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冬の話

「……帰ることになった」


 宇宙船の修理が完了したと同時に、そのはなしを聞いたのは雪の降り積もる、ある寒い日のことだった。

 こたつに入ってみかんを食べていた、そんななんでもない日常だった。


「……帰っちゃうの?」

「うん。宇宙船も直ったし。ずっとここにいるのも悪いでしょ」

「いいや」


 私は首を振る。


「そんなことないよ。別にいつまでだって、ここにいてもいいのよ」

「それはダメだよ。僕と種族も生まれた星も違うんだ。ずっと居続けるのはよくない」


 なんでよ。

 私は気が付けば、そうつぶやいていた。

 今までの思い出はなんだっていうの?











 春に初めて出会ったとき、まだあどけない少年の表情がとても眩しかった。

 文字を教えてあげたとき、平仮名を見て真剣に悩む少年の表情を見て楽しかった。








 夏に海に行ったとき、少年と一緒に海水浴できたことはとてもよかった。かき氷を食べて、一緒に頭を痛くして、スイカ割りをして……あれほど楽しい海水浴というのも、本当に久しぶりだった。










 秋には焼き芋を食べた。食欲の秋、読書の秋。その頃にはもう少年も地球人らしくなっていて。









 そんな――そんな、今までの楽しかった、様々な思い出はどうなるというのだろう。


「僕も辛いことだけど」

「私だって辛いよ。だって――」



 ――君のことが、好きなんだから。



 私はその言葉を言ったあと、すごい身体が熱かった。自分の身体ではないくらいに、熱かった。

 少年はそれを聞いてクスリと微笑む。


「……あーあ、言っちゃった。そして、僕はそれを聞いちゃった」


 そう言って、少年は近づいて、私の前に立った。

 少年と私の身長は頭一つ分くらいの差がある。だから少年の頭がちょうど私の胸あたりにくる感じだ。

 少年は私の顔を見て、目を瞑った。


「……それって、どういうこと?」

「それを言わせるんですか……今この状況で?」


 顔を赤らめて言う少年は、とても可愛かった。

 ああ、お持ち帰りしたいレベルだ。

 あ、でも今ここにいるんだっけ。

 そんなことを思いながら、私は少年と口づけを交わした。




「……ねえねえ、それでそのふたりはどうなったの?」


 私の話を聞いていた少女は、私にその続きをせがむ。

 私は、それを聞いて、小さく笑った。


「それは今、あなたの目の前の世界のことよ」


 私はそう言って、彼女の、父親譲りの艶やかな金色の髪を優しく撫でた。




終わり

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