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開き直ったって現状把握は進まない罠☆

 英国貴族の館には大広間があり、美しく装飾された階段が決まって設置されていた。其の階段は、舞踏会や晩餐会の参加者が入室する際必ず使われ、一種の御披露目用舞台でもあった。男召使が名前を読み上げ、大広間に居る参加者達に誰が来た、と示す訳だ。煌びやかな装いを誇示する場でもあり、己の美的感覚を見せつける場でもあり。そして、圧倒的な権威を誇示する場でもある。

 疑似的とは云え、全く見劣りしないだろう其処に、彼女は居た。

 傍らには、メイドと称される少女。そして周囲には、綺羅綺羅しい面々。

「北の花園の守り人殿」

 呼び出しの声が離れた場所で響く。

 どよめきが、起こる。

 そうだろう。

 此の場に居るのは、其々己が一番の異種族信者と称する様な輩ばかりなのだから。

 自ら『呼び出し(コーリング)』を望む様な人間ならば、其の実力もしれようと云うもの。

「南の清水守殿」

 呼び出しが行われる。

 滞りなく。


 衝撃の対面の後、真っ先に跪いた貴公子然とした美丈夫は何処迄も清涼な微笑みを浮かべて云った。

「申し訳ありません。余りにも二次元(あにめ)に酷似した方を目の前にして取り乱しました」

 其の一言に、いがみ合っていたいた二人すら同調してきゃんきゃんと吠え出す。

 曰く。

 余りの理想通りの姿に現実との境がつかなくなった。

 美辞麗句を並べ立てて入るものの、結局の処は云いたい事は其の一択だった。

 正直、彼女は思う。

 ……其れで、誤魔化せたと思っているのかしら?

 軽く眉を顰めて眇め見た事は許容範囲だろうと彼女は思う。

 賢い子達だった筈だ。

 己が育てた、とは云い難いが、見守っては居た。

 前の生では配下として、其の領土を如何に安寧に統治するかを心を砕いて教えたものだ。

 彼女はそう嘆息し、現状を思う。

 正直。

 正直、だ。

 現に置いて、生まれ出づる前の関係が歴として存在する事に否やは無いのだ。寧ろ、昔可愛がった面々が今現在に於いても傍にいる現状は嬉しさしかない。

 だが、しかし。

 こう、中途半端に誤魔化されると苛つくものね。

 そう独り言ち、彼女は揺るぎない視線を前方に向け続けた。

 貴公子と人が呼び称する高位種が彼女に言葉を紡いだ瞬間から、個室(ブース)に押しかけた面々は口々に言訳交じりの賞賛を始めたのだった。

「本当に! 御美しさ限りなしですね!!!」

 企画スタッフGJ!と口走り、刹那蒼褪める剣士コス(仮定)へ、彼女は些か冷めた笑みを向ける。

 其処で狼狽えるな。明らかに云っちゃいけない事云った感が増すでしょうが。

 そう思ったのは彼女だけではないらしく、伯爵、貴公子、女公爵と人に称される面々に、一撃づつ貰って彼は床に轟沈していた。

「別にアニメファンではないのですが、引き摺り出されたとは云え貴女様の様な方に出会えるとは、此の世の栄華を手にした様ですわ」

 たった今それなりの体格(ガタイ)の男を一撃で沈めたとは思えない高貴な笑みを伴い、眼前の女が笑う。徹底した豪奢な夜会服(ドレス)に彩られた豊満な肢体は、光を放つ様に美しい。

 此の子は。

 彼女は思う。

 此の子は、落ち着いた外見とは相反して、とてもとても見栄っ張りだった。

 今現在も見栄を張っているのだろうと目算し、彼女は豪奢な美女の頭を撫ぜる。

 一撫ぜ。

 只、其れだけ。

 だが、其れは驚くべき攻撃力を発揮し、其の場の者共の理性を駆逐する。

 我も我もと押しかけんとした刹那。

 彼女は、些か冷えた声で云い放った。

「貴方達は――――――アニメのファンでらっしゃる? 其れとも、不本意ながら似ているから此の場にいらっしゃる? ……私、同様に」

 此の言葉に、ほぼ全員が固まった。例外は、級友殿。濃紺のドレスに身を包む少女は、彼女の言に身悶えしながら賞賛の声を上げていた。

 素晴らしき、二者択一。

 此の言葉に内包された意味を察せば、安易に歩み寄れないであろう地雷。

 ああ、流石我が君。

 少女は感嘆の声音を身の内で絶叫する。

「同朋であれば、懇意にする事やぶさかではありませんが……」

 そして、微笑み。

 選択肢を誤るなと、突きつける美麗な笑顔に誰もが動けない。勿論、彼女言い分としてはさっさと白状しろと云うだけだったのだが、周囲の判断は又別で。


「貴公子様」


 端的な言葉に、絶叫が迸る。

 漸う高位種の番になったらしい。

 女公爵

 剣士

 呼ばれる度に彼女の周囲の密度が減り、絶叫が其の場を満たした。

 暗殺者

 楽師

 呼ばれる声音。

 呼ばわる声音。

「麗しの闇」

 彼女の眼前で、級友であった少女が跪く。

 跪いて、促す。

 人の子如きに綺羅綺羅しき美名を呼ばわせるなぞ嫌なのだと。

 思いがダダ漏れている眼前の級友であった存在(もの)へ視線を遣り、彼女は音も無く立ちあがった。

 此の世界は、存外、前世に関わり深い場所であったらしい。

 そう思いながら、彼女は段を一つ一つ、踏み、上がった。

 其の威容。

 溢れでる威厳に、人でしかない者達は最早平伏すしかなく。

 壇上に上がった。

 コーリングは無かった。

 だが。

 だが、しかし。

 其の眼下には、綺羅綺羅しき上級種達が平伏す様に侍って居り。

 単なるコスプレイヤーであり、アニメファンであった者達は、其の威容に呑まれ、立ち尽くす。

「輝かしき闇」

 立ち上がり、口上述べるは濃紺の影。

「麗しき闇姫様、多大なる慈悲を以て、今此処に、御光臨――――――!!!」

 誇らしげな其の声に。

 其の場に居た全ての人間が額づいたのは当たり前の事だった……。

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