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秋の話

 夏が終わり、秋になった。


「秋と言えばー?」

「読書の秋ー!」


 少年は本を読みながら、いう。

 私はそれに指を振った。


「ちっちっち。違うね。まったく違うよ。正解は……『食欲の秋』でしたー!」


 少年がずっこけるような仕草をするのを見て、ああすっかり人間らしくなったなあとか思いながら私は少年にあるものを差し出した。

 新聞紙で包められたそれは、買ってきたばかりなのでとても熱い。


「あ、あちちっ! あついよっ!」


 少年はそう言いながら、それをテーブルの上に置いた。


「それ、なんだと思う?」

「『ヤキイモ』でしょ。テレビでやってたよ」

「ご明察」


 そう言って私は少年の隣に腰掛けて、新聞紙を取り外していった。

 すると中からほくほくに焼けたさつまいもが姿を現した。


「ほれほれ。美味しそうでしょう~?」


 半分で割った、その中には金色に輝く芋が見える。

 それを見て、少年は涎を垂らしていた。うんうん、このたまらなさが解るのなら、地球人らしくなってきたってものだ。

 少年は焼き芋を一口頬張った。

 けれどまだ暑かったのか、ハフハフと言いながら、食べていた。


「どう、美味しいでしょ?」


 飲み込んだのを確認して、私は言った。

 少年は笑顔で、ただ頷いた。



「そういえばもう半年になるんだねえ……」


 少年の宇宙船がここに落ちてきて、もう半年になる。その間に物書きを教えて、海に連れて行って、いろんなものを食べた。

 いろんな思い出を作った、そのどれもが楽しかった。

 だけど、徐々にこんなことも思い始めた。



 ――もしかしたら、もうすぐ少年は元の惑星に帰ってしまうのではないか、ということを、だ。



 帰ってしまうのは嫌なことだ。とても辛いことだ。

 だけど、私はそれを直接少年に訊くことはできなかった。

 怖かったからだ。

 少年と会えなくなることに、気が付けば恐れていたのだ。

 自分は少年と、僅か半年の間しか暮らしていない。にもかかわらず、これほどまでに私は少年に依存していたのだ。


「……秋、かあ」


 そういうと、部屋に風が通った。その風は少し肌寒い。

 冬が、もうすぐそこまで迫っていた。冬が来たら、別に少年と離れると決まったわけでもないのに、私はなんだか寂しくなってしまった。


「ねえ」

「……?」


 私は、少年に言った。


「もし、あなたがすぐにでも帰れるようになったらどうする?」


 少年は首を傾げる。


「今はこっちが楽しいかな」


 そう、笑顔で答えた。

 その答えはとても嬉しかった。

 嬉しかったからこそ、悲しかった。


「いつになっても、ずっと、ずっと……ここに居るのか、流石にそれは解らないけれど……それでも今はここにいるよ」


 少年は、そう言ってくれた。

 とても、とても嬉しかった。

 冬の足音が、その日は私の耳にも届いたような、気がした。


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