうとした彼女の目に飛び込んできた派手な色彩に彩られた文字。派手派手しいファンファーレと共に流れ始めた映像は如何やら映画本編のダイジェストらしく、其れに被る様に喋る主役の高揚した声は否が応でも視聴者の期待感を煽る。
映画化の情報をファンに逸早く伝える、と銘打たれた其れは、単なるCMではなく簡易的な特番だった。
物語の主要キャラ達が流れる動画に一言二言のセリフを合わせ喋っていた。激しい切り替えが視聴者を引き込んだところでゆったりと流れ、一番のイメージスチルらしい画像がゆっくりとフェードインしてくる。滲む様に其の画像中央に現れた題名の下には副題であるらしい一文が控えめながら確りと書かれていた。
「闇を望む国……?」
副題の一部を呟き、彼女はじっと画面を見つめる。映画の話は云わば番外編であり、本筋とは全く関係ないどころか話に異種族は絡まないと云うナレーションの言葉に、彼女は安堵の息を吐いた。
「そうよね。あの時代だもの。ネタには事欠かない筈なんだから、特別な話に態々闇姫の関係を使う事なんかないわよね」
映画の大画面に自分の過去が映されるなんて、どんな罰ゲームだ。心中で呟きながら、彼女は幾分か気を緩めて画面を見る。
と、其処に話の舞台である場所が、都が映し出された。
僅かに黒ずんだ印象の、背が高い塔が連なる王都。
「あら……」
彼女は、ぽつりと呟いた。
ゆったりと画面を流れる都の……否、其の建物に、やけに確りと、見覚えがあったのだ……勿論、過去世で。
確か、と彼女は独り言ちる。
確か、此の国は異種族への隷属を熱望していた筈だ、と。
熱望し渇望し。其の願いは一種の狂信の様相すら呈していた。其の余りにも必死な様子に、闇姫の配下が暇潰しに気紛れなちょっかいをかけていた、筈だ。
そう、彼女は思い出す。
伝聞が多いのは、闇姫自身は全く興味が無かったので、配下である上位種達が其の滑稽さを奏上するくらいでしか知らない為だった。
「何時の間にか滅亡したと思ったら……」
主人公絡みだったの。
ふむふむと納得し、彼女は意識を画面に映した。あんなに欲していた異種族の加護は結局得られずに終わったのねえ。
映画の内容を包み隠して伝えるナレーション。
そして。
其れは起きた。
宣伝特番の最後も最後。此の映画の最大の敵たる国王が、玉座に座した儘、傲岸に云い放つ。
「美しく輝かしい闇姫様へ! 全ての富は! 命は! 献上されるが道理なのだ!!!」
「どっっっっっっっっっっっっっっっっんな道理なの其れは!!!!!!!!!!!!」
彼女渾身の突込みは、深夜の空に溶けて消える。
そうだ、そうだった、思い出した。
彼女は今更ながらに配下の言葉から構築された奇特な国王の特質を思い出した。
「此れ……闇姫教信者だった……!」
狂信者、でも構わない。
見た事も無いだろう闇姫を、体の髄から心酔する変態だった。
彼女は芋蔓式に蘇った数々の……配下が面白そうに奏上していたエピソードを思い出していく。
そうだ、一度も闇姫を見た事が無い癖に、伝え聞く事柄だけで異種族……違う、闇姫至上主義になったんだった! だから配下、なんだかんだで構ったのよね!?
だとすれば、と彼女はぞっとする。
確かに異種族陣営は話に出てこないだろう。高々人の支配する一国、滅ぼうと異種族陣営に関係が無いのだ。
だが、しかし。
既に全く関係の無いCMが始まっていたテレビを消し、光を失った画面を呆然と見遣る。
「まさか…………闇姫信者が喜んだような言動、大画面で、しないわよ……ね……?!」
勿論、するだろう。
彼女の優秀な頭脳は、冷静にそう断じている。
映画のラストシーン、一番の盛り上がりを見せるだろう対決の場面で延々と闇姫讃歌を謳うだろう敵役の姿を想像し、彼女は悶絶するのだった……。