瀬戸際の戦い
「お前たち、さっさと教室もどれ!」
駆け付けた別の先生により現場から私と野次馬たちは遠ざけられた。用務員の方も到着し廊下にできた赤黒い水たまりはその存在を消されつつあった。私はスマートフォンを渡しに行くタイミングを失いそのままスカートのポケットに滑り込ませ教室へ戻ることにした。数分後救急車が校庭に入ってきて、担架に乗せされ運び出されていくかよちゃんをクラスのみんなで窓越しに見送った。
クラス内に飛び交う情報をまとめるとこういうことになる。かよちゃんは体重預かりサービスに体重を預けた直後顔色が悪くなり血を吐いた。
体重預かりサービスを使っていたことはスマートフォンの画面を見るからに事実だ。しかし、体重を預けるぐらいでどうして血を吐くのか全く想像できない。そもそもどこか身体に異常があったのではないかと疑ってしまう。
やがて昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、授業が始まる頃にはみんなかよちゃんのことは忘れていた。そして、何事もなく午後の授業は消化されていった。
帰りのホームルームの時担任の先生からかよちゃんについて報告があった。急性胃粘膜病変、俗にいう急性胃潰瘍、で吐血に至ったということだった。これで体重預かりサービスのせいではないということがわかったので一安心。でも、胃に穴が開くと聞くだけで何だか私までお腹が痛くなってしまう。ホームルーム終了後私は担任の先生にかよちゃんについて聞いた。
「先生、かよちゃんスマフォ忘れていったみたいなんでお見舞いついでに届けてあげたいんですけど、どこの病院に入院しています?」
「それが、俺も聞いてなくてさ。教頭なら知ってると思うから悪いけど職員室まできてくれる?」
「わかりました。帰る準備してからいきますね」
一人で行くにも話題不足なので私は香織に声をかけた。香織も心配だったらしく二つ返事でOKを貰らい二人で職員室まで足を運んだ。
「失礼しまーす」
職員室の扉をガラガラとあけながら一声かけた。
雑談にふけっている先生や仕事をこなしている先生を横目に私たちは教頭先生のデスクまで足を進めた。
「あの、田沢かよさんのことなんですけど」
明らかにめんどくさいなといった顔をした教頭が見ていた資料から顔を上げた。
「スマートフォンを教室に忘れていたみたいなので届けてあげたいんです。入院している病院教えて貰えないですか」
結構大き目のため息をつき引き出しの中を教頭はあさりだした。学校に携帯なんかどうとか、救急車がどうとか、マスコミがどうとかぶつぶつ言っていたが全て聞こえないふりをした。
「一度しか言いませんよ」
教頭はメモに目を落とし内容を読みだした。
「大川総合病院B棟四階です。病室については病院の受付で聞いてください」
教頭が放っている負のオーラが凄まじかったので、ありがとうございますと一言言い残すと足早に職員室を後にした。
「教頭あんなにイライラしてたら生え際更に後退するよね」
香織がバスの時刻表を検索しながら放った発言に思わず笑ってしまった。
「それ言えてる!」
私たちはバス停にいた他のクラスメイトにお見舞いの件を相談し、結果5人で病院に行くことになった。話は終始教頭の頭皮の話題から変わることなく私はふとパパや雅也の頭皮が心配になった。でも、そういえばおじいちゃんも今でもフサフサなのでその心配は余計なお世話だなと窓の外に捨てておいた。
揺られること十数分、私たちはかよちゃんが入院してる総合病院についた。
頭皮に元気を!
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