現代人には癒しが必要
午後の授業、私は完全に上の空だった。かよちゃん、かよちゃんのお母さん、香織の謎のアルバイト、考える事がたくさんあった。幸い授業中あてられることも注意されることもなくなんとか放課後まで私は無事たどり着いたのだ。
「穂乃香いくよ、はやく支度して」
どこに行くのか知らないが、香織は急いでいるようなのでなんとなく私も気持ちが焦ってきた。そしてどこに行くかというと、街中にある手芸用品を取り扱っているお店であった。私も一度か二度制服のボタンを買いに来たことはあるのでお店自体は知っていた。もしかしてお使いかなにかに付き合わされているのかな?
特に買うものもなかったので私は香織の買い物が終わるまで入口付近でウロウロしていた。
「お待たせ!今からうちにおいで。バイトの正体を明かしてあげよう」
そういう香織は何やら結構な量の"何か"を買い込んでいた。何を買ったか聞いても、「それは家についてからのお楽しみ」とはぐらかされた。
香織の家まではバスで15分ほどだった。いつ来ても圧倒される立派な一軒家。いつも通り玄関の方に歩いていくと「そっちじゃない」と呼び止められてしまった。どこに行くかと思うと鞄からリモコンのようなものを取り出し、ガレージの扉を開けた。
「我がアトリエへようこそ」
香織は電気を付けながら中へ案内してくれた。なんだか色々交じっているような匂いが。そして大量の箱と……
「もしかして、アロマキャンドル?」
「正解者に拍手!よくできました!」
そうか、ここでアロマキャンドルを作っていたのか。
「もしかして、これ販売しているの?」
「そうだよ。といっても、親の名前で作ったネットショップでだから親が売っているというテイでございます」
なんだそりゃ。
色々説明をしてもらいやっとわかったのだけど、要するにお母さんが雇い主でお母さんのお店に出すアロマキャンドルを香織が作っているとのことだった。香織も小遣い稼ぎのつもりで手伝っていたのだが、気に入ってしまい今ではお母さんはほとんど作らないとも。
途中ご飯をごちそうになりながら作業をし、気が付けば夜の10時までアロマキャンドルを作っていた。ロウをとかし、アロマを付加し、型に入れて冷やす。簡単な作業なのだけど、ロウを溶かすのがとにかく熱い!真夏だと倒れているかもしれない。
芯はタコ糸のようなものだと思っていたのだか、香織はウッドウィックという木の芯が好きでよく使っているそうだ。大豆ベースのロウを使うとススが少ない事や、糸の芯は一度ロウに浸しておかないと実際火をつける時すぐ消えてしまうなど知りたくないとは言わないが、無駄にキャンドル知識を披露されてしまった。
私の作った分が売れたら、材料費を差し引いた金額を貰えるとのことだったけど、果たして売れるのだろうか。それより素人が作ったものなので、何か不備があって迷惑をかけてしまわないかが心配でならなかった。
香織が言うには、どれだけ気を付けて作っても何個かに1つはヒビが入ったりしてしまうそうだ。そういう時は細かく砕いて再度溶かすか自分の部屋で使うらしい。香織のお母さんがいうには「センスが良い」らしいのでこれからちょくちょく作りに来ないか誘われたけど正直今回が最初で最後になりそう。冬場なら暖かくていいんだけどね。
その日は、遅くなってしまったので車で家まで送って貰った。あまり実感はないけど、何となく充実した放課後だった。香織のバレることのないアルバイトを手伝えば体重を減らし続けることができる。
「やっぱりキャンドル作り手伝おうかな……」
お腹の肉をつかみながら、私はお風呂に頭をつけた。
癒されたい!
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