曇り、時々うわの空
かよちゃんのお母さんが失踪したと聞いたのは翌朝学校に来てからだった。職員室が騒がしいと香織が探ってきてくれたのだ。監視カメラにはかよちゃんが運び込まれた直後にタクシーから降りる映像しかなかったらしい。かよちゃんのお母さんは財布も携帯も持たず病室から忽然と消えた。何より不可解だったのが、お母さんが着て来た服が病室に置かれていたことだった。持ってきていたはずの着替え等が無いことを考えると、ショックからの失踪ではないかという話だった。
しかし、いざホームルームが始まると担任の先生はそのことには触れず、かよちゃんはしばらく入院で体調がすぐれず絶対安静なのでお見舞いにはいくなとのことだった。かよちゃんが死んだことを隠している!でも、どうして?わざわざ隠す理由など何もないはず。
「ねぇ香織、どう思う?」
ホームルームが終わった後私は香織に聞いてみた。
「どうってなにが?かよちゃんのお母さん?」
「ちがうよ。まぁそれもあるけど、どうして先生は何も教えてくれないんだろう。それにお見舞いにいくなって。行ったってかよちゃんはもう……」
「しー!他の人に聞かれたらまずいよ」
私は昨夜かよちゃんのお母さんと話した後その一部始終を香織に電話で伝えていた。私の心は完全にキャパオーバーだったからだ。
「この話の続きはまた昼休みにしよ!ね!元気出すんだよ穂乃香、私たちはまだ生きているんだから!」
死ぬとは決まっていないのだけどね。まぁいつかは死ぬのだけど。不安な気持ちは消えなかったけど、少し元気になった気がした。
昼休みのチャイムが鳴ると、私たちはお弁当を持ち保健室へと足を運んだ。昼休み中職員室で会議が行われるという情報を香織がつかんだからだ。機械に強いし情報通だし、ホント香織ってすごい。私たちは空いているベッドに腰掛け膝の上でお弁当を開いた。
「かよちゃんのこと隠すってことは、きっと何か裏があるんだよね」
我慢しきれない私はお弁当には手を付けず香織に話をふってみた。香織は考えている顔をしていたがあくまでお弁当が優先だった。仕方ないので一人で話を続けた。
「かよちゃんは既に亡くなっているのに絶対安静だとか失踪したお母さんの話を黙っておく理由はないよね。絶対安静なんていっても仲の良い人はメールもするだろうし先生の言うことなんか無視するだろうし。結局すぐにばれて騒ぎになるのは目に見えているのに。そもそも既に知ってる人が他にいてもおかしくない?」
「それはどうかなぁ」
持参していたパックの野菜ジュースのストローを刺しながら香織は応えた。
「案外みんな鵜呑みにしてると思うよ。本当に仲良しな友だちが連絡していたのなら、とっくに騒ぎになっているだろうしね」
確かに香織の言うとおりだ。
「だから今私たちが何かできるとしたら知ってしまった事実を発表があるまで黙っておくことじゃない?穂乃香が気を病んでも何も変わらないんだしさ。ね?」
何だか言いくるめられてる気がする。でも香織の言うとおり、今ここで騒いだところでいい事はない。そんなことより心配することがある、来週の健康診断だ。今日になって体重を確認したら預けていた1キロがきっちり戻っていた。お小遣いに余裕があるわけではないし、やはりダイエットを平行してしないととてもじゃないけど悲惨な体重が記録に残ってしまう。
「ねぇ、香織バイトとかしてる?体重預けるのにも結構お金かかるでしょ?」
「バイトは学校で禁止されているよ。と言ったものの、私と穂乃香の間だしいっか。特別に教えてあげよう!」
両手を腰にあてて少しニヤニヤしながら香織はベッドから降り仁王立ちした。タイミング悪く昼休みの終わりを告げるチャイムがなってしまった。続きは放課後ねと言い残し、香織は先に保健室を出て行った。同じクラスなんだから待ってくれればいいのに。
「ちょっと待ってよ!」
私も急いで保健室を後にした。
高校生でバイトはオッケーなの?
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