自覚! 発覚! 大悶絶!!!
思い出したのは、陳腐な程に定石通りな事が切っ掛け。
小学生の頃滑り台で遊んでいて階段を踏み外した際、見事に地面へと落ち、頭を痛打した。
其れだけの事。
そう、其れだけの事だったのに……――――――私は空前絶後な黒歴史持ちになったのだ。
時は深夜。
真っ暗な外に反して煌々と明るい室内。つけられていたテレビの画面に映るのは、先程迄放映されていたらしいアニメのエンディングだ。丁度終わりを告げているらしく、最後の余韻も待たずに少女は虚ろにテレビを消した。刹那、がくり、と首を落とす様に思い切り項垂れ、少女は、力なく床に……辛うじて置かれていた大き目のクッションの上に頭を載せたとは云え、かなり迷いなく床に倒れこんだ――――――刹那。
間髪入れずの、大絶叫。
身も世も無い勢いで喚く声は緩衝材に吸い込まれ外にはくぐもった音しか漏れていない。
自宅の自室で奇行を行う彼女は、極普通の女子高校生だ。……いや。外見やら頭の出来やらの個人的性能に関してはかなり高機能高性能ではあるのだが、取りあえず、不景気だと騒がれ続けて幾年漸く上向いてきたと云われる景気の恩恵をまるで受けない普通の中流家庭で生まれ育ったと云う生活環境と、通っている学校は私立とは云えこじんまりとした小さな女子高に通っている普通の女子高校生だと云う点を鑑みれば、極一般的な学校に通う高校生と云えよう。
だが、しかし。
先程彼女が視聴していたアニメが今や空前絶後な流行り方をしている現在において、彼女は極普通と云う代名詞を返上せざる負えない心理的状況に追い込まれてしまった。
――――――そう、彼女は最早、極一般的な高校生、ではない。
「もうもうもうもうー!!! なんであんなものが流行るのよぉおおおお!!!!!」
少女の叫びは非常に真剣な響きを持って居たが、狙い通り、叫ぶ割には声音自体は押し当てられている枕に吸い込まれる。……寧ろ、漏れていたら速攻異常者の烙印を押される事必然の行動故に、そういう方面の意味を持って彼女は世を儚んだ事だろう。
「いいじゃない! もう、十分代価は払ったと思うのよ!? なんでこんな……ッ!!!」
ぐう、と唇を噛みしめ呻き声を漏らす姿は、彼女の容姿には酷く不似合いだ。
真っ直ぐな黒髪、筆で描いたようなすっと流れる切れ長の黒目。真白な肌に似合いの小さくまとまった紅唇。平安美人と云われれば納得する様な其の容姿だが、輪郭の滑らかな円みが其の純和風な顔立ちを極上の極東美人へと引き上げていた。
当に、姫君。
其れ以外の印象を抱かせない気高さを感じさせる容姿に負ける事無く、彼女は品行方正であり成績優秀であった。
趣味は勉強です。と臆する事無く云い放つ彼女は、委員会活動や部活動にも興味が無く、只管趣味の知識探究に邁進していた訳だが、或る時、級友から最近爆発的に人気が上がっている深夜放送のアニメについて聞かされたのだった。
曰く。
其のアニメは、半和風・半創作、の様な形態の異世界モノである。
曰く。
変異型の貴種流離譚で、主人公は荒廃した世界を再構成する為に仲間と共に奔走するのだと。
曰く。
ヒロイックファンタジーとして伝統的展開を踏襲しながらも何処か新しく、特に敵との対面シーンが人気であると。
曰く。
敵が、従来のパターンを踏襲しつつも新しいのだと。
そして――――――曰く。
其の敵の容姿が、彼女に何処か似通っているのだ、と。
そう云いながら如何に共通点があるか、如何に其の敵が魅力的かと詳しい設定をつらつら述べゆく級友の言葉を聞き進める程に、彼女は、僅かにではあるものの引きつる己の頬の動きを自覚した。
自覚せざる負えなかった。
うふふ。
小さく取り繕う様な笑みを漏らし、彼女はまさかと内心で呟いた。
まさかそんな莫迦な事が……莫迦げた事が起こりうる筈が無いと。
だが。
其の希望的観測は打ち砕かれる――――――友人が、其の物語の主人公達の名前を告げた瞬間に。
「なぁぁぁああああああぁぁぁぁんでぇぇぇええええええぇぇ……」
ぐう、と満身創痍の呻き声を上げ呟いた言葉は懐疑。だがしかし、情報収集の為に買い漁った真新しいアニメ雑誌の束や机の上に設置されたPCのデータに残ってるであろうネットの検索結果により、現状は甚だしく彼女の願いを裏切る結果を提示する。
「なんで、前世が、アニメになってるのよぉぉぉおおお……!」
死ねと云うのか。
何処にいるとも知れない高位の存在に向かい、彼女は怨嗟の呟きを漏らしたのだった。