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友達に様付けで呼ばれ、あまつさえ美称迄知られてる罠☆

 後に、其の日を振り返り、彼女は云った。

「高みからきっと大笑いして見物しているだろう高位の存在がもしいるのならば……何時か思いきり殴ってやるわ」

 と云うか。

 彼女は涙目で云う。

「散々非道をしていた自覚はあるんだから、此れ以上の辱めなんていらないでしょお!!!!!」

 勿論此の絶叫は、彼女の内にのみ響いたのである……。





「おはよーぅ」

 にこやかに、朗らかに。

 教室の自席で授業の準備をしていた彼女の傍に一人の少女がやってきた。

 おはよう、と彼女も言葉を返し微笑む。うーん、美少女の笑顔ゴチですッと騒ぐ声をさらりと流し、彼女は級友たる少女を見上げた。眼鏡をかけた、少し背の低い、少し太めの、但し其の分胸の盛り上がりは犯罪級な少女は、彼女の前の席に座ると嬉しそうににこにこ笑って話しかける。

「雑誌、如何だった? 役に立った?」

 綺麗な顔立ちで勉強好きな彼女に物怖じせず話しかけて来る希少な存在であるこの級友は、彼女の黒歴史(ぜんせ)……大流行中のヒロイックファンタジーアニメオタクであり、概略を聞いてきた彼女に「さわりだけ」と云いながらかなりコアに語った剛の者でもあった。

「ええ、ありがとう。とても役に立ったわ」

 云いながら彼女がエコバックに入れた雑誌の束を渡すと、其れを大切に扱いつつも豊満な胸にぎゅうと押し付ける様に抱き締めた少女はじゃあと言を継ぐ。

「昨日のアニメは? 見た? 見てくれた???」

 わっくわくーと云う擬音が背後に見えそうな様子で尋ねる少女へ、彼女は僅かに頬を引きつらせつつ平静を装い是と返す。

「ほんとー!? 如何?! 如何だった!?」

 きらきらと目を輝かせて前のめりになる少女に些か困惑しつつ、彼女が面白かったと返せば相手は其れは解かっていると不服そうにぷうとむくれた。

「面白いのは当たり前だよお! あのアニメ、最近珍しい原作無しの完全オリジナル作品なのに破綻が無いってコアなオタクの間でも評判高いんだから!」

「そ、うなの」

 思い切りパーソナルスペースを犯しつつ声高に断言する級友に更に引きつつ彼女が返せば、少女はずり落ちそうになる眼鏡を人差し指で治しつつ私が聞いてるのはと云い放つ。


「『麗しの闇夜の顕現』! 『輝かしき』闇姫様の事だよぉ!!!」


 ごはあ。

 美少女の吐血、と云うのは中々に見れるモノではないが、今この瞬間、彼女は心の中で全内臓を爛れさせた勢いで血を吐いていた。

「や……やみ、ひめ?」

 間違っても様なんかつけてたまるか。

 何とか血反吐の海から立ち上がり(心象風景)、彼女は白皙の美貌を僅かではあるものの更に白くさせながら小さく問いかけた。

「ん。闇姫様」

 満面の笑みで、しかも語尾にハートマーク付けた様な声音で思い切り肯定され、彼女は遥か頭上から落ちてきた大岩に押し潰された(心象風景)。

「あ、そっか! 宇賀神(うかがみ)さんってばあのアニメ知らなかったんだもんね! あのね、昨日出てきた敵方の一番偉い(キャラ)! あの(キャラ)の事をね、ファンは『輝かしき』闇姫様ってお呼びしてるのー」


 輝かしき 闇姫様 (どん!)


 宇賀神(かのじょ)はもうフラフラだ!(←心象的ナレーション)

 そんな級友の心中を知らない少女は、更に追い打つ様に言葉を続ける。

「でね~! 尊称として『麗しき闇夜の顕現』って美称があってね~」


 麗しき 闇夜の 顕現 (どどん!)


 がふう、と思い切り喰らったレバー打ち(拳闘等で行われる技。滅茶苦茶苦しい)に苦鳴を上げ(心象風景)、彼女は戦慄く唇で何故そんな名前を、と呟く。

 其の言葉に、目の前の少女はああそうかと納得した様子で言葉を紡いだ。

「うん、あのキャラは名前出てないんだけどね? ほら、エンディングのクレジットにも(おさ)としか出ないしね? でも今迄の話の中で上の地位に居る敵キャラが結構そうやって呼んでるんだよね~。異種族の長、なんて呼んでるの、主人公達や人間くらいなんだよ。美形悪役がうっとりした顔で口走っててね~。日頃ツンの酷過ぎるくらいクール系な悪役(きゃら)達がそんな感じだからインパクト強すぎて、すっかり闇姫様で定着してるんだよ~」

 えへへ~と嬉しそうに頬迄染めて(!)そう告げる級友たる少女に、彼女は最早何も云えなかった。――――――HP(ひっとぽいんと)的な、意味で。

箕輪(みのわ)、さん?」

 震える手で教科書とノートを握り締め、引きつり蒼白な美貌に何とか微笑みを浮かべて彼女は一寸自分の世界に入り込み始めてる級友に声をかけた。

「そろそろ、先生が来ると思うんだけど……」

「あ、ほんとだ~」

 ふいと時計を見上げ、少女はじゃあ又後でとにこやかに手を振って自席へ戻った。

 教室が、授業前独特の喧騒に塗れる中、外見的にはいつも通り……だが、内面は最早指一本動かせない満身創痍な状態の美少女が、虚ろな視線で遠くを見て呟く。





配下(ばかども)、許すまじ」





 割と本気の殺気が声音に宿っていたのは、仕方のない事だろう。

 ……彼女の黒歴史は、まだ始まったばかりだ。(合掌)

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